サプライズって必ずしも喜ばれるとは限らない
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本日はジュニア文庫3巻発売記念に、20時にも番外編の更新を行います。
ぷくくくく、あはははは。
凄く賑やかな笑いが部屋一杯に満ちる。
あのあとシュタウフェン公爵は「そうなのだ。そのような関係はお互いのためにならぬと思ってだな……!」と言い訳をし、バーンシュタイン卿は衆人環視のもと「当家は菊乃井侯爵家とはこれにて絶縁致す」と宣言して逃げて行った。お前らの良いようになんてなってやるもんか。
そして今はその騒動を聞きつけてやって来てくれたソーニャさんと皇子殿下方、宰相閣下にロートリンゲン閣下、獅子王閣下に先生方でお茶会だ。
因みにゾフィー嬢は前日お風邪で発熱されたそうで、もう熱は下がってるけど大事をとって、参賀やパーティーはご欠席だそうな。
獅子王閣下の目前で繰り広げられた茶番を、臨場感たっぷりで話してくださるもんだから私の眉間にシワが寄る。
「それにしても、年齢もさることながら、その外見も武器に使えるのは大したもんだよ。あの場にいたほとんどの者が卿の味方だ」
「ありがとうございます」
そこを褒められても嬉しくないけどな。だって餌が欲しい飼い猫の真似だし。
因みに皇子殿下お二人は挨拶を受けながら、シュタウフェン公爵を監視してくれてたそうだ。だけどシュタウフェン公爵の息のかかった貴族たちの挨拶を捌いている間に、シュタウフェン公爵が私に接近するのを許してしまったとか。ソーニャさんと宰相閣下もロートリンゲン閣下も挨拶回りが大変だったみたい。
でも獅子王閣下が私の傍にいてくださったのは、くじ引きのこともあるけど、ロートリンゲン閣下がパーティー前に「頼む!」って言っておいてくれたからなんだって。
「助かったよ、獅子王卿」
「ロートリンゲン卿には何かとお世話になっているから、これくらいは何てことありませんよ」
「陛下もシュタウフェン公爵とバーンシュタイン卿にはご不快であられるよ。そのうち雷が落ちるだろうさ」
ロートリンゲン閣下と獅子王閣下、宰相閣下の言葉に頷く。それだけじゃない。皇子殿下方やソーニャさんも。
ところで三人のお茶会だったはずなのに、なんでこんなに大所帯なんだろう?
遠い目になっていると、ソーニャさんが「そうそう」と何もないはずの空間に開いた穴に手を突っ込んだ。
「これ、あっちゃんに渡そうと思ってたのよ」
「え?」
箱が四つ。一つは小さいけど、後は私が一人で抱えられるかどうかって大きさだ。
「これは?」
「あっちゃん達に誕生日プレゼントよ。一番小さいのはあっちゃんの。その他の大きいのは、れーちゃん達フォルティスメンバーの制服なの。ジャンジャンバリバリ使ってね?」
「ありがとうございます!」
受け取ろうと手を伸ばすと、ロマノフ先生がひょいひょいとソーニャさんが空中に開けた穴と同じモノを作って、そこにプレゼントをしまう。
宰相閣下も笑ってそれを見てたけど、小さな箱を二つ「これを」と差し出された。
「和がな、卿と弟君に『プレゼントをお渡ししたい』といってな」
「ありがとう存じます」
「和が家庭教師の美奈子殿と一緒に作った飴玉でのう。疑似エリクサーのような物でなく、星形の小さな飴玉じゃ」
「私も弟から和嬢へのプレゼントを預かっております」
この服の下には目立たない場所にポケットがいくつかあって、そこはマジックバッグのようになってる。そこから箱をいくつか出したうちの一つを宰相閣下へ、もう一つはソーニャさん、三つは殿下方、後一つをロートリンゲン公爵にお渡しした。
「和嬢には弟に私と友人兄弟が協力して作ったアクセサリーを」
「アクセサリー?」
「はい。ビーズで作った指輪とブレスレットです。小さな子どもが作るような簡単な」
「然様か、ありがとう。和に必ず渡そう」
好々爺然と笑う宰相閣下にホッとする。とりあえずバレなかった。けど、若干ヴィクトルさんが「え?」っていう顔をした。けど、無視!
次に皇子殿下方に向き直る。
「お二方にも誕生日プレゼントを持ってきました。三つあるうちの一つは妃殿下へのプレゼントのリュウモドキのレバーペーストです。後の二つはマント留めとグラスコード、眼鏡に付ける飾りです」
「え? 俺達にも?」
「あー、ごめん。僕ら何にも用意してないや……」
しゅんとするシオン殿下に、同じように統理殿下もしょげる。けどそれに首を横に振る。渡したいから渡してるだけだし。
「解った。春にそっちに行く時に何か仕入れておこう」
「や、いらないです」
「そんなツレナイこと言わないで、絶対受け取ってもらえるようなもの用意するから!」
グッと二人して握り拳固められてもな。っていうか、嫌な予感するから、マジで要らない。
ちょっと睨み合いに近い状態になったけど、私の用事はそれだけじゃないので気を逸らすように、ロートリンゲン閣下の前に置いた箱に「これ」と視線を誘導することにした。
「こちらゾフィー嬢へのプレゼントなのですけど、お渡ししても構いませんか?」
婚約者の統理殿下に伺うと、それには「もちろん」と快く返事が返る。ということなのでお渡しすると、ロートリンゲン閣下が「ゾフィーに代わって礼をいうよ」と受け取ってくださった。
ソーニャさんにも箱を渡したんだけど、その瞬間怪訝そうな顔をしていたヴィクトルさんが声を上げる。
「ちょっと待って。伯母様、そのプレゼントちょっと見せてくれる?」
「え? 開ければいいの?」
「うん」
あ、やべ。
思わず視線を逸らす。
ソーニャさんの箱には花の飾りビーズが付いた待ち針と針山を入れておいたんだけど。
ヴィクトルさんはそのビーズ飾りを凝視して、それから皇子殿下二人が持っている箱、宰相閣下にお渡しした箱へと視線を移す。
そしてボソッと私に尋ねた。
「あーたん? あれ、逆鱗……」
「何のことですかー?」
ちょっと内緒で。マジで。
そういう圧を込めてヴィクトルさんににこっと笑うと、ヴィクトルさんが遠い目をした。
「あ、はい。お口ナイナイするね!」
はい。ナイナイしてください。
でもソーニャさんのお耳には入ったみたいで「え? 逆鱗?」と呟く。
その呟きが伝播して、皇子殿下方が飛び上がった。
「逆鱗!?」
「え!? ま、待った! 俺達のやつもか!?」
バレた、ちくせう。あともうちょっとだったのに!
あわあわする皇子殿下二人と違って大人の皆さんは静かだけど、表情がドンびいているのが解る。ええい、仕方ない!
「だって! 使わないと、床が! 部屋の床が抜けそうなんです!」
本当なんだ……。今日の朝、めでたくクローゼットの床が抜けたんだから。
虚ろな目で呟くと「ああ……」って何処からともなく、憐れみを込めたため息が聞こえた。
なんとも言いようのない雰囲気が漂う中、一人だけコロコロと笑い声をあげる人が。
「いやー、聞いているより酷いな! 解った、少しばかり引き取らせてもらおう」
「へ?」
「獅子王家の家宝の武具一式、そろそろ大規模な補修が必要だと言われていてね。相場の値段しか出せないが、古龍の諸々を引き取らせてもらえないか?」
「そ、それは願ってもないことです!」
「ああ、頼むよ。ただし逆鱗は要らないが」
何でよー、逆鱗も引き取ってよー。
とは流石に言えないけど、それでも諸々を引き取ってくださるのは有難い。早速後でEffet・Papillonの窓口をお伝えすることになった。
それはそれとして、宰相閣下が顎を擦る。
「その、もしや、和のアクセサリーにも逆鱗が……?」
「弟が選んだ鱗なので……」
えへ?
そう笑えば、宰相閣下が頬っぺたを引き攣らせる。
ふっと統理殿下が真顔になった。
「ゾフィーのも、もしかして?」
「この流れで違うと思います?」
「いや、そうだよな……。まあ、いいよ。ゾフィーだからな。寧ろ嬉々として『婚約のときと婚儀のときのお祝いはもっと素敵な物をご用意くださるのよね?』とか、華麗に微笑むだろうからな」
あれ、それ、私の方が大変なんじゃね?
ロートリンゲン閣下に視線を向けると、遠い目をしながら頷かれた。
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