進捗、良い感じ?
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次回の更新は、2/23です。
ぽくぽくとお馬の背中に揺られて、町にやってきた。
本日私が乗る颯の轡を取ってくださるのはラーラさん。レグルスくんが乗るグラニの轡は宇都宮さんが取ってくれてる。
町は段々と区画整理というか、老朽化した建物を修繕したり新たに建て直したり。真新しい色とりどりの壁が目を惹く。
本当にカラフルなんだよ。
水色の壁があったり、木目を活かしながら扉とか窓枠の色をちょっと変えてみたり。
初めて菊乃井の町に来たときは、全体的に埃っぽかったのが今やバルコニーに花が飾ってあったり、可愛らしい飾りがひらひらしてたりするんだから。
ルイさんが代官になったときに、割れ窓理論……割れたガラス窓が放置されていると、割れたガラス窓がさらに増え、そこから町全体が荒れて、結果治安が悪くなるって話をして、徹底して荒れた建物を出さないようにしてもらってたんだ。
それが領民全体にお金が回るようになって、余裕が出て来た家から綺麗に飾るようになって、そのお隣が自分達も綺麗なお家に住みたいって、どんどん町が綺麗で可愛くカラフルになる連鎖を作っている。逆割れガラス理論っていうの?
ほくほくしていると、ラーラさんがにこっと笑った。
「町がカラフルなのは、ある意味まんまるちゃんの影響なんだけどね?」
「え?」
「ほら、まんまるちゃん可愛い物大好きでしょ? 見回りに来るたびに、可愛い花壇や小物を見ると『か~わ~い~い~!』って喜んでるから。領民は『あ、ご領主様可愛い物好きなのか。じゃあお家可愛く塗ってみようか。花壇作ってみる?』って。冒険者ギルドのマスターのところにそういう話がよく持ち込まれたみたいだよ」
「そうなんですか?」
これは、ちょっといいのか悪いのか判断しかねる。
私はたしかに可愛いものとか綺麗なものは好きだけど、私の趣味を押し付けるつもりはない。可愛いものより綺麗とか尖ってるものが好きな人にまで、可愛い物を愛することを押し付けているようならちょっと……。
一瞬尖らせた唇に気が付いたのか、ラーラさんが首を横に振った。
「無理矢理でも押し付けでもないよ。そういう相談が持ち込まれたときにはローランも『趣味じゃないことすんのは、ご領主様が一番喜ばねぇこった』って言ってるそうだから。それでもやるんなら、それはまんまるちゃんと趣味が似てて可愛い物をここぞと作りたい人だと思うよ」
「それなら、存分に可愛さを愛でないと損ですね」
「そういうこと」
納得して頷けば、バチコーンッとラーラさんからウィンクが飛んでくる。視界の端では偶々そのウィンクを目撃した人が悲鳴を上げてしゃがみ込むのが見えた。
えぇい、ファンサで軽率に人のハートを打ち抜くのは止めてもろて!
街並みの可愛さを堪能しつつ、お馬に揺られてぽくぽく歩く。レグルスくんは「可愛い~」って冒険者のお姉さんに声をかけられて、満面の笑みで手を振ってる。こっちもファンサが神だ。
私はと言えば気付いて町の人の頭を下げられるから、そっと手を振る。
私が見回りに来ても、仕事中だったら手を止めて挨拶とかしなくていい。そう領民には御触れを出しているから、わざわざ家や店から出て来てまでは領民も挨拶することはない。けど、お店の窓から私達が見えた人は、そこから手を振ってくれたり軽く会釈してくれる。
今日も菊乃井は平和だ。
なので見回りの最後に、ご褒美として歌劇団の本拠地であるカフェに寄ることに。
私はちょっと気になることがあったから、ラーラさんに尋ねてみることにした。
「ラーラさん、シエルさんと人気を二分できそうな人が現れたって報告書に会ったんですけど。ご存じです?」
「うん?」
きょとん。
そんな擬音が出そうな表情を一瞬見せて、けどすぐに何か思い出したのだろう。ラーラさんが「ああ」と呟いた。
「多分知ってるよ。知ってるけど、百聞は一見にしかず。自分の目で確認した方がいいかもね。多分ビックリするから」
「え? びっくりするんですか?」
カフェの厩舎に颯とグラニを預けると、お水とか色々お願いして建物の中に。
声をかけると早速エリックさんが事務室からやってきた。
一応屋敷を出る前に寄らせてもらうとは連絡したんだけど、改めて見学をお願いすると「勿論ですよ」と温かく出迎えてくれる。
そして報告書に目を通したことを伝えると、爽やかな笑顔を向けられた。
「ああ、彼女に会いに来られたんですね。いいですよ、彼女。凄い役者さんになれると思います」
「そうなんですね、楽しみだなぁ」
このお芝居好きなエリックさんが太鼓判を押すんだ。期待が益々募っていく。
レグルスくんは何のことか知らないから、宇都宮さんと顔を見合わせて首を傾げた。
「にぃに?」
「歌劇団にスタァが増えたみたいだよ」
「そうなの!?」
ビックリするレグルスくんに、エリックさんが「そうなんです!」とほわほわ嬉しそうに返す。
シエルさんの王子キャラとは違う趣のスタァとか、やっぱり気になっちゃうよね。
ほこほこ心躍らせながら、エリックさんに案内されて稽古場に通される。
本日のお稽古は感謝祭に向けた演目のお稽古も含まれるそうで、今の時間は感謝祭のお稽古に割り振られている時間だそうだ。
稽古部屋には椅子が並べられていて、出番でない人は座って脚や腰を休めたり、台本を確認してセリフを覚えたりしている。
そんな中、ちょっと気になった人が一人。
椅子に座って台本を読んでるんだけど、シンプルなシャツにカーディガンを羽織り、これまたシンプルなズボン。それは稽古だからだろうけど、前髪がかなり長い。
なんだったら前髪で前が見えないんじゃなかって思うくらい長い。声を出して台本を読んでるんだろうけど、その声が小さすぎてブツブツ独り言を言ってるみたいに見える。しかも身体全体がプルプル震えてるし。
歌劇団に所属してる人で付き合いが長いラ・ピュセルのお嬢さん達は基本陽気で明るい雰囲気なので、こういう小動物を思わせる人は初めてだ。
大丈夫かな? 人見知りとか出ちゃってる?
何とはなしにその人から目が離せないでいると、それに気が付いたレグルスくんが私の手を握ってきた。
「あのおねえさん、ふるえてる?」
「そうだね、どうしたんだろうね?」
もしや風邪かなんかで体調が悪いんだろうか。
そう思って見ていると、エリックさんが「気付かれましたか?」と声をかけて来た。
「え?」
「彼女ですよ。これから出番のようです、見ていてください」
彼女? へ?
なんのことか解らないまま彼女を見ていると、折よくユウリさんが「レジーナ!」と誰かの名前を呼んだ。
すると弾かれたように震えていた少女が立ち上がる。
身体の三分の二はあろうかという長い足、上背はシエルさんより少し高いくらいか。
レジーナというのが彼女の名前なのか、呼ばれて前に出てくる。そして長い前髪を手櫛で後ろに、オールバックにするように撫で付けた。
露わになった目にきらっと強い光が灯ったと思ったら、震えも気弱な雰囲気もあっという間に消え失せて。
ユウリさんが彼女に台本を差して「ラトナラジュがウイラに復讐を持ちかけるところから」と指示する。
シエルさんは既に稽古場の真ん中に立っていて、レジーナという少女を見ていた。そこに見えない火花が散るのを感じる。
ユウリさんが合図すると、ウイラさん役なんだろうシエルさんが床に座り込んで肩を押さえた。
レジーナと呼ばれた人はそっと労わるように、シエルさんの肩を押さえる手に触れる。
「ウイラ、お前はこのままでいいのか!? お前をこんな目に遭わせた奴らを、我は許せるものか! 目を抉り、腕を折り、脚の腱を切られてまで、村の人間を庇う必要が何処にある!?」
苛烈な怒りを宿した「男神」がそこにいた。
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