他意はないけど故意はある
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次回の更新は、3/11です。
レグルスくん達のご当地戦隊用衣装が縫い上がったころ、菊乃井は初雪に見舞われた。
帝都の気象予報の専門家の言ってたとおり、超がつくくらい寒くてびっくりだ。
案の定というか何というか、ルマーニュの王都で感冒が流行の兆しを見せている。流れ流れて帝国にも流行りがやって来るのも時間の問題だろう。
疑似エリクサー飴の備蓄は、そんなに進んでないんだけどな……。
材料になるマンドラゴラの皮が菊乃井に住んでる住人から貰うだけじゃ、やっぱり足りない。それだけじゃなく、精製自体が難しいから美奈子先生という大根先生が信頼する学者さんが加わってもそう簡易にならないってのが問題。
それでも大根先生が一人でやるよりずっと多くの飴玉が生産されてるんだけどね。
大根先生と時間のあるお弟子さんが協力してくれて一日十個作れるとしたら、美奈子先生とお弟子さんが加わって二十個くらいになってる感じ。
だけどその効能を均一化したり、生産を簡易にしたりっていう研究を進めながらだから限りがある。
でも使えるには使えるから、きちんと製品になるまではその試薬も備蓄に回してて、小さな村一つくらいならどうにか。そのくらいの数は出来た。
そんな折。
「え? 和嬢に?」
「うん。れーもなごちゃんにおたんじょうびプレゼントあげたい!」
午後のおやつタイム。
レーズンバターサンドやナッツクリームの開発を目指す料理長による、干しブドウのパウンドケーキや胡桃入りのマフィンが最近よく出てくる。
パウンドケーキをもしゅもしゅしながら、レグルスくんが相談を持ち掛けて来た。
「夏にリボンあげたけど、そういう感じ?」
「うん。でもリボンじゃなくてほかのがいいかなっておもって」
「髪飾りはいくつあってもいいと思うけどなぁ?」
「そうなんだけど、なごちゃんのおとうさまやおかあさまもなごちゃんにかみかざりをよういしてるんじゃないかなぁ」
「ああ、なるほど」
受け取る方は喜んでくれるだろうけど、渡す側からすると被っちゃうとちょっと残念だもんね。やっぱり自分だけの特別を身に着けてほしいっていうのは、何となく解かる。
となると、だ。
被りようのない一点物を渡したくなるのはそうなんだけど、果たして公爵家のご令嬢に手に入らないものなんかあるのかっていう。
その辺を考えると、悩ましいよね。
レグルスくんとしては、私から貰ったお小遣いで豪華なプレゼントをするっていうのはなんか違うらしい。じゃあ、レグルスくんが冒険者ギルドで稼いでっていうのも限界がある。だって見習いのもらえる報酬なんかしれてるもん。そうなると何か手作りってのがいいのかな?
「私が何か作ろうか?」
それが最適解な気がして口に出してみると、レグルスくんがブンブン首を横に振った。
「あのね、れーにもつくれるかわいいの、おしえてほしい!」
「あー、そういうこと?」
そっちだったか。
いやー、大切なお友達のために手作りとか。うちのひよこちゃんは頑張るなぁ。
ほっこりしながら「いいよ」と返すと、レグルスくんがはにかむ。可愛いひよこちゃんにお願いされたら、そりゃあ頑張らざるを得ない。
というわけで、翌日。
一緒に菜園の世話や動物の世話をしてお昼ご飯を食べた後、早速部屋に奏くんと紡くんを連れ込んだ。
「ほーん、そんでおれと紡が呼ばれたわけだ」
「うん。奏くん紡くん、よろしくね。割れた鱗をビーズに加工して、それを使ってブレスレットと指輪を作るんだ。もしあれだったら、奏くんや紡くんも破片持って帰っていいから」
「えー、あー、うん。考えとく」
今日のお願いを説明すると、二人とも快く作業を請け負ってくれて。
手をヒラヒラさせると奏くんは早速ハンマーで大きな鱗をサクサク砕いてくれた。横に座ってる紡くんもトントンと小さなハンマーを振るって鱗を割ってくれてる。
その割れた鱗の破片を、私が魔術でビーズに加工したものを、レグルスくんがタラちゃんが作ってくれた糸とござる丸から取れた糸を縒り合わせて作った丈夫なテグスに通していく。
和嬢の手首周りや指周りの寸法が解らないけど、タラちゃんの糸は魔力を通すときゅっと締まったり伸びたりするから、その辺の調整は自由自在だ。
小さなビーズを花形に通すのが難しいから、そこだけは私が手伝う。でもあとはせっせとレグルスくんが頑張ってた。
指輪が二つ、ブレスレットが一つ。それを作り終えたころにはすっかり夕方になってた。
勿論私も加工するだけじゃなくて、ロッテンマイヤーさんの誕生日用のグラスコードとか他色々作ってたけど。
余ったビーズは固めて、紡くんのスリングショットの礫になった。
「にぃに、ありがとう! かなもつむもてつだってくれてありがとう!」
「どういたしまして」
「うん。おれも本当に鱗が割れるか試してみたかったから、丁度よかったんだ」
「つむもつぶてもらいました! ありがとうございます!」
出来上がった物を前にキラキラとした笑顔でレグルスくんがぺこっとお辞儀する。奏くんも紡くんも同じく笑顔でお礼を受け取っていた。
それにしてもハンマーで鱗を割るって凄いよね。
そんなことを言えば、「うーん」と唸って奏くんが首を少し傾げた。
「これ、ドラゴン系の鱗しか割れねぇんだよな」
「え? そうなの?」
「うん。魚の鱗とかは全然無理。魔物の鱗剥がすのにも役に立たない」
「えぇ……」
「ドラゴン系の鱗なんか、職人の世界ですらそんなに見ないんだってさ。もっちゃんじいちゃんが言ってた。職人にならないんなら、あんまり役に立たねぇなって」
「あー……なんかごめんね?」
「いや? 若様のとこには山みたいに積み上がってるからいるだろ?」
それはそう。
にかっと笑う奏くんに「ありがとう」とお礼を言えば「どういたしまして」と返って来る。
作ったビーズの指輪やブレスレットの光り具合や、余った物をまとめた礫の綺麗さにきゃっきゃしてる弟達を眺めていると、ふと奏くんが「あれ」と呟く。
「うん?」
「材料、何で出来てるって相手の子の父ちゃん母ちゃんに言わなくていいのか?」
「え? 言わなきゃいけないものかな?」
「や、どうだろう……?」
私が首を捻ると、奏くんも捻る。
子どもが作ったアクセサリーだし、材料の主は寧ろ「はよ使え」とばかりにどんどこ送って来るし。
最近クローゼットの床板が歪んで見えるんだよね、怖い。
「っていうか、アレ、どうやって渡すわけ?」
「うん? ああ、お正月の参賀の会で顔を合わせるから、その時に和嬢のお祖父様にお預けする形になるかな?」
「バレんじゃね?」
「……厳重に箱に封印……じゃない、ラッピングしていく」
「ヴィクトルさんにバレないといいな?」
「…………超頑張る」
「おう」
はしゃぐ弟達から目を逸らすと、奏くんもどこか遠い所を見る。
奏くんはロッテンマイヤーさんのグラスコードにも一瞬視線を向けて、さっと逸らした。でもその先にもう一つグラスコードがあって、隣にはマントに付ける飾緒のような飾りも並んでる。
そのいずれにも、レグルスくんが作った指輪やブレスレットと同じ、鱗から作ったビーズが使われていた。
「……あれってさ」
「え? 帝都にいるお友達兄弟への個人的なプレゼントだよー?」
「巻き込むんだな……?」
「えー? 何のことかなぁ? 凄く良い材料をもらったから、いつもお世話になってるお礼なんだけどなー?」
「ああ、うん、解った。おれは何も知らないし、聞いてない」
にかっと良い笑顔で言い切った奏くんは、流石私の親友だと思う。
因みにこの日使った逆鱗は十枚ほどだったはず。だけど翌日にはその倍は補充されていた。
何で解かるか?
持ち上げたら前日より重かったんだよ、恐ろしい……!
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