ご当地戦隊の活動は領民の皆さんに支えられています?
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次回の更新は、5/24です。
一目散というか、それこそ蜘蛛の子を散らすって感じ。
それまでドヤドヤしてた人達がぱっといなくなるのは、何か凄く不自然。
だけど声をかけようとする人する人、皆「ちょっと用事が~」ですり抜けちゃう。意味が解らない。
困惑していると、がしっと肩が掴まれる。
なので隣を見ると、奏くんが笑顔で私の肩を掴んでいた。
「細かいことは気にすんな!」
「え? 細かくない! これは細かくないよ!?」
「えー?」
「だって今まで人だかりが出来てたのに、一斉にいなくなるって! どう考えても不自然でしょ!?」
ナジェズダさんはきょとんとしつつ、成り行きを見守っている。
レグルスくんと奏くんと紡くん、それからアンジェちゃんはぺたりと笑顔が顔に張り付いていた。そして一人だけ、フィオレさんが視線を泳がしている上に額に汗をかいている。
菊乃井はまだ冬。汗をかくほど暑くはない。
動揺が酷い彼をじっと見ていると、フィオレさんは滝のような汗を流し始めた。これ、絶対何かあるな?
いかに奏くんが手強くて鉄壁でも、フィオレさんという穴が空いている以上そこから突き崩せるはず。
フィオレさんに声をかけようとしたところで、レグルスくんが「に、あにうえ」と私を呼ぶ声が聞こえた。
「どうしたの?」
「あのね、まちのひとたちはひよこファイブのかつやくをみにきてたんだよ」
「へ?」
思わぬ言葉を聞いて、目が点になる。
ひよこファイブってアレでしょ? レグルスくん達がやってるごっこ遊び。弱きを助けて巨悪を挫く、正義の味方のご当地戦隊だ。
それが何でここで出てくるんだろう?
あまりにも意味が解らなくてぽかんとしてると、奏くんがかぱっと笑った。
「やー、おれら時々町中でひよこファイブとして活動してるんだよ。んで、町の人がそれを見物してたりすんの。だからおれとひよさまとつむが揃ってると、ひよこファイブやるのかな~って思うみたい」
「え、えー……?」
「そんで町の人もたまーに人質とかなってる」
つまり、ごっこ遊びに参加してくれてるってことか?
奏くんの目に映る私は、怪訝そうな表情だ。
「え? 悪役とかは?」
「それは色々。冒険者崩れだったり、他所から来た強盗とか。でも先生達が結界張ってるから、よっぽどじゃないと来ないな。魔が差す的な」
「な?」と奏くんがレグルスくんや紡くん、アンジェちゃんに同意を求めた。すると三人が笑顔のままこくこくと首を上下させる。
なるほど、ごっこ遊びはそういう設定でやってるわけだ。
じゃあ、フィオレさんは何であんなに汗をかいてるんだろう?
それに関して尋ねると、フィオレさんはまたも視線を泳がせる。なんかおかしい。まだ何か隠されてる気がする。
「じゃあなんでフィオレさん、あんなに汗をかいてるの? ごっこ遊び見てるんですよ~でいいじゃん」
「そりゃアレだよ。若さま、領地の皆がひよこファイブに協力してるって解ったら『お礼を言わなくちゃ! レグルスくんのこと見守ってくれてるんだよね?』って大袈裟になるじゃん」
「そりゃ、兄としてお礼は言わなきゃ」
「そういうの、かえって困ることがあるんだよ。大体領民皆にお礼を言って回るのかって話になるし」
「それは……」
そんなわけにはいかないか。
いや、レグルスくんのことを見守ってくれてるなら吝かじゃないけども。
言い淀んだところに、奏くんが私の肩をポンポン叩く。
「アレだよ。ちょっと前はひよさまのこと悪くいったこともある人らも、ひよこファイブに協力してたりするんだ。ひよさまのこと、悪く言ったこともあるけど、今はそんな風に思ってないってさ。そういう人らは、若さまにお礼を言われても気まずいんだよ。だからいいんだ。その都度協力してくれた人には、お礼をちゃんと言ってるし。アリス姉が特に丁寧にお礼してるぜ?」
「そうなの?」
レグルスくんや紡くん、アンジェちゃんに尋ねるついでにフィオレさんにも視線をやると、彼が激しく首を上下させた。
それからちょっとバツが悪そうに「すンませン」と頭を下げた。
「そんな謝られることじゃ……!」
「いや、その、俺らご領主様が弟様を大事にしてるって解ってンのに、陰口叩く奴に注意しきれなくて。大人の都合じゃないっすか、弟様が置かれてる立場って。だけど言いたくなる気持ちも分かったもンだから……。でも弟様達のことを見てると、やっぱりそういうのよくねぇなって。ご領主様が後継がれて、景気も治安も良くなって、それって弟様が切っ掛けだし、弟様だってご領主様のために出来ることをやってらっしゃる。その姿を見て、自分達のことを省みることにした奴らもいるンす。なんで、出来る協力はしようって思って……」
「そうだったんですね……」
かつてレグルスくんにアレコレ言った人達がいた、らしい。
その件に関して私は何のリアクションもしなかった。ここで圧力をかけるのは簡単だけど、それをしてしまえばその人は菊乃井に住めなくなる。
此方を明確に攻撃しようとする人間からの敵意と違って、領民の怒りは解消することが出来れば、それは支持へと転向させられるからだ。
領民の怒りは抑圧するのでなく、実績で以て覆す。
それを選択したのは、決して間違いではなかったんだろう。
フィオレさんの姿に大きく息を吐く。
「ご迷惑をおかけしてなくて、皆さん楽しんでくださってるってことだね?」
「そういうこと」
「おれ、菊乃井のへいわのためにがんばるからね!」
「つむもがんばります!」
「アン、わたくしも!」
色々言いたいことも聞きたいこともあるけど、とりあえず飲み込む。だってナジェズダさんの目が潤んでるし。
お客さんの問題を解決しないとね。
そこで私は大きく「宇都宮さーん!!」と声を張り上げた。
「はい! お呼びでしょうか、旦那様!」
「!?」
すとんっと頭上から宇都宮さんが降りてくる。
屋根の上にいたのね……。
今まで下りて来なかったのは、陰の任務を全うしようとしていたからだろう。メイドさんというより、なんだか「死して屍拾うものなし」って感じの仕事だな。
一方、そらから突然現れた宇都宮さんに、フィオレさんがぎょっとする。そりゃそうだよ、空からメイドさんが降って来たんだから。
「宇都宮さん。これからもごっこ遊びで協力してくれた人達には、くれぐれも丁寧にお礼してね?」
「はい、勿論でございます!」
優雅に黒いお仕着せのワンピースの裾を摘まんでお辞儀する。アンジェちゃんも見習って同じポーズをとっているのが可愛い。
ところでレグルスくんも奏くんも紡くんも、宇都宮さんがいきなり現れたことに対してリアクションが無かったな。ナジェズダさんも「メイドさんだったのね~」ってなもんだ。どうも隠密はバレてるみたい。
ごほんと一回咳払い。
それからフィオレさんにお礼を言ってから話題を変える。
「この金貨はちょっと文化財的価値があって、現在の金額が幾らだとかはちょっと解らないですね」
「そうっすよね? あー、じゃあ、ここは俺の奢りで……」
そんなフィオレさんに、ナジェズダさんは首を横に振った。
「いけません。貴方のケーキは軽々しくタダにしていいようなお味ではなかったもの。私にはこの金貨と同じくらいの価値があるように思えます。だから受け取ってくださいな。お釣りはいりませんよ」
「いや、その、金貨の価値が下手するとどこかの領地の半年くらいの予算になるかもしれないので……」
「や、そんな!? 貰えねぇっす!」
私としてはナジェズダさんが払いたいならそれでいいとは思うんだけど、物にはやはり適正な価格っていうのがあると思う。それに正直、そんな文化財的金貨を渡されたところで、フィオレさんに換金できる当てがないなら持ち腐れになっちゃうわけで。
菊乃井には恐らくこの金貨を交換できる存在は……いると言えばいる。けども、それよりいい手があるな。
「あー、はい。じゃあ、こうしましょう。ナジェズダさんのお代は私が出します」
「え? でも……」
「だって取引相手じゃないですか。接待の一環ですね」
にこっと笑うと、ナジェズダさんが「ああ、そういえば?」と呟いた。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




