言葉は受け取りようによる
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次回の更新は、3/15です。
毎日雪と強風で、中々晴れる日が来ない。
今年は去年や一昨年とは比べようもなく寒いっていうのがよく解る。
ルマーニュで流行っている感冒は、ちょっと性質がよくないものだって言われ始めていた。
といってもお役所とかその辺の情報じゃなく、冒険者や行商人達からの情報だけど。
あとは威龍さん達武神山派や、セバスチャンやオブライエンの情報も同じような物だから、これはたしかだろう。
今のところ、菊乃井に来た冒険者達からその感冒が発生したっていう例は確認されていない。一度町のお医者さんのところに、感冒の冒険者が訪れたみたいな話はあった。けど宿屋で一晩寝たら治ったらしいので本当に一瞬で終わった。
帝国としては現時点においては情報集めに専念して、様子を見るようだ。うちも当面その方針でいく。
ただ冒険者ギルドには人一人くらいならば運べる転移陣がある。利用料が高いから大概の冒険者はそれを使ったりはしないけど、位階の上の方の冒険者はこの限りじゃない。
そこから感冒が持ち込まれる可能性が高いといえばそうだから、体調に何かある場合はすぐに申し出るようには布告してる。医療費、申請したらちょっと出してあげるから医者にはちゃんと行ってね~ってなもんだ。勿論冒険者だけじゃなく、領民にも適用される制度にしてある。
お蔭で全然お金に余裕がない。でも冬を乗り切れば春が来る。今余裕がなくとも、人がいつけば収税が増えるんだ。辛抱! そしてなければ稼げばいいじゃない!
ソーニャさんのお知り合いのエルフさんの作品は、アンティークで高く売れるものは富裕層向けに正式に販売することになった。
ソーニャさんを通じて「アンティークとしての価値が付く物をホイホイ安値で市場に流せない」・「富裕層向けにそれを売り出す代わりに、出た利益で初心者冒険者用の品を強化するか値下げする」という話を持ち掛けたところ、「手紙をくれたお嬢さんや同じ境遇の人のためになるなら」と快く承知してくれたんだよね。
エルフのお針子さんの品、それも出所のはっきりした物ということで、すぐに買い手は付いた。
っていうか、ゾフィー嬢が欲しいって連絡をくれて。
なんか帝都でソーニャさんから「良い物があるのよ~」って聞いたそうな。
手紙でご注文いただいたんだけど、レースのショールがいいって書いてあったので良さそうなものを何点かピックアップしておかないと。
帝都で行われる新年パーティーに彼女も出席するそうで、そのときに見せてほしいんだってさ。
彼女はこれから社交界に華として君臨する人だ。その人の身の回りを飾るものが何処の品か解れば、貴族のご令嬢はそれをこぞって手に入れようとする。社交界ってのはそういうものだ。
借りを作ると思うとちょっとモヤるんだけど、菊乃井家は現状ロートリンゲン家の庇護下にいると思われている。実際私の後見を勤めてくださってるしね。
その菊乃井家が流行りを作れば、庇護を与えているロートリンゲン公爵家の立場も強化される。それはいい関係ってことだもんね。抜け目ない、流石ゾフィー嬢抜け目ない。
実際ここで私のセンスが悪かったらなかったことになる話だろうけど。怖いなぁ。
因みにゾフィー嬢に一応誕生日プレゼント用意してるんだけど、これは統理殿下に許可を取ってから渡そうと思ってる。
やっぱり婚約者のいるお嬢さんに物を差し上げるって、色々気配り目配りが必要だと思うし?
ええ、別に逆鱗グッズを知ってる人皆に配ろうなんて思ってないよ? 思ってないけど、殿下が見て「渡していい」って言われたら、それは許可があったからで済むしね。
ただちょっと気になるのが、袋の中に子どもが書いたような字で「くまちゃんほしい」とか「ことり、ください」とかメモが時々入ってるのが気になる。
気になるから編みぐるみの小鳥や熊を袋の中に入れてるんだけど、あれは何なんだ……。入れた編みぐるみ、次に袋を開けたときには消えてるんだけど。それも怖い。
怖いことはまだまだある。
とうとう私の晴れ着が完成したそうな。
布から使われた材料から、下手をすると何処かの国の領地を一つ買ってもお釣りが来そうな豪華さ。
刺繍の材料や布地自体がうちで用意した物じゃなかったら、とても手の出ない代物に仕上がった。
姫君様からいただいた布の一片も捨てるなんてことは出来ないから、それも使えるものは使って私の髪を飾ることになっている。
そしてソーニャさんから請求された金額は、なんと金貨五十枚。超破格。お友達価格かと思いきや「鱗を砕いて出たビーズを種々もらったので」っていうね。
つまり、逆鱗じゃなくても古龍の鱗ってだけでそういうお値段なわけだよ。こわーい。
レグルスくん用にいただいた布についてもちゃんと考えている。あれはひよこちゃんが十八になったときの晴れ着にするために丁重に保管してもらってるんだ。
今晴れ着を作っても魔力を通せば布地は伸びるから、大人になっても着られるんだけど、やっぱりその時の流行に合わせた服を作ってあげたいので。
それまでに沢山いい素材を準備しておくんだ。
閑話休題。
服が完成したっていっても、最終的なサイズの調整はこれから。
で。
「なんで、そんな楽しそうにしてるんですか……」
「えー? そりゃあねぇ」
「そうだよ、皇居デビューとか一生一度なんだし」
「ボクらも鼻が高いんだよ。うちの子凄いでしょって胸張って言えるんだから」
ソーニャさんに着つけてもらいつつ、裾の調整とか袖の長さをやってもらってるだけ。なのに応接室のソファーにエルフ先生方三人が揃って座って、こっちをニヨニヨしながら見てる。
「ローブの裾の長さは問題ない感じね? 後は腰とか胸回り、苦しくないかしら?」
「はい。大丈夫です」
「あっちゃんはこれから色々伸びていくと思うから、ローブはゆったりさせておこうと思うの」
ソーニャさんの言うように上のローブは床に届くか届かないかのギリギリの長さになってて、その下の衣装もゆったりしててあまり締め付けない。
ただなんか、デザインにちょっと既視感があって。
訊ねる前にソーニャさんが頷いた。
「デザインはレクスの衣装に寄せてる。彼の魔導の王・夢幻の王の後継者だもの。そこはアピールしておかないとね」
「なるほど……」
そこは私としてはあまり主張すると煩いヤツがいるから……と思うけど、ソーニャさんはコロコロ笑う。
ソーニャさんも宰相閣下のところの跡継ぎ小僧とは面識が僅かにあって、彼が私が空飛ぶ城を得たのを「偶々だ」と言ってるのは知ってるそうで。
「あっちゃんも『偶々』って言ってるし、いずれその意味の違いが分かるから放っておいてもいいかな、と」
「まあ、然して問題とも思ってないので」
「そりゃねぇ。あっちゃんの偶々はレクスの城が偶々菊乃井にやってきただけ。あちらの偶々はあっちゃんが偶々選ばれただけ、だものね。意味が違うわ」
きっぱりと言い切ったソーニャさんに、今度はこっちが苦笑する番だった。
あの頃の私がレクスの後継者として選ばれるのであれば、帝国において今の私以上に夢幻の王を使いこなせる人間はいない。
だってあの頃の私、名無しの古竜を一体殺せるかどうかって感じだったんだ。今の私は名無しの古竜一匹とキングベヒーモス一体くらいなら一緒に出て来ても何とかなるって、先生達のお墨付きをいただいてる。全然嬉しくないけど。
そのときの私より遥かに弱い人間に夢幻の王は振り向かない。その辺は割と厳密な制約があるって夢幻の王の中の精霊も言ってる。
弱いわけじゃないんだよ。逆。逆だから迂闊に戦いたくないんだ。
「鳳蝶君は何だかんだ言って、自分の強さは把握してますからね」
「調子に乗りようがないよね。本気出したら領地が真っ平だもん」
「それを怒らせようっていう人間がいるんだから、知らないって怖いよね」
「そういうこと言う先生達に、本気で相手されない程度の実力ですけどね……」
ふへっと笑うと、先生達が爽やかに笑った。
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