言わなくていいことは黙ってる主義、なお聞かれたら話す
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だけど実際、私や皇子殿下方がソーニャさんにそういう打算めいたものがあると思うかっていうと、これは違う。
仮にソーニャさんに打算があったとしても、政に携わる人間として情に流されないだけの覚悟はあるんだ。もしもエルフと自分の治める民を天秤にかけなきゃいけなくなったとしたら、どちらを選ぶかは決まり切っている。
私達がソーニャさんに応えることがあるとするなら、エルフと人間を天秤にかけなきゃいけない事態にならないようにすることだ。
ソーニャさんが望むのも、多分こっち。
でないとエルフの庇護者になるだろう帝国が早々無くなっちゃう。帝国が続く限り、エルフとの友誼が保てればいい。
ソーニャさんも先生も、そのくらいなんじゃないかな。
だって私達人間にどれだけソーニャさんや先生が働きかけても、エルフの里が人間との相互理解を拒んでる。一方通行の関係なんかそう続かないよ。
「案外、こういうことを口にしないのは煩く口を出す何とか公爵みたいな人がいるからでは?」
『だろうな。ソーニャ様がエルフのために帝国の権力を利用しようと~とか。芸がないんだよ』
『未来はともかく過去・現在においてはまだエルフのほうが大多数の人間より、生物としての存在が強いんだよ。エルフ側のメリットがないのにね』
統理殿下とシオン殿下が揃って呆れたような表情を見せる。
一方で私はちょっとどうかな~と思ったり。
「エルフが弱体化してるとすれば、それを理由にそういう人は従属を迫るんじゃないですかね」
将来守ってやるからこっちに従え、とか言い出すんだ。
私の言葉に皇子殿下方は「まさか」っていう顔をしかけて止めた。可能性を一つ、思い出したからだろう。
『お前と空飛ぶ城の力を当てにして、か?』
統理殿下が不愉快そうに眉を上げたのは、私の言葉が不愉快だったからじゃない。某出仕停止公爵なら言い出しかねないと考えたからだろう。
空飛ぶ城に対する調査研究は大根先生とそのお弟子さんがちょいちょい進めてくれてる。その中ですっごい怖いことが解ってきたんだけど、この城、なんと山一つ吹っ飛ばすほどの威力の魔術砲台を三門ほど備えてて、更にその三門の威力を合わせてとんでもない威力の波動砲が撃てるそうな。そしてその三門全てを私一人の魔力で運用できる。
この城、マジで怖いんだよ。
パッと見は綺麗だし優雅なお城なんだけど、隠されてる武装が調査するごとにポロポロ出て来てさ。
おまけに以前識さんとノエくんが見つけた設計図を基に作られた、暗殺だかなんだか用の魔術人形もまだ見つかってないし。
それだけ大きな力を持って全方向威嚇してたから、レクスはどこにも属さずに自由に居られたんだろう。触らぬ神に祟りなしってね。
ただ私はレクスじゃないし、世情もレクスの時代とは違う。
それも解っているから統理殿下が、眉間を揉みつつ苦い顔を見せた。
『隠すには隠す理由があるということだな。いずれは明かさねばならない話だろうが、今じゃない』
『そうですね。まだ今の帝国には早い話かも。そういうわけだから鳳蝶もレグルスも、この件は他言無用で』
「承知いたしました」
「しょーちいたしました!」
話すメリットがない。
空飛ぶ城が備えた何処かの国を崩せそうな武装に関しても、エルフの弱体化にしても。
ともあれ、この話はこれでおしまい。
重苦しい空気を払うように、統理殿下が話を変えた。
『春の祭りのことなんだが、どうなっている?』
「順調に進んでいますが、正直ちょっと困っています」
『何かあった?』
シオン殿下が唇を引き結ぶ。
その顔には『横槍でも入った?』って書いてあるけど、そういうことじゃない。なので首を横に振ると、思い当たったのかレグルスくんがポンっと手を打った。
「おやどがたりません!」
『え? 宿? 菊乃井、宿なかったか?』
「いや、あるんです。あるんですけど、足りないというか」
まだ春には遠いのに、なんでこんなことが分かっているかというと、情報源は冒険者ギルドだ。
春のお祭りで開催される武闘会の出場希望者はまず最寄りの冒険者ギルドを通じて、出場の申し込みをすることになってる。
けどその数が尋常じゃないくらいになってるそうな。
あまりの出場希望者の多さに、ローランさんが「無理」って虚無顔で報告に来たんだよね。私だって目が淀んだ。
ましてお祭りは武闘会だけじゃなく、なんでも市や菊乃井歌劇団の特別公演もある。武闘会出場者だけで宿が埋まりそうなら、それはもう絶対的に数が足りてないってことだ。
お隣のロートリンゲン公爵領のお宿も、庶民価格のところはぼちぼち埋まり始めている。天領から菊乃井家の領地になる予定のアルスターも、宿屋から嬉しいような怖いような悲鳴が上がっているそうだ。
箱を新たに作るには、今少し普段の賑わいが足りない。
さて、どうするか。
最悪武闘会出場者の方は、砦の使用していない兵舎を格安で提供することも考えてるけど……。
「有難い話ではありますが、何だって冒険者の皆さんはこんな一地方の武闘会に来るのに全力出すんですかね……」
『そりゃ菊乃井領だからだろう?』
『この間の冒険者ギルドとの揉め事からこっち、君って無茶苦茶人気あるしね』
「えー……?」
もう問題が過ぎ去ったんだから、自浄作用さえ確保できたなら私のことなんか忘れても構わないのにな。
そうは言っても、アレからまだ一年も経ってないから無理か。
この辺は方々に相談してるんだけど、中々ね。
シオン殿下がこてりと首を横に倒す。
『予選とかすればいいんじゃないの?』
「地方予選をやって菊乃井で予選をしないなんて不公平なことは出来ません。そうなると見どころの半分くらいが菊乃井では予選で終わりますけど」
『ああ、エストレージャと僕らと、ノエシスと識嬢とお前と組んで帝都の武闘会に出た者達が早々に潰し合ってしまうか……』
「そういうことです」
それに各地のギルドはもう率先して出場する冒険者を厳選してくれる向きがあるんだよね。ローランさんが他のギルドのマスターにそういうような話をされたそうだ。
曰く「バーバリアンにエストレージャが出るって解ってるところに、生半可な冒険者パーティーを行かせられない」だそうな。
冒険者頂上決戦とは銘打っていても、所詮は菊乃井領内の話なんだから、そこまでぎっちりしなくていいと思うんだけどね。
画面の向こうで統理殿下が微妙に顔を顰めた。
『まあ、予選会をされると下手すると俺達のせいでブラダマンテ様が予選落ちとかもあり得るしな』
無いとは言えないな、可能性としては。
その辺は他人事だからぼへぇっと聞いていると、シオン殿下と統理殿下が顔を見合わせて私を見てくる。
「何ですか?」
『お前は出ないのか?』
「出るわけないじゃないですか」
『何故? 君も菊乃井領所属の冒険者じゃないか』
「その前に領主ですよ。そうじゃなくても荒事は苦手なんです」
何言ってるか意味が解りません。
そういう顔をして二人を見返すと、統理殿下が今度はレグルスくんに視線を定める。
『レグルスは? お前は出たいんじゃないのか?』
訊ねられたレグルスくんに、シオン殿下もだけど私も視線を注ぐ。
そういえば私、レグルスくんには出たいか聞いたことがないな。出たいって言われても反対するだろうけど。
ちょっとドキドキしながら答えを待っていると、レグルスくんがキョトンとした後にぱっと満面の笑みを浮かべる。
「おれ……わたし? わたしはししょうから『他流試合は止めなされ。今のところ肥やしになりそうなのはおらんから。せめてロマノフ先生やヴィクトル先生、ラーラ先生くらいの猛者なら喜んで許可するんじゃが』っていわれてるから、それならでなくてもいいかなぁって」
おふ、菊乃井最強がここにいたよ。
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