やるかやらざるかの前に、正解かどうかも解らない
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、7/15です。
ガタガタッと食卓の椅子が鳴る。
普段私が何を言おうとも、椅子をガタガタ揺らすほどの動揺を見せたことがない大根先生含むエルフ四人衆とはとは思えない動揺ぶり。
それに加えてロッテンマイヤーさんが「まあ!」なんて大声を出したから、私もレグルスくんも、普段一番驚くところでは派手なリアクションをしてくれる宇都宮さんも冷静になれた。
氷輪様のお話を聞いた翌日の朝ご飯。
焼き立て胡桃デニッシュに、干しブドウを入れたサラダ、それから厚切りハムのソテー、さつまいものポタージュ。めっちゃ美味しいんで、レグルスくんは早速ポタージュと厚切りハムのソテーをお代わりしてる。
なんでこんなに一部阿鼻叫喚になっているかといえば、昨夜の氷輪様から聞いたお話をしたからで。
エルフに対してはもう別段お怒りじゃない。というか、それほど関心がない。
弱体化っていう呪いはたしかに罰としてエルフ全体に降りかかってるけど、それをどうにかする方法はもう準備されている。今日のエルフ弱体化は、その方法に気が付かないエルフが自らの首を真綿で絞めているだけ。
実際その方法が解っている世界樹の精霊は、自分で自分の状況を何とかするべく活動し始めた。
総評、エルフなにやってんねん?(意訳)
まあ、こういう。
ここまで流石に開けっぴろげに言いはしなかったけど、隠したってそれはそれで先生達に失礼な話だと思うから、なるべくありのまま伝えたんだけど。
「無作法でしたね」
「いえいえ、驚きますよね」
落ち着いたのか先生方がゆったりと席に座りなおされ、ロッテンマイヤーさんも「失礼いたしました」と頭を下げる。
それに対しては、そういうリアクションになるよなー、と。
なので別に失礼も無礼も何もないですって頷いておくと、空気が少し軽くなった。
「……その、ボク達も罪の話までは聞いたことがあるんだよ」
「うん。僕らの先祖はその世界樹の神様の加護を受けてたって。より正確に言えば、命と魔力を捧げた世代の子世代だって。だけど救済法があったなんて……!」
ラーラさんとヴィクトルさんの言葉に頷けば、レグルスくんも神妙に頷く。お口にデニッシュが入ってハムスターみたい。ひよこちゃんだけどハムスターみたいに可愛い。流石レグルスくん。
先生達の話によると、氷輪様のお話のとおり、先生達の御先祖様の親世代から上はその神罰執行時に一部を除いてほぼ全員お亡くなりになったらしい。
ただ亡くなり方が、世界樹の神様に命と魔力を捧げたか、世界樹の神様を殺すのに加担したかで、大分意味が違ってるとか。
先生達やソーニャさん、大根先生、ナジェズダさんは世界樹に命と魔力を捧げて亡くなった方々の子孫だから、僅かに世界に残った世界樹の神様のご加護に救われて神罰の効果がかなり薄まってる。
でも現在里の大半を占めているのは、世界樹の神様のお心を直接殺す側に回った人達と、傍観して間接的に神殺しに加担した人達のご子孫だそうな。
なので種族間・世代間格差がひどい。
因みに世界各地のエルフは、本来先生方の里のエルフだったんだそうだけど、この神罰の一件から袂を分かって散っていった同族なんだって。
キリルさんの先祖も夏に出会ったファルークさんの先祖も、元は同郷ということになる。
他の大陸にも先生達のように呪いが薄いエルフの一族がいるみたいだけど、あんまりそこも交流がないみたい。
それは結局のところ、世界樹の神様をお助けできなかった自分達の不甲斐なさに失望しているのと、同族達と滅びることが罪の償いみたいに思ってるから。
でも先生達はちょっと違うみたいで。
「私達は、仲良くなった人達と同じように生き、同じように死にたいというだけといいますか」
「あまり長生きして置いてかれるばっかりも寂しいし」
「うん。人間を見てると、生きるって長さじゃないって思うんだよね」
「長いなりに良いこともあるが、色々思うこともあるものさ」
先生方皆、そのお顔には苦笑いを刻んでる。
大根先生はちょっと解んないけど、先生達ってエルフでは若い方なんだよね。それでそんなこと言われたらちょっと辛い。っていうか、一回死んでる身だから思うんだけど、自分が死んでも後を任せられる人がいたり、偲んでくれる人がいるってさ。寂しさと心配からは解放されるんだよね。
前世の「俺」の悔みは、前世の両親に何も遺すことなく、彼らを看取ることも叶わなかったことだしな。物凄く心配。せめて「田中」が両親をちょくちょく見舞ってくれてたらいいんだけどな。
……いかん、思考が逸れた。
それはそれとして、だ。
「罰を与えたら救済も一セットだそうなので、エルフにも既に救済の方は与えられているそうです。救済する気がないのであれば、その時に絶滅なので。でも……」
「方法に気が付いていないというか、悔い改めてないですからね」
しれっとロマノフ先生が言う。
うーん、それなんだよな。今度似たようなことがあったら絶滅必至だし、そうでなくても滅びに向かってる。
神様って結構寛容な方々だと思うんだよ。だって眷属が絶滅に至らしめられても、人間や魔族やらその他の種族を報復に絶滅に至らしめたりなさらないもん。
エルフは真実神殺しをなしちゃったわけだけど、神様は本来死も何もなく、神様としての資格をなくしたときに「死んだ」という扱いになる。
実際、世界樹の神様も神様の資格はなくしちゃったけど、完全消滅はしてなくて大精霊として魂の一部は残ってるんだ。残ってるからには、そこから再生とか出来ないもんだろうか……?
そこまで考えて、ハッとする。
もしかして、私が一番近いところにいるってそういうことか?
グルグルと思考の渦が出来る。
私が考えている方法が正しかったとして、それってどうやればいいんだ?
だって状況が違い過ぎる。
あの方々は元々人々のために立ち上がった英雄だ。なしたのは人に害を与える魔物の退治で、乱獲とか一方的に虐げたとかじゃない。
英雄の英雄たる部分を宣伝することは容易いんだ。皆英雄譚好きだしね。
だけど世界樹の神様に関していうと、被害者なんだけど、被害者だからこそ、そこを強調するとエルフへのヘイトを稼いでしまって、結果悪循環が起こる可能性がある。
だって旧火神教団粛清の真の理由は、彼らがヘイトを稼ぎまくったお蔭でその主神たるイシュト様にもヘイトが向いて、結果イシュト様が本当に悪神だの邪神だのになってしまわれる可能性が出てきたからだ。
どうしろと?
眉間を揉みつつ、行儀悪いんだけど天井を見上げる。
いや、どうしろもなにも放置一択でいいって氷輪様に言われてた。
それって今の段階で私が手出し出来ることがないって意味だろうな、恐らく。
でも、まあ、思いついたことを共有しておこうか。
テーブルの上に水をたっぷり入れたグラスがあって、それを手に取ると一口。冷たい、落ち着く。
ほっと一息つくと、レグルスくんが私を見ていた。
「あにうえ、なにかおもいついたの?」
「思いついたっていうか、もしかしたらこれかなぁ……みたいな?」
「あにうえがいちばんかいけつほうにちかいんだよね……?」
「うん、そうみたい」
他に方法がないかは色々調べないといけないだろけど。
取り合えず思いついたのは一つ。
「神様って信仰心でお力が増したり、減ったりするんですよね? 世界樹の神様が大精霊まで力を落とされたなら、神様に復帰できるくらいの信仰を集めればいいのでは?」
「ちからをふやすの? それって、かげきだんでこんどミュージカルにするおはなしとおなじこと……?」
「私が解決法の一番近いところにいるっていえば、それぐらいかなって」
でもウイラさん達と同じ方法は取れない。
それが問題だ。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




