ありのままは見せられないけど
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次回の更新は、3/18です。
ローブは無地に見えて裾に豪華な刺繍、中に着る服はそれだけでも皇居に参内しても十分に礼装として使える。
サイズ調整も終わって、後は皇居にてお披露目するだけ。
使ってる布からして尋常じゃないけど、これに関しては特に気にしなくていいそうだ。
だって皇帝陛下とそのご家族も、天界の織女神達……姫君様のお気に入りだった織女神とは違うらしいけど……が織った布で作った服を代々受け継いで着ておられるそうだから。
かつて臣下にもそういう人はいたんだ。
帝国建国初期はえんちゃん様と距離が近い家がいくつもあったそうな。その代表格が初代皇帝の親友だった人。
でもこの人のお家は子孫がやらかしちゃったために、もうない。
というか、えんちゃん様に近かった家で無事に残っているお家はもう皇族ご一家しかいないんだ。
神様に近いということを、繋がりが薄くなる子孫ほど誇って無茶苦茶したせいだから目も当てられない。
そういうとこから帝国の衰退が始まってたんだよなー……。歴史書は語る。
人のふり見て我がふりなおせ。それはどの世界でも真理の一つらしい。私も気を付けないとね。
姫君様が天にお戻りになっている間は、私とレグルスくんの日課の散歩は本当に単なるお散歩になってしまう。
なんか張り合いがないんだよね。散歩は楽しいけど。
そんな私の腑抜け具合を察したのか、レグルスくんが散歩コースの変更を言い出した。
それは屋敷から町に通じる森にあるレグルスくんの秘密基地へのコースだそうな。
「秘密基地なのに、行っていいの?」
「かなもつむもアンジェもラシードくんもきてるから、だいじょうぶ! ちゃんとできてからにぃにをごしょうたいするつもりだったけど、おうたをきかせてほしくって」
「そっかー」
てれてれモジモジするひよこちゃんが尊い。
そういうわけでレグルスくんに手を引かれ、森の方へ。散歩コースを変えるのはロッテンマイヤーさんには伝えてるので、何かあったら森に呼びに来てくれるそうだ。
ぽてぽてと進むと、森なのに柵をしたその一角に一本だけ見慣れない木が植わってて、そこだけ開けた場所が出来ている。なんか森の木々が遠慮して日当たりを柵に囲われた一本の木に譲っているような。だけど雪がその柵の根元に溜まってないし、囲われた木の枝や葉にも積もってない。
不思議な光景にちょっと首を捻ると、レグルスくんがにこっと笑った。
「このき、れーとかなとつむとタラちゃんとござる丸とアンジェとラシードくんと、みんなでそだてたんだよ」
「そうなの? 凄いね!」
「うん。もっとおおきくなって、みができてから、にぃににみせようとおもったんだ。でもことしのふゆさむいから、にぃににもそだてるのてつだってもらおうかとおもって」
「どういうこと?」
首を捻ると、レグルスくんが「えぇっとね」と話してくれた。
これって桃の木らしい。
しかも育てるのに魔力が必要で、結構な量の魔力を吸収するんだそうな。それって魔物なんでは?
疑問を口にするとレグルスくんはブンブンと首を横に振った。
「ピヨちゃんのなかまみたいなものなんだって」
「えー……精霊が住んでるってこと?」
『まあ、そんなようなもんでぇ』
レグルスくんのひよこちゃんポーチが、中のピヨちゃんが話すたびにバタバタと羽を揺らす。これ、ポーチのはずなんだけど、生きてるみたいに表情変わるんだよね……。
ていうか、桃。
一瞬なんか引っ掛かりを感じたけど、それ以上は考えてはいけない気がして「ふぅん?」と口に出す。
『菊乃井の屋敷にもともと住んでるここら一帯のヌシも、「責任もって面倒見ろ」って言って来るからよ。手伝ってくれや』
「うん? ヌシ? 前に言ってたピヨちゃんがタイマンで負けた人?」
『おう。今でも勝てねぇし、きゅって言わされる』
きゅっと。
最近よく聞く言葉だな。流行ってるんだろうか?
それはそれとして、ヌシっていうと結構強くて「精霊王」だとかなんとか。マグメルで出会った大精霊のお婆さんと似た感じなんだろうな。
屋敷の菜園のことも面倒見てくれてるそうで、お野菜が美味しいのはその人の贈り物でもあるらしい。
その人が「責任もって育てろ」っていうんだから、この桃は……。いや、なんかやっぱりそれ以上考えちゃいけない気がする。考えようとすると思考にストップがかかるんだよね。
恐らくこれも【千里眼】の働きなんだろう。今考える必要のない、寧ろそこにリソースを裂くべきじゃないことに関しては、思考をシャットアウトしてくることがあるんだ。
同じ【千里眼】持ちのアーディラさんにも、似たような事が起こることがあるって言ってたからな。彼女と私の【千里眼】の精度は大分違うらしいけど。
それもこれも色々鍛えられたせいだけどな!
思い出さなくていいことまで思い出して「桃」を思考から追い出そうとしてる辺り、本当に今現在は触れない方がいいことなんだろう。
気持を落ち着かせるように大きく深呼吸をすると、レグルスくんがいそいそとひよこちゃんポーチから細長い棒を取り出すのが見えた。
その棒は二本、銀色の蔦模様が描かれてるやつで魔力を通すとピカピカ光る──この世界のサイリウムで。
レグルスくんが両手に一本ずつサイリウムを持つと、その背後にいつの間にか現れたマンドラゴラ村の住人達がずらっと整列する。
「え? なに? どうしたの?」
「うん、ちょっとみててね?」
「ああ、はい」
びっくりしてる間にも、マンドラゴラ村の住人は増えて大根だの蕪だの人参だのが勢ぞろいだ。
「いくよー!」というレグルスくんの掛け声の元、何かが始まるようで固唾を呑み込む。
「せーのっ!」
声を合図にレグルスくんがサイリウムを持った腕をブンブン振り回す。
誰のせいとは言わないけど、菊乃井では前世の「オタ芸」っていうのが、魔術が使えるようになるための儀式とか練習とかになってる。
キレッキレの「O・A・D」っていう、身体を少し右斜めに倒し、腕を右から左へ回して顔の横でサイリウムをクロスさせる技をご披露するレグルスくん。その後ろに並んだマンドラゴラ村の住人達も同じ動きを見せる。キレッキレ。
クルクルとサイリウムを回転させながら上下させる技とか、前に見たときよりバリエーションが増えてる気もするな。
手に汗握ってダンスを見ていると、サイリウムから出る光が桃のほうに吸い込まれていく。
恐らくこれは桃が魔力を吸収してるってことなんだろうけど、もうちょっと欲しいのか細い枝がワサワサと揺れる。
なるほど、中に何かいるような動きだ。
屋敷のヌシっていう精霊さんにもお世話になってるし、ピヨちゃんにもお世話になってる。ならこの桃を育てるのは、彼らに対するお返しになる……かな?
考えているうちにレグルスくんとマンドラゴラダンサーズによるオタ芸が終わってしまった。結構な運動量なので、レグルスくんも肩で息をしてるし、マンドラゴラ達も疲れたのか雪の上にへたり込んだり倒れ込んだり様々。
マンドラゴラって寒さに弱いから、雪の上にへたり込んだり倒れ込んだりしたら風邪引いちゃうよね。
体力を回復するには回復魔術じゃ意味がない。特にマンドラゴラみたいな生きるのに大量の魔力がいる生き物には。
レグルスくんの頭を撫でる。
「凄かったね、迫力があったよ!」
「うん、れー、にぃにがみてるからがんばったよ!」
「そっかー。じゃあ、にぃにもお手伝いするね?」
「うん!」
可愛い弟が頑張ってるんだもの。私だっていっちょ頑張りますか。
雪景色の中で歌うんだったら一回やりたいヤツがあったんだよね。
物を凍らせたり雪を降らせたりできる魔法の力を持って生まれた姉姫と、そのお転婆な妹姫の真実の愛の物語。
二人の間にあった秘密が二人を分かち、けれどそれも乗り越えた先には姉妹の絆が雪と氷に閉ざされかけた国を救った、とか。
魔法の力で妹を傷付けたことに怯えと恐れを抱いて、ずっと自分を殺して生きてた姉姫が「ありのままの私」でいることを決めた決意の歌。
私がやりたいのは、あの氷のお城を作ることなんだよねー。
歌いながら持って来てたプシュケで、桃の木を中心に魔法陣を描く。あそこまで大きな城じゃなく、桃を雪から守れて日差しを邪魔しないひさしくらいになればいいんだ。
キラキラと氷が歌につれて城の形を作っていく。
「うわぁ! すごぉい!!」
映画のそのシーンのラストを思い出して、マントのように首にまいていたマフラーを翻して歌い終わると、ひよこちゃんとマンドラゴラが万雷の拍手を降らせてくれた。
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