解らないことだらけのこんな世の中じゃ……!
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この後6時10分に5/1に投稿を開始した作品の更新があります。
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本日のお昼ご飯は何とレグルスくんと二人きりだった。
いつもはどなたかお一人だけでも一緒にご飯を食べるのに、今日は三人揃ってお呼び出しだったらしい。
それもエルフの里から。しかも帝都のソーニャさんも一緒にだそうで。
「ソーニャさんも? えー……?」
「みんなでおうちにかえってるの?」
レグルスくんと顔を見合わせてロッテンマイヤーさんに尋ねると、彼女はほんの少し眉毛を下げた。
「はい。なんでも今帝都にいらっしゃるエルフのお年寄りのことで……と」
「ああ。なんか家出してきた人がいるって言ってたな」
そういえばと、顎を擦るとレグルスくんがこてりと首を傾げた。どうしたのか聞いてみると、家出っていう単語に引っ掛かったらしい。
「そのひと、だれかとけんかしたの?」
「うん?」
「まえにかながいえでしたときは、つむとけんかしたっていってたから」
「ああ、よく覚えてたね」
そうだった。
私達と奏くんの出会いは、紡くんに玩具を壊された奏くんが色々あって源三さん宅に家出してきてたときなんだよね。
あのときレグルスくんの人見知りと、奏くんが「弟」っていう存在に嫌気がさしてて塩対応だったのもあって、ちょっとの間二人は気まずそうにしてたんだ。それも二人で話し合って解決できて、今やすっかり紡くんも交えて仲良くしてる。
とはいえ今回のことはどうだろうな?
ソーニャさんから聞いた話だと、家出してきたエルフさんは Effet・Papillonに協力してくれている人で、今回取り組みの一環で感謝の手紙を書いてくれた魔術師の女の子・シェリーさんを一目見たくて郷から出て来ちゃったらしい。
そんな説明をすると、レグルスくんが難しい顔をする。
「だまってでてきちゃったの? おうちのひと、しんぱいするよ……?」
「そうだねぇ。もしかしたら、先生達やソーニャさんにお家に帰るように説得してっていう話かも」
「でもそうだったら、そのエルフさん、シェリーさんにあえないままかえっちゃうのかな?」
「ああ、そうか。そうなるかも……」
でも人嫌いというか多方面全部嫌って鎖国しているようなエルフの里から出てきた人が、その目的を果たさずに帰るかっていうと、ちょっとどうかな?
だってロマノフ先生達もそうだけど、ソーニャさんも大根先生も、思い立ったら「来ちゃった!」で菊乃井にお出かけしてこられる方々だもの。ひょっとすると……。
そこまで考えて、ロッテンマイヤーさんを見上げる。するとロッテンマイヤーさんはこくっと重々しく頷いた。
「先生方からの御伝言なのですが『来ちゃった!』があるかもしれないので、知らないエルフに町中で出会ったら連絡してください、と」
「わぁ……」
「一応ソーニャ様が、帝都のお家を勝手に出て行かないように釘は刺したとのことですが、その、何分思い込んだらまっしぐらの方だそうで……」
「あー……はい。解りました。奏くんや紡くんや、その他街に出る用事のある人には連絡しておきましょうか」
「はい、そのように手配しております」
「うん、ありがとう」
しかし、だ。
ソーニャさんのお知り合いのご老人って、他のエルフ達が人間や他種族と関わることを良しとしない姿勢に消極的ながらも従っていたはずなのにな。
だけどシェリーさんからの手紙だけで家出しちゃうってことは、実際は一族のありように大きな疑問を持っていたんだろうか?
なら菊乃井に移住してくださって、私としては全然構わないけど。
「ねぇ、にぃ、じゃない、あにうえ」
「うん?」
「そのエルフさん、菊乃井にすんじゃダメなのかな?」
レグルスくんがこてりと首を横に倒す。
「いや、菊乃井にお引っ越ししたいなら私は別に構わないし、町の人も構わないと思うけど。実際どうなのかな?」
概ね、私が知っている町の人……ローランさんや宿屋のフィオレさん、歌劇団のカフェを営む御店主さんは歓迎してるって感じだったけどな。
ちょっと気になって首を傾げると、ロッテンマイヤーさんが仄かに口角を上げた。
「そうで御座いますね、私が知る限り領民は好意的に移住者を受け入れております」
「だよねぇ。揉めたっていう話は聞かないし」
「はい。そういう話は役所の方にも上がっていないとのことです」
だろうな、と思う。
もしも大きな揉め事の気配、特に移住者と先住者の間での揉め事なんかがあれば、必ずルイさんの元に届くし、そこから私のところに届くだろう。
概ね領民が移住者に好意的でなかったら、雪樹の一族の移住に関してもストップがかかるはずだ。
それもないんだし、今のところ上手く融和出来ているとみていい。
けど、それも数が増えてくると変わって来るかもしれないから、注意は必要なんだ。景気が良くて人手が足りないうちは、人口の流入は歓迎される。問題は飽和状態になったとき。
これも課題といえば課題だな。
眉間にシワが寄る。そうなると隣のレグルスくんから手が伸びて来て、私の眉間のしわを伸ばしてくれるんだ。
「あにうえ、れ、おれもいろいろいっしょにかんがえるし、できることはするからね!」
「うん、ありがとう。でも今はお昼ご飯を食べてしまおうか?」
「うん、じゃない、はい!」
レグルスくんは新年の宣言通り、自分を「おれ」と呼び、私を「あにうえ」と呼ぶことにちょっと苦労してる。
ずっと「れー」で「にぃに」だから、急には変えられないよね。言い間違えて訂正するのも可愛いんだけど、一瞬。ほんの一瞬だけ、胸がきゅっとする。
そうならないように努力するし、変えると決めた未来で、私に剣を振り下ろすレグルスくんは、自身を「俺」と呼んでいた。
あの分岐は何処で起こる? 何が原因なんだ?
もうあの未来を受け入れる気はない。絶対に変える。そこに揺らぎはない。ないけども、無いからこそ余計に何がどうしてあの未来になるのかが気になるんだよな……。
とはいえ【千里眼】がこの未来に反応する様子はない。となると、もう問題はなくなったのか、そもそも感知できるほど直近で起こることじゃないのか。うーん、解らん。
ただ【千里眼】も万能ではないから、どうにも。
眉間のしわを伸ばし終わったレグルスくんがニコッと笑う。
「きょうのおひるはなにをするの?」
「えぇっと、オブライエンのお話を聞いてから、レグルスくんとお勉強かな?」
「なごちゃんのくれたアメ、おやつにする?」
「そうだねぇ。貰ったんだから大事に食べないとね」
レグルスくんが楽しそうに笑っている。
とりあえず今はそれでいいや。
ロッテンマイヤーさんは「おやつの件は料理長に伝えておきますね」と穏やかに食卓の準備を進めてくれる。
きっとお茶にはアメを食べても丁度良い感じの何かが出てくるだろう。
嫌なことはさっさと終わらせないとな。
って訳で、レグルスくんと楽しく二人でお昼を終わらせて、気合を入れて午後の政務だ。いや、政務っていうか……いっちょかみか?
執務室兼書斎の、鏡面仕上げになった執務机の上に並べられた報告書に目を通す。
そして大きくため息を吐いた。
「やっぱり動いてましたか……」
「はい」
セバスチャン・オブライエンルートからも、武神山派ルートからも、集まった情報には「象牙の斜塔」の長の側近が、ルマーニュ王国に出向いた旨が記されていて。
「接触したのは王族でなく、公爵家……?」
「はい。この公爵家の夫人が現在ルマーニュ王国で猛威を振るっている感冒に罹ったとのことで」
「では公爵家の牢にいるのは、その側近か……」
「いえ、長本人です」
「は?」
オブライエンの言葉に、目が点になる。
なんでやねん?
意味が解らなくて、私の口からは「は?」という言葉が再度飛び出した。
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