適材適所は人材だけでなく方法もそう
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、8/1の20時です。
ジュニア文庫4巻発売記念SSをお送りいたします。
「出来なくはないと思うぜ?」
ぽりっと頬を掻きつつラシードさんが言う。
その膝には何でかしゃてーと人参タイプのマンドラゴラ・めぎょ姫が乗ってるんだけど。
大根先生が美奈子先生のところに資料の複製をもって出かけて行ったあとすぐ、ブラダマンテさんが来てくれた。
エリーゼに頼んだ手紙にことのあらましは書いておいたんだけど、思ったとおり呪いにかかった人には一定蔦模様の痣が浮き出るそうだ。
一定というのは呪いにも段階というか、程度の大小があって、解呪が難しいものや命に係わるものに蔦模様の痣が呪われた証として浮くんだって。
雪樹の一族に関する諍いで神々に呪われたラシードさんの次兄・ザーヒルは、呪いとして最上級の物を食らったから、まるで生きているかのように拍動する赤黒い蔦の痣が出た。
つまりルマーニュ王国で流行っている病で浮き出る痣は、呪いとしてはかなりの物ということ。
それで緊急に菊乃井全体会議を招集して今ここ。
マンドラゴラ達が病人の看病を自分達に任せてほしいと言ってると話をしたところ、ラシードさんの反応がこうだった。
「マンドラゴラ達には人間の病気はうつらないらしいし、ここのマンドラゴラはある程度訓練されてるだろ?」
「訓練?」
首を捻ったルイさんに、ラシードさんが頷く。
「うん。源三さんの畑を手伝ったり、メイドさん達の手伝いしたり。そういうことが出来るんだから、看病も出来るさ。あとはどれだけ病人と意思の疎通が出来るかってとこが気にかかるくらいかな?」
ラシードさんは「なー?」と膝の上のめぎょ姫としゃてーに話しかける。
「それに」とラシードさんが続ける。
「なんかしゃてーの葉っぱを食べたから、病気に強いっていう能力も手に入れたらしいぜ?」
「しゃてーの葉っぱを……?」
なんのこっちゃ?
私がそういう顔をしているのを見て、ラシードさんは肩をすくめた。
「ああ。なんかアンジェちゃんにド突かれ改心したしゃてーが、その証明のために差し出したんだってさ。そんで今マンドラゴラ村にいる住人は皆、かなり病気に強くなってるんだって。めぎょちんがめぎょめぎょ説明してくれた」
めぎょちん。
呼ばれたことが分かったのか、しゃてーが照れたように頭を掻き、めぎょ姫が着ているドレスの裾をもってカーテシーっぽい動きを見せる。
どうもめぎょ姫はラシードさんが好きっぽい。暇があったらラシードさんの後ろを付いて回ってるらしい。源三さんが言ってた。
そんで会議に参加してるのは、めぎょ姫が私に話したいことがあるからってマンドラゴラ村を代表してラシードくんに頼んだそうな。
ござる丸はなんか気になることがあるって、タラちゃんとお城の奥に消えていった。
「じゃあ、看護要員としては考えられるってことだな」
「そうですね。非常事態にはそれも視野に入れるべきかと」
ローランさんとルイさんはラシードさんに同意みたい。
ただやっぱり患者との意思の疎通に関してはちょっと考えないといけない。
それと患者のほとんどはマンドラゴラと交流がないから、その辺の感情を考慮に入れないと。
菊乃井では私が魔物使いであること、実際にタラちゃんやござる丸が領のために頑張ってくれている姿を見ていることもあって、領民の間にモンスターに対する恐怖心があまりない。勿論それは菊乃井の町にいる魔物だけで、ダンジョンや野生の魔物に関しては相変わらず怖がってる。
だけどそういった人に使役されている魔物と関わりの薄い人達が、マンドラゴラの看病を受け入れられるとは思えない。さて……。
話題が話題だけに、皆ちょっと口が重い。
しかし意を決したようにブラダマンテさんが手を挙げた。
「もしもその病に罹患した人が現れたら、私を看護要員に回していただけませんか?」
ぎょっとする。
私もローランさんもラシードさんも、普段滅多なことでは顔色を変えないルイさんですら。
ローランさんがブラダマンテさんを止める。
「コイツは魔力が強いとか量が多いってやつが罹ると、たちまち悪くなっちまうんだろ? 疑似エリクサーがあるにせよ、聖女様にやらせるなんてとんでもねぇよ」
厳めしい顔を更に強張らせるローランさんだけど、ブラダマンテさんは穏やかに「ご心配いただいて、ありがとうございます」と仄かに笑む。
「たしかに魔力が強いとか多いと危ないんでしょうが、それ以前に私には艶陽公主様の大いなるご加護があります。神様のご加護の前に、人の作った呪いなど効きません。それに彼の姫神様は生命を司るお方です。病など如何ほどのこともありません。それは鳳蝶様も御存じでしょう?」
「そうなんですけど……」
そうなんだけど、そのご加護があるからっていうのを理由に看病をお願いするのは正直モヤる。
だって呪い自体は無効に出来ても感冒はやっぱり感冒なんだ。それもどこまでが呪いのせいで、何処までが感冒自体の毒性とか症状なのかも解ってない。
そんな未知の病気に軽々しく「加護があるから大丈夫ですよね?」なんて言えるわけがないじゃん。
指をいじいじと動かしていると、ブラダマンテさんが笑みを絶やさぬまま頷く。
「案じてくださるのは嬉しく思います。でも私も人の世の安寧を祈るために巫女になった者です。病に苦しむ人の助けになれない方が、自分が病に罹るより苦しい。それにこのときのための疑似エリクサーでございましょう? 私が病に倒れたときは、必ずその疑似エリクサーが救ってくれると信じています。大丈夫、決して無理は致しません。それはお約束いたします」
桃色の髪を揺らして、ブラダマンテさんが頭を下げる。
なんて答えていいか迷っていると、ラシードさんの膝にいるめぎょ姫がめぎょめぎょ鳴き出した。
「えー、あー……なるほど?」
「なんて言ってるの?」
「うん。看病自体は自分達がするから、ブラダマンテさんは自分達の指揮と患者さんがどうしてほしいのかの確認をしてほしいって。人が一人いたら、きっと外から来た人も安心するだろうからってさ」
ラシードさんを通じてめぎょ姫が話したかったことっていうのは、恐らくこれだろう。めぎょ姫の提案に対して、ブラダマンテさんは「いい考えだと思います」って同意を示す。
するとルイさんが挙手した。
「病室に遠距離映像通信用の画面を設置して、街の医師や大賢者様の研究室と繋ぐのはどうでしょう? 看病はやはりブラダマンテさんやマンドラゴラ中心になるでしょうが、逐次急変や不測の事態に備えられるかと」
「そうですね。それなら解呪も遠距離でも一度にやってしまえるでしょうし」
ルイさんの提案を受け入れると、ローランさんとラシードさんが「解呪?」と首を捻る。
それに朗らかながらもブラダマンテさんがそっと目を逸らした。
説明しておかないとな。
「この病の根本にあるものが呪いであれば、それを解呪した方が治りは早いし重症化も止められると考えます。なので解呪は必須。その解呪は私の担当になるので」
「え? でもブラダマンテさんが現場にいくんだろ? じゃあ、それで解呪してもらえるんじゃ……?」
至極もっともな疑問なんだけど、ちょっと問題があって。
ブラダマンテさんの視線が明後日から戻ってこない。
私もちょっとローランさんとラシードさんから視線を逸らす。
「えぇっと、その、ブラダマンテさんは解呪より破邪の方がお得意なんだよ。それで私が解呪するほうが効率よくて……」
「うん? 破邪の魔術って呪いも跳ね除けるんじゃなかったっけ?」
「あー……えー……ブラダマンテさんの破邪ってグーパンだから……」
ローランさんとラシードさんの顔が固まる中、ルイさんは涼しい顔でお茶を飲んでいた。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




