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明けない新年は無いんだよ……

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、3/25です。


 年越しコンサートは大盛況だった。

 セトリもよかったよー。

 ラ・ピュセルの代表曲から始まって、元気が出るような曲、ダンスを交えた激しい曲に、ゆったりとしたバラードなどなど。

 歌劇団が春の砦のコンサートから帝都でのコンサート、普段やってるショーの演目から厳選してお届けしたうえで、領民も歌える人皆参加の第九で締め。私もレグルスくんも奏くんや紡くんも先生方も一緒に合唱したよ! 楽しかった!

 で、その翌日。

 とうとう来ちゃった皇居の新年参賀というか、パーティー。

 すっごく嫌。

 なのに空は快晴、気温もいつもより高くて寿ぎにはいい日和ですよ。嫌すぎる。

 朝からまあ、大変だった。

 いつもより早く起こされて、軽く朝食を摂ったあと、お風呂に浸けられ磨かれた。挙句ロッテンマイヤーさんやエリーゼや宇都宮さん、うちのメイドさんの主だったメンバー総出で着つけられたり、髪の毛を弄られたり……!

 こんなのこれから毎年やるの? 嘘だろ……?

 軽く絶望している私に、ロッテンマイヤーさんは痛ましげな顔をしたけど「お似合いです……!」と力強く言ってくれた。

 出発は丁度いつも朝ご飯を食べている時間。

 ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんと一緒に行くから、食堂で合流だ。

 ロッテンマイヤーさんに連れられて自室から出ると、ひよこちゃんが朝ご飯を食べに食堂に行くのとばったり。


「おはようございます。レグルスくん、宇都宮さん」


 声をかけるとひよこちゃんと宇都宮さんの動きがぴたりと止まる。そして大きく口を開けたまま固まってしまった。それから三秒数えると、レグルスくんが「かっこいい……!」と感慨深そうに呟いた。

 それに笑うと、ハッとしたようにレグルスくんが元気よく声を上げた。


「おはようございます! にぃにもロッテンマイヤーさんも!」

「おはようこざいます、レグルス様」

「お、おはようございます、旦那様!」

「はい。今日も元気だね」

「うん! にぃに、カッコいいね!」

「ありがとう」


 ロッテンマイヤーさんが先頭に立って歩き、宇都宮さんが最後尾。

 並んで歩いていると、キラキラした目でひよこちゃんが見てくる。このキラキラ視線だけで嫌さが半減するから凄い。

 ローブは襟が高く立てられていて、前の裾と後ろの裾の長さがアシンメトリーになっていて違う。使われてる布の量が半端ないから、まーばっさばさのふわっふわ。

 羽織っているローブの下の袖も、レクスの衣装の踏襲で長く幅広になってるから動くとひらひらですよ。おまけに袖の飾りの紐も長くして房飾りをつけてるから、至る所がわさわさだ。ジャケットも後ろが長いし。

 布って作るのに凄く手間と時間がかかるから、それをふんだんに使っているっていうのは富の象徴なんだよね。お蔭で大貴族になるほどマントやケープやジャケットが豪華だし、女性陣はひらひらのふわふわのわさわさだ。

 しかも随所に古龍の鱗で作ったビーズやスパンコールの刺繍があるし、留め金や幅広のベルトの飾りとかにも鱗が使われてる。これ美術館に飾ってもいいヤツだ……。

 ソーニャさんがどれだけ気合入れて作ってくれたかっていうのがよく解る。ありがたい。ありがたいんだけど……。

 そうこうしてるうちに食堂についた。

 レグルスくんと二人で揃って新年のご挨拶をしたけど、先生達はいつもの真っ白な大礼装でやっぱり目が痛い。

 今年の一番最初の食卓をレグルスくんと過ごせないのはやっぱりちょっと寂しいな。

 思っていることは伝わっちゃうのか、レグルスくんがきゅっと私の手を握る。


「あのね、きょうはロッテンマイヤーさんとルイさんとうつのみやとあさごはんなんだって」

「そっか。帰ったら一緒にパーティーしようね?」

「うん。かなやつむもおひるすぎたらきてくれるから、だいじょうぶ。がんばってね、にぃに」

「はい。頑張ってきます」

「はい! いってらっしゃい!」


 ちょんっとレグルスくんと拳を合わせると、にかっと彼が笑う。

 ロッテンマイヤーさんや宇都宮さんがレグルスくんの肩に触れると、丁度エリーゼに案内されたルイさんが食堂にやってきた。


「我が君、新年の寿ぎを申し上げます」

「はい、今年もよろしくお願いします。今日はレグルスくんをよろしくお願いしますね」

「勿論です。どうぞご安心ください」

「ありがとう。では行ってきます」


 ロマノフ先生と手を繋ぐと、四人でもう一度「行ってきます」と告げて。

 ちょっとした浮遊感と魔術の光が溢れた後は、もう帝都にまっしぐら。

 いつぞや来た皇居の玄関においでませ、だ。

 来賓の受付とかやってるんだけど、なんか妙に既視感がある。あれ、前世の結婚式の受付みたいな。

 帝国成立時、それまでの貴族階級に属してた人があんまりいなかったらしく、式典の礼儀作法とか「どうすんの?」という話になったそうだ。それで初代の陛下とお妃様が話し合い、異世界の簡単な礼儀作法とか式典のやり方を取り入れたとか。仲間のほとんどが庶民だったり、その時代では差別的な扱いを受けていた立場の人達だったから。解りやすく簡易にした方が参加しやすいだろうという配慮だ。

 この辺は勉強した。

 形式は必要だけど、そこに拘ってその形式が必要な理由がすっぽ抜けるよりは、簡易でも何のためにやるのかはっきりしてる式典の方が参加する側は納得できるしね。

 じゃあ新年参賀そしてパーティーは何のためかっていうと、国内の各地に散った仲間達との旧交を温めるためと、一年頑張って統治に勤めてくれた臣下達への労いと、また一年頑張ってくれるように激励するため。パーティーで美味しいご飯を食べつつ、仲良く交流してねっていう目的。けして地位や富でマウントを取り合う会ではない。

 ないはずなんだけどなぁ……。

 ちらほらと視線が鬱陶しい。あとコソコソ視界の端で内緒話してるのも目に付く。悪口は本人にはっきり言うか、完全に見えないとこでやれよ。

 受付等々を代表して済ませてくれたヴィクトルさんが、私の据わった目を見て苦笑する。


「眠いのも、れーたんとの朝ごはんも我慢して来てるのにねぇ?」

「本当だよね。お家でゆっくりしてたいのに、お友達として呼び出されて可哀想に」


 むすっとしてる頬っぺたをラーラさんに突かれて、ぷすっと空気が漏れた。

 聞こえよがしのその言葉に、周囲がざわっと揺れる。

 だって私帝都住みじゃないもん。帝都在住じゃなかったら、行くも行かないも自由なんだよ。呼ばれたとき以外は。それだって皇室典範に載ってるぞ。

 大体私が「呼ばれた」なんてのは、目端の効く貴族ならどの家でも私が言わなくても知ってる。そういう情報網がないと生きていけないからだ。しかるにその大事な情報を知らないってのは、その程度の家って露呈してるのも同じ。

 陛下や皇子殿下方にわざわざ呼ばれた私を不快にしたんだ。あとは「解ってるな?」ってなものだよ。

 そそくさと私の視界からコソコソしてた連中が消える。良かったね、私があんまり人の顔覚えるのが得意な方じゃなくて。

 でもそれより不愉快なのは、こういう駆け引きを覚えて使ってる自分に気が付くときだ。どんどん嫌な奴になってる気がする。

 皇宮の従僕に案内されて、式典が行われる大広間へと進む。私の足取りと一緒に裾が翻って、その度に何処から溜息や「見事な刺繍……」とか「素晴らしい仕立て」とか、褒める言葉が聞こえて来た。

 そうでしょ? いい刺繍でしょ? デザインもいいよね!

 この服をトルソーに飾ってる分にはそう自慢して歩きたいけど、着てるのが自分だと自慢も出来ない。

 大広間につけば、まず中央に赤い絨毯が敷かれていて、その先にある豪奢な玉座が二つ目に入る。

 左右には大きなカーテン、玉座の前は段差になっていて、玉座から二段下がったところに宰相閣下が凛と立っていた。

 貴族は赤い絨毯の左右に並ぶんだけど、一応席次ってのもあるんだよね。

 ロマノフ先生達は宰相閣下の横、序列的には宰相閣下の次席ってこと。私は新たに侯爵になったんだから、侯爵家の末席だ。だけど今回先生達は私の後見人としての立場もあるので、私と一緒に侯爵家の末席に並ぶ。隣の侯爵家の人の好さそうなお顔のオジサンが、ひきつった笑顔を浮かべてた。

 そうなるよねー……。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 早く、衣装が、見てみたいです。 keepout先生、よろしくお願いします!
[一言] 充分養生してください。読むこと好きな私も書くことが好きな先生も目は大事です。 これからも楽しみにしてます
[一言] おー、おー。 正義感と処世術のバランスに慣れてない青春期の悩みですがな。 若様、それ普通十代後半の悩みですぞ。 七歳、あっ!八歳だと色付き冷麦麺の本数で壮絶な兄弟喧嘩してる頃でしょうに。 不…
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