プレゼントの準備は着実に
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、3/8です。
会議で決まったことは速やかに実行される。
今年の年越しコンサートは歌劇団全員で、第九と他数曲を合唱する感じで。
第九は私の就寝時間を考えて、最初に歌うことになるそうだ。私が合唱に混じるからね。
それで、そのコンサートについてちょっとした申し入れがあった。
ロートリンゲン公爵領と梅渓公爵領、そして帝都から遠距離映像通信魔術のお披露目を兼ねてうちの年越しコンサートを各地で見せたいそうだ。
勿論、ある程度の協力費はもらえるという。
遠距離映像通信魔術については、帝都でも中継みたいな形で少しだけ見せたことはあるけども、遠く離れた……菊乃井からロートリンゲン領、帝都、梅渓まで映像を飛ばせるとまでは公表していなかった。それを今回公にするのだそうな。
帝国の技術力、ひいては国力が回復してきたって世界に打ち出すのが目的みたい。
少し前まで帝国はゆるゆると斜陽に向かっていると、外国はともかく帝国貴族も考えてた。私もそうだ。けどちょっと最近変わって来て、カタツムリの歩みより鈍いけど盛り返す兆しがあるんだ。
逆に物凄く衰えが見えだしたのがルマーニュ王国。
元々そんなに振るってた国でもないんだけど、勢力が解ってるだけでも三つに分かれて来てるみたい。
一つは国王や貴族による支配体制を維持したい派、もう一つは改革派。ここには革命を起こして貴族を一掃したいっていう過激な派閥もあるそうな。更にもう一つが今の国王や体制を排して、帝国に併合されたい派。
最後の派閥に関しては、帝国としては迷惑と言わざるを得ない。
折角盛り返す兆しが見えて来たっていうのに、弱ったルマーニュ王国を併合なんかしたら元の木阿弥じゃないか。
出来れば穏当に改革なりクーデターなり革命なりして、自立してほしい。
いや、もう、革命とかクーデターって辺りでちっとも穏当じゃないんだけど。
この辺りの話は先生方を通じて宰相閣下やロートリンゲン公爵閣下からお伺いしている。けど、オブライエンが「その全ての勢力が旦那様の動きに注視しています」って持ってきた時には黄昏たよね。
なんでもかんでも私が噛んでるとか思わないで欲しい。そんな暇はない。
とはいえ現在ルマーニュで大多数を占めるのは現状維持派。市民の中には打倒王家・貴族を掲げてる人間もいるそうだけど、地下に潜って上手く隠れているそうだ。
きな臭くはあるから、引き続き情報収集をしておかなくちゃ。現行はその程度だ。
仄暗い時代の流れもある中、ひよこちゃんと和嬢は順当に明るい未来へ向かって歩いているみたい。
時々見せてくれる絵日記には、美奈子先生やアーディラさんと和嬢が和気藹々と交流している様子が見て取れた。
描かれている絵が明るい色使いで、色々可愛らしいんだよね。
ラーラさんからも授業の様子を聞いてるけど、和嬢はかなり才能が豊かな方みたい。
アーディラさんが「雪樹でもこれほど早く魔物と馴染めるお子は珍しい」って言ってたそうだ。
梅渓家のマンドラゴラコミュニティーは和嬢とピヨ丸が鍵になる。是非ともマンドラゴラの一大棲息地になってもらいたいものだ。
気になるのは美奈子先生の体調だけど、これも大分良くなっているとか。
梅渓家では美奈子先生を雇う条件として、梅渓家の温泉保養施設を提供するっていうのを付けてくれたそうだ。
温泉と疑似エリクサーの試薬の効果で、長年悩まされてきた腰痛も楽になってきたって。
これは五日に一回、梅渓家へ美奈子先生との意見交換にいそいそ出かけて行く大根先生が言ってた。
仲良きことは美しきかな。
チクチクと布に針を通して糸で線を描いていく。
年越しの後はすぐに誕生日になっちゃうからプレゼントを早く仕上げないと。
来年の元日は朝から昼、遅かったら夕方にかけては皇居で新年パーティーだけど、夜は屋敷で誕生日と新年のお祝いだ。
毎年このときにプレゼントを交換してる感じだけど、私が今年レグルスくんに用意したのは戦隊ごっこ遊び用のスーツ。
大精霊のお婆さんから物々交換で得た布は、伸縮性に優れていてちょっとやそっと引っ張ったくらいじゃ破れない。だからってただ頑丈なんじゃなく、鋏を入れるとすっと軽く裁てる。
前世の戦隊もののイメージを引っ張り出しつつ、レグルスくん達それぞれの希望のワンポイントを刺繍するんだ。
レグルスくんは青が好きだからスーツの色は青で、刺繍はひよこ。奏くんは森に紛れるさすらいのハンターっていうイメージを持ってるそうなので迷彩柄に、弓矢の刺繍。紡くんはスーツの色は渋く黒を選択したんだけど、エルフ紋のコンドルの形が気に入ったそうなのでそれっぽい刺繍をお願いされてる。アンジェちゃんはスーツはひらひらの、ラ・ピュセルのメンバー達が着てそうなアイドル調がいいらしく、刺繍も可愛らしくお花がいいそうな。宇都宮さんは「メイド服がありますので!」って言ってたけど、ごっこ遊びの最中もメイド服だとサボってるような印象を持たれたりしそうだよね。
勿論私達菊乃井家の人間はそんなこと言わないけど、前世ではお役所の人がちょっと水分補給に色の付いた飲み物を飲んでただけで「サボってる!」って苦情がきたことがある。
それを鑑みるに、一目でサボってないって解る服がいいと思うんだよ。メイド服に似た、でも戦隊っぽい感じの。
そういう理不尽クレームから使用人を守るのだって、屋敷の主の務めなんだから。
というわけで、彼女も何か可愛い路線のコスチュームにしておこう。刺繍は菊乃井家の紋を崩した感じにしておいたら「職務で御座います」って言えるもんね。
型紙に合わせて裁った布を、それぞれずだだとミシンで縫い合わせていく。顔には仮面を被るって言ってたから、首に皆お揃いのスカーフを巻くことでチーム感を出した。
あとは変身の仕組みなんだけど、どうしたらいいのかな?
むんむん唸っていると──。
「その飾りボタンに触れたら、服が出て来て勝手に着替える。それまで着てたヤツは飾りボタンの中に収納して、遊びが終わったら今度は収納してた元の服に着替えて、ごっこ遊び用の服を中に仕舞う……でいいのか?」
「はい。どうすればいいんでしょう?」
「転移魔術の応用じゃねぇか。服を一瞬で交換すりゃいいんだろ?」
パリパリとのり塩味のポムスフレを抱え込んで、一人でお召し上がりのロスマリウス様がニヤッと笑う。
この冬、出禁を解く代わりに私の困りごとに色々アドバイスをするようにって、姫君様はロスマリウス様とイシュト様に仰ったそうな。
その監視のために氷輪様かイゴール様のどちらかが、お付き添いでいらしてくださるとか。
本日はロスマリウス様と氷輪様がいらして、いつも通りロスマリウス様は料理長のお菓子をご堪能されている。
そのついでに、私の手芸をご見学なさってるんだよね。いや、氷輪様が私と一緒にハンクラしてるから、その見学なのかも知れない。
手元の刺繍枠から顔を上げられると、氷輪様が眉をむっと寄せられた。
『邪魔をしてやるな』
「邪魔なんかしてねぇよ? ちょっとヒントをやってるだけだっつーの。オレは魔術の神なんだから」
面白そうに大精霊のお婆さんから貰った飾りボタンを、ロスマリウス様が指先で突いてる。
でもそうか、やっぱり転移魔術を応用すればいいのか。だとすると私の技量の問題だな。私はたしかに転移魔術を使えるようにはなった。だけどそれは私自身を転移させるのが精一杯で、まだ物とか人とかは出来ないんだよね。
練習あるのみかなぁ。
そんな風に思っていると、ロスマリウス様がふんっと鼻を鳴らされる。
「そうさな、ちょっと貸してみ?」
テーブルにポムスフレの皿をおくと、ポッと光の灯った人差し指の腹で飾りボタンに触れる。すると光がボタンの硝子に吸い込まれて行った。
「一つだけ、今言ってた魔術を付けてやった。解析して学べ。そうすれば使えるようになる。後は応用するなり発展するなり、お前の好きにしろ」
「は、はい!」
「お前は教えたことを教えただけ素直に吸収するから、おもしれーわ」
HAHAHAって感じで豪快に笑う豪快なロスマリウス様。その歯に青のりついててどうしようかと思ったけど、言わない方がいいよね……。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




