持ち上がる問題は多分氷山の一角
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次回の更新は、2/15の20時です。
書籍11巻発売記念SSをお送りいたします。
ここ最近判明した衝撃の事実は、だからって私の日々を劇的に変えることはない。
やるべきことは沢山あるし、レグルスくん達と遊ぶ時間もあれば、趣味の時間だってきちんと持ててる。
問題とは違うけど、決めていかなきゃいけないこともそれなりに。
その内の一つである、エルフのお針子さんに外注したアップリケの問題が一つ前に進んだ。
ソーニャさんから話を聞いた、手芸作りすぎ問題のエルフさんから「お試しに」と、ソーニャさん経由で作品が届いたんだよね。
何が届いたかっていうと、その手芸の得意な人が過去作ったレースの付け襟。
早速識さんとノエくんを通じて、新人パーティーの魔術師・シェリーさんに渡してもらった。
付与された効果は魔力上昇と防御力上昇の二種類。
渡した翌日、シェリーさんは識さんとノエくんに「あたし、マジでこれ持ってていいの!?」と困惑しつつ言ったそうな。
なんでか?
付け襟を渡された日、シェリーさんはいつものようにEffet・Papillonの無地のローブを着ていたそうな。
黒いローブに白くて細密な白い付け襟は凄く映えたそうで、それだけでも気分が良かったらしいけど、それだけじゃなくて。
依頼を受けて、菊乃井ダンジョンに潜ってたそうだけど、偶然彼らの実力では相当苦労するようなモンスターに遭遇しちゃったそうだ。
その苦労するモンスターに遭遇しちゃった経緯が、シェリーさん達と同じく初心者講座を受けないでダンジョンに潜って、初級階層のボスにコテンパンにのされちゃった冒険者パーティーを助けるためだったのも運命かもしれない。
トラウマを振り払うためにも、のされたパーティーの人達を助けるためにも、シェリーさんのパーティーは戦闘を開始。
だけど相手の魔物がちょっと物理に強いタイプで、魔術の方も普段のシェリーさんの魔術の威力だと傷つけるのも難しいくらいの硬さ。
けど一か八か、魔術を全力でぶつけることにしたそうだ。
運よく相手を傷付けられればよし、そうでなくても相手を怯ませることが出来れば、その隙にのされたパーティーの人達を担いで逃げようっていう算段だったみたい。
結果。
ぷちっとなったらしい。
シェリーさんが選んだ魔術は氷柱が空から落ちてくる、私も得意とする魔術だったんだけど、思いのほか大きい氷の塊がドンッと魔物の上に落ちたそうな。
残ったのは魔物の先端で二股に分かれるツノだけ。
そのツノもサスマタとか槍に使えるらしいけど、戦利品はそれ。
のされてた冒険者パーティーを保護して帰った翌日、彼女はびっくりして識さんとノエくんに「これ持ってて大丈夫?」って尋ねたという。
因みに彼女の仲間の二人の少年は「おれら、いらなくなる?」と不安そうにしてたらしい。
「魔術師にとって前衛は命綱じゃないですか。いるいらないじゃなく、いてくれないと困る。それに大技ぶっ放す時間稼ぎをやってくれるって確信できる仲間なんて、得難い存在じゃないですか」
「そうそう。仲間の男の子達には『そう言ってあげなよ』ってアドバイスしておきました」
「オレ達が言っても良かったんだけど、オレと識は二人パーティーだからあんまり説得力ないかなって」
まあ、たしかに。
この二人、実は前衛後衛どちらも出来るもんね。
話に頷いていると、識さんが「それで」と封筒を私の机に置いた。
「早速昨日のことを感謝して手紙を書いてくれたんだけど、こんな感じで大丈夫です?」
手紙は読んでも構わないと、シェリーさんから予め許可を取っておいてくれたとのことなので読ませてもらおう。
封筒を開くと、薄く紙に桃色がついているように見える。こういうお洒落な紙ってお高いんだけど、これはシェリーさんが手紙を書くにあたって欲しいアクセサリーを諦めて買ってきたそうな。
二つ折りにされた便箋を開くと、拙くはあるけど丁寧に書かれた文字で、仲間を助けられたこと、自分でも人の役に立てると思えたこと、付け襟のお蔭で気持ちが凄く晴れやかだったこと、感謝の言葉が沢山書いてあった。
それに付け襟の可愛さとか、繊細な模様に対する讃辞が、やっぱり山のように。
これがソーニャさんのお知り合いさんの心を温めてくれたらいいんだけどな。
識さんとノエくんはこの手紙を私に渡すために来てくれた。二人は私じゃなくてロッテンマイヤーさんか、大根先生に預けて帰ろうと思ってたそうだ。
偶々時間が空いてたお蔭で大事なことが聞けて良かったと思う。
でも用事はそれだけではなかったらしい。
これもロッテンマイヤーさんか大根先生に言づけていこうと思ったと言ってたんだけど。
「どうもこの城にはまだまだ人形が眠ってるみたいなんだ」
「へぇ?」
ノエくんの言葉に首を傾げる。
そう言えばうさおもそんなようなことを言っていたような?
視線で続きを促せば、目の前に置かれた紅茶のカップを見つつ、ノエくんが口を開く。
「いや、うさおが言ってたのは家事とかのお手伝い人形だと思うけど、なんかそれとは違うっぽいのが……」
「どういうこと?」
真剣な顔のノエくんに尋ねる。
話を引き継いだのは、ノエくんの隣で同じく難しい顔をする識さんだった。
「実はですね……」
そんな前置きで始まったのは、識さんとノエくんに頼んでいる、空飛ぶ城の図書館にある神代文字の本の翻訳から始まる話だった。
彼らは真面目に神代文字で書かれた本を、虫干しから始めてせっせと訳してくれているんだけど、その内の一冊からおかしなものを見つけたそうだ。
それはたわいない童話の本だったんだけど、仕掛け絵本になっていて飛び出す本棚の中に隠された豆本を見つけたという。
それも虫干ししてから翻訳と思ってたそうで、昨日偶然にその豆本に目を通したそうで。
「レクス・ソムニウムって一流の魔術人形技師でもあったのよね?」
「ええ、そうらしいですが……」
「設計図があったんだ」
「設計図?」
私の言葉に、識さんとノエくんは二人揃って首を上下に動かす。
レクスの作った魔術人形はうさおやメンちゃん、夏休みに知り合ったマグメルを千年に渡って守ってきたガーゴイルのゴイルさん含めて、皆凄く優秀。
アレを作れるだけで、レクスのただ者じゃなさは解る。
でも設計図ぐらいで、識さんとノエくんが難しい顔をする必要はないと思うんだけど?
そういう表情をすると、二人が揃って首を横に振った。
ノエくんが眉間にしわを寄せる。
「攻撃用って」
「はぁ……?」
「うさおに聞いたら、昔、うさおが作られる前に、この城を地に落とそうとした国があったらしくて」
「その対抗として作った、と?」
「うん。星を落とすより、王様一人きゅって言わす方が平和だろうからって」
きゅって。
めっちゃエグいことをサラッと言ってたんだな、レクス。
ただうさおもその魔術人形がどこにあるか、もしくはないかも解ってないらしい。情報としては知ってるけど、レクスはその人形のことをうさおにあまり話さなかったそうだから。
けどレクスは作った人形を用途の別なく可愛がっていたとうさおは言ってて、攻撃用だからって壊すとは考えられないらしい。
そんなわけでノエくんと識さんとしては、空飛ぶ城にそれが眠ってるんじゃないかって思ったんだって。
「うさおは自分以外の人形はレクスが眠らせて逝ったって言ってるから、その人形もあったとしても寝てると思うんだけど……」
「あるかどうかも解らないし、あったとして何が目覚めのキーになるか解らない攻撃用の魔術人形とか、ちょっと怖いですね」
「そう思って、まず城の調査をしてる師匠に話した方がと思ったんだけど、でもそれなら鳳蝶様の方がいいのかしら~とか、ロッテンマイヤーさんから上手く伝えてもらった方がいいかなぁとか、色々考えちゃって」
ノエくんと識さんがそれぞれ困ったような表情を浮かべる。
いや、良いように考えよう。
これだけ色々持ち上がるんだ、リターンはきっと凄い……はず。
だけどガクッと肩が落ちるのは仕方ないんだ。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




