いないのに存在感はある
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、7/19です。
知名度というか信仰を獲得すればなんとか再生できるかもって仮説が正しいとして。
ウイラさん達みたいにいかないのは、神様の落ちた原因を宣伝して信仰を取り戻そうにも、それをやるとエルフが何をしたのかを宣伝することになる。
エルフがヘイトを稼げば、その主神である世界樹の神様も悪神としての良くない信仰が生まれてしまう。
それを防ぐにはエルフ自身のイメージアップをやらないといけないんだよ。
かつてこんなことがあったけど今は反省して、他種族とも融和を図っています的な。
だけど実際やってることは他種族を差別し、自分の里に閉じこもるだけ。
なるほど、放置しろって仰るわけだ。
解決法に一番近くても、それが使えない状況にある。詰み、だ。
いや、だけどうちの領は先生方にお世話になってるんだ、諦めてたまるか。
何処かに必ず抜け道というか、蜘蛛の糸みたいなものがあるはずなんだ。考えろ。
だって世界樹の精霊本人が動き出したっていうじゃん。
精霊っていうのは本来話せないし、見えない存在だ。見えない話せないでは自身をアピールできない。それでも何か方法があるから、世界樹の精霊本人が動き出したんだ。それが何か解かれば……。
『ロマノフ卿達はなんと言ってるんだ?』
画面の向こうから、静かに統理殿下の声が降ってくる。
その隣に並んだシオン殿下も、凄く複雑そうな顔だ。
「先生方は『一先ずこの話はこちらで引き取らせてほしい』と」
『そうだろうな。解決法があった、しかしその方法では無理かもしれないというのは厳しい話だ』
『世界樹の神様が堕ちた原因を話さないで、そういう神様がいたんだというのを知らしめるとかは?』
「後で堕ちた原因が分かったときに信仰がマイナスになりかねない。それでまた信仰が消えて堕ちでもしたら、今度こそ消滅ですよ」
朝ご飯の後、私はすぐに帝都の皇子殿下方に連絡を取ったんだよね。
緊急連絡、大至急会談を!
そんな感じ。
それで昨夜氷輪様からお聞きしたことを殿下方にお話してるわけだけど。
三人寄っても名案なんか湧かないし、出てくるのはため息ばっかりだ。
「恐らくですけど、祖神様はエルフが率先して他の種族と交わり、過去の自分達の所業を反省し真摯に向き合うことで、違う種族の人達から赦しを得て、結果他種族からも世界樹の神様への信仰心を取り戻せるというような仕組みを考えたんじゃないかと思うんです」
『けど、今のエルフはそれと真逆のことをしている。だから呪いが進行して弱体化も進行している……と?』
「そう考えるのが妥当かな、と」
『罰と赦しがセットであるなら、それもありかな……』
ただ、これだけしか方法がないわけじゃないと思うんだよね。
だって世界樹の精霊さん本人が動きだしたって言うんだもん。
精霊って基本姿は見えないし話せないもんなんだよ。
レグルスくんのポシェットのピヨちゃんとか、私の腰の夢幻の王とか、識さんの中にいるエラトマとアレティの二対一組で構成されるフェスク・ヴドラって武器が異様なんだ。
だから何処かに抜け穴、いや、私達の盲点になってる救済法があるはずで。
でもそれが今思いつかないから、三人で面つき合わせてうんうん唸ってるわけだ。
レグルスくんは今日は奏くんや紡くんやアンジェちゃんと冒険者の階級を上げるために、依頼を受けに行ってる。
一緒に皇子殿下達とお話するって言ってくれたんだけど、アンジェちゃんとシエルさんの親御さんのことも気にかかる。
なのでレグルスくんにアンジェちゃんの様子や、町の様子を見てきてもらうことにしたんだよね。
どっちも大事なことだから、アンジェちゃんはレグルスくんに託す。
そう説明すると、レグルスくんは凄くきりっとした顔で「わかった! おれにまかせて!」って言ってくれた。頼もしい限りだよ。
ぐりぐりとこめかみを揉む。
ここと眉間は眼精疲労のツボだったよな、たしか。
考えが上手くまとまらないせいか、思考が流れていく。
皇子殿下方もそうだったんだろう。
パンッと大きく手を打って、統理殿下が話を変えると仰った。
『ルマーニュ王国の流行病のことだが、特徴が解ってきた』
「氷輪様は貴族などの支配者階級に死者が多くなってきたと仰っていましたが」
『うん。調べたいところだがルマーニュ王国が中々正確な死者数を出さない。それでも例年より貴族の家の葬式が多いと、外交官の報告にはあった』
頷く。
死者数を出さないのは正確な数字が出せないのか調べていないのか、それとも不都合な何かが発覚するのを恐れているのか。
そのいずれでも国家としては問題なんじゃないかな?
口には出さないけど、シオン殿下も統理殿下もそうお考えなんだろう。凄く眉間に深いしわが刻まれてる。
それでも病の特徴を伝えてくるだけましなのかと思いきや、違うそうで。
『うちの外交官がギルドに頼んで調べ上げた』
「えー……そこまでなんですか?」
『正式なルートに言っても「現在調査中」だそうだ』
「あり得ない……!」
『あり得るんだよね、あの国は』
統理殿下もシオン殿下も呆れ気味というか、もはや遠い目だ。私の目だって淀むわ。
画面の向こうでシオン殿下が近くの机に手を伸ばす。そこに置いてある封筒を手に取ると、シオン殿下はそれを統理殿下に渡した。
かさりと乾いた音で封筒の中の手紙が開かれる。その書面に目を落とすと、わずかにその秀麗な顔を歪めた。
『症状だが特徴としては風邪と同じものが出る。咳に鼻水、くしゃみだな』
「熱も高くなると聞きましたが?」
『ああ、高熱が出る。症状が軽いものでも二日は高熱が出て、重症になると高熱が何日も続く。身体の節々も痛むそうだ』
「毎年流行るものと似ていますが……」
『そうだな。だからいつもの感冒か、この流行り病なのかの区別が中々出来ないらしい』
そうなんだよな。
いつもの感冒と似ているからどちらか判断に迷っているうちに、症状が悪化するか治ってしまうかのどちらかになる。
そういえば死者数が把握しにくいのは、この辺りの事情がほんの少しあるんだったか。
しかしそれでも例年流行る感冒と、今回の流行り病を区別する術はあるんだ。
「結構な特徴があるんですよね、流行り病のほう」
『報告には全身に蔦が這うような痣が出るそうだが……』
「例年の感冒はそんな痣は出ない。件の病に関しては重症になればなるほど痣が濃くなるんですよね」
統理殿下の目が、胡散臭げに私に向けられる。シオン殿下もジト目だ。
言いたいことは解るよ。
『……何で、それを知ってる?』
「え? うちの諜報部がそう報告してきたからですね。ついでにその痣は初期は出ないし、二日で熱が下がっても忘れたころに痣が浮いてきたりするんでしたっけ」
『そこまで知ってるのか。いや、知ってるなら報告してくれよ』
「今日、机の上に置かれてたんですよ」
『何が?』
「私の母の従僕からのご機嫌伺いのお手紙と一緒に報告書が!」
書類を雑巾を摘まむように皇子殿下方にお見せする。
その扱いに、二人が一瞬私に何とも言えない目を向けたけど、こればっかりは仕方ないんだ。
っていうか、アイツなんなの?
今ルマーニュ王国の某公爵の家に監禁されてる象牙の斜塔の長の近況――わりと元気だし、流行り病には全然感染してない――を伝えて来てさ。
アイツ、ルマーニュ王国から結構遠い所にいるんですけど? 母の世話のためにアイツと一緒に療養所にいってくれてる帝都の旧メイド長からは、アイツ一歩も外に出てないっぽいって報告されてるんですけど?
その不気味さに身震いしていると「さすがとんでも菊乃井家」って聞こえたんだけど、気のせいだよね?
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




