側面の薄暗さも事実の一つには違いない
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次回の更新は、6/28です。
ともあれ竹林院の家名にしても、ルマーニュ王国の病の原因と象牙の斜塔の関係にしても、今のところ私が干渉できることじゃない。
病に関しては疑似エリクサーの生産力を上げることに注力してるんだけど、そのお蔭か何とか菊乃井領の分が揃いつつある。
本当は帝都か梅渓領に回そうかと考えてたんだけど、陛下や宰相閣下から菊乃井を優先するように言われたんだよね。
何故か?
まず梅渓家よりもうちの方がマンドラゴラ研究に一日の長があるし、何より研究者が多い。
うちが病でグダグダになってしまうと、一気に帝国の疫病対策にダメージがいく。それよりはうちでロックダウンのお手本を見せて、疑似エリクサーで食い止めつつ、病の根治の研究をしてくれ。そういうお達しだ。
なので疑似エリクサーは菊乃井の次が梅渓と帝都分という順番で貯えられることになってる。
そうは言ってもこれは領民の分の話だ。
実のところ皇家の方々に宰相閣下、主だった公爵家と辺境伯家、要職についている人々の分の疑似エリクサーは何とか用意できてる。
あとは主要都市、要塞で医療業務に従事する人々の分さえ確保できれば……って感じ。
これもなぁ、問題がないわけじゃないんだ。
菊乃井と梅渓が合同で流行り病の研究をしていることが明らかになったから、便宜を図ってもらおうと色々お手紙などなどが来るんだよ。
まだ手紙ならいいんだけど、プレゼントを贈ってきたりさ。
国家の事業だから私個人に便宜を図る権限なんかないっつーの。分んない人が多いんだよねー。
そういうの纏めて宰相閣下にご報告申し上げてるし、もっと言えば。
『……こういうことをして、国に報告されないと思っているところが度し難いな』
『僕らが連絡を取っていることを知らないにしても、ですよね』
遠距離映像通信魔術用のスクリーンのなかで、皇子殿下二人が苦笑いしてる。
今まで送られてきたお付き合いのない家からのプレゼントは、全部リストアップして現物と一緒に帝都に送ってある。
「みんなおくすりがほしいなら、てつだってくれたらいいのにね?」
「そうなんだよね……」
いや、本当に。
スクリーンに向かい合うように設置した椅子、今日は二つある。
会議にレグルスくんが参加したいって言ったので、許可をもらってレグルスくんも同席しているから。
レグルスくんのこういう真っ直ぐな意見は参考になる。
魔力クラウドファンディングに関しては、帝国から早々に発表された。
心ある人は研究に魔力を提供してください。そうすれば提供された魔力量に応じて、記念品を差し上げます、と。
これで早速乗ってくれたのがロートリンゲン公爵閣下とゾフィー嬢だったんだよ。
今日の朝、ロートリンゲン公爵領からお二方の魔力が籠った魔石が合わせて十個ほど届いた。これでマンドラゴラ一匹の皮と葉っぱが賄える。
因みに記念品はゾフィー嬢の希望で、菊乃井歌劇団の帝都公演を収録した布と菊乃井歌劇団全員のブロマイド一式。
ゾフィー嬢、夏に菊乃井に来たときに団員のブロマイド一式買ってたんだけどな……。
そういえばこの春のお祭りに合わせて、トレーディングカード要素を取り入れたブロマイドを売り出すらしいけど、もしかしてこっちか?
私が持っていない劇団のグッズが増えて行く。羨ましい、私もほしい。
皇子殿下方や皇帝陛下、妃殿下からも魔石は届いてるんだけど、そっちはちょっと保留だ。皇族専用マンドラゴラを作るつもりでいるから。
別に皇族の皆様方はそういうことを気にされないのに、形式とか格式に煩い……じゃなく、伝統を重んじる方々がそういうことを気にされるんだよね。
だからマンドラゴラの活きの良さげな子が現れたら、帝都に送って専用マンドラゴラとして育ててもらうことにしている。
ござる丸から株分けしてもいいんだけど、私のところからだとやっぱり煩いのが湧く。なので梅渓家からの株分けが望ましい。もっとも、元をただせば梅渓家のマンドラゴラもござる丸からの株分けなんだけど。
私が力を持つことを嫌忌する人達にとっては、誰にそのマンドラゴラが近いかが問題なんであって、何処産かは問題じゃないみたい。アホらしい。
『贈物については、送り主諸共こちらで処分しておく。ご機嫌伺は貴族の常だから、あまり厳しい処分には出来ない。厳重注意くらいが妥当か』
「注意というか個人的なプレゼントなんかより、公明正大に魔力を送ってくれと伝えてくださったら。魔力であれば使い道はありますし、クラファンと同じ処理で記念品もお望みなら贈呈いたしますよ」
『しかし、腹の探り合いが常過ぎて、読まなくていい行間を読んで要らんことをするのは何なんだろうな? まっとうに魔力をくれたらその分早くそっちに疑似エリクサーを回せると言っているのに』
「過去、そういう個人的な贈り物で色々左右された経験がおありなんでは?」
向かい合う統理殿下の眉間に物凄いしわが出来てる。
ひよこちゃんが一生懸命私のおでこを撫でてるから、多分私の眉間も凄いんだろう。
帝国は基本上意下達だ。上がこう個人的な贈り物攻勢に手慣れてるなら、下もそうなんだろう。帝国のお役人さんにも、上下問わず大々的な監査がいるかもしれないね……。
スクリーンの向こうとこちらでため息が二重奏だ。
そこにシオン殿下が「ちょっといいだろうか?」と手を上げる。
『エルフとの同盟の件なんだけど、父上から「真実に辿り着いたようだ」と聞いたんだけれど、どういうこと?』
「ああ、それですか……」
一瞬迷う。
だって今の言い方だと、皇子殿下方にもエルフとの同盟のアレコレはナイショにされてるってことじゃん?
それって軽々に話すような事柄じゃないからでは……。
というか、あの話もう陛下が知ってるってことは、ロマノフ先生が直接話したか、ソーニャさんに伝えたんだな。
言い淀んでいると、統理殿下が顎を擦った。
『代々皇族は幼年学校に入るときに聞かされる話らしいんだが、お前が真実に辿り着いた以上そこまで待たなくていいだろうということになった。折角だからお前から聞いた後で、家に伝わる話をしてくれると父上が言ってる』
「私、そっちの方をお伺いしたいんですけど」
『じゃあ、君の話と交換ということで』
「ああ、はい。えっとレグルスくんも聞いてて大丈夫です?」
『勿論』
皇子殿下方が頷いたのを確認して、私は昨夜のロマノフ先生達とのエルフの能力低下と同盟の話を説明する。
ところどころレグルスくんには分かりにくいところがあったみたいで、質問に答えながら。
「えぇっと、せんせいたちはつよいけど、いまさとにいるエルフさんたちはすごくよわいってこと?」
「多分ね。それでも普通の人よりは強いんじゃないかなぁ。今は、まだ」
「でもおれやあにうえよりよわいんだよね?」
「まあ、そうかなぁ」
だけどそれもあと百年もすればどうなるか解らない。
このまま四方八方嫌われまくってたら、末路は一体どうなるやら。
いや、ロールモデルはある。
「……ノエくんがいってたけど、ドラゴニュートはむかしえらそうにしてて、きらわれてたからこまったときにたすけてもらえなかったって。それでどんどんかずがすくなくなっちゃったんだって」
「エルフが同じようなことにならないとは限らないんだよね。だから人間と同盟……困ったときに助け合うお約束をしたんだと思うんだ」
「そっか」
レグルスくんのおでこにも深いしわが刻まれる。いつも伸ばしてもらっているから、そのお返しにそっとおでこを撫でると、くすぐったかったのか張り詰めていた表情が緩んだ。
スクリーンの向こうの兄弟の強張った表情も、ほんの少しマシになる。
『俺達兄弟も父上も、ソーニャ様には凄く可愛がってもらってる。その人の大事な物を守るために出来ることがあるなら、協力ぐらいは当たり前にするが……』
「情をもって心を縛られているようで、打算の匂いがしますよね」
『そういうことではないのは、付き合いが長いから解るけどな。だが勘繰ってしまうものでもある』
『そうですね。僕らを敵に回さないために可愛がってくれてたのか、と』
「だからこそソーニャさんはその役目を先生方に負わせようとせず、ロマノフ先生も何代にも渡って皇族の家庭教師は勤めないようにしてるんだとは思います」
長く吐いた息は重く薄暗く湿り気を帯びている気がした。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




