禍福は雁字搦めにもやい結び
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次回の更新は、2/12です。
仕組み的にいうと、ご加護があるお蔭でやって来る災難はまず試練である。
それは確定なんだけど、他の神様のご加護が解決策を見つける、或いは解決策を持つ人を呼び寄せるという効果を発揮してくれる。
私の元にやって来る試練の解決策をひよこちゃんや奏くんが持っていることもあれば、紡くんがヒントになってくれたり。
そういうことがご加護を持つ人間の間で起こるので、相互に影響し合って菊乃井では問題解決が割とスムーズに行ってるんだそうな。
その中でご加護の数が多いのと、社会的な地位が一番高いことから、私への試練が結構な大きさと数になって見えるだけで、実はひよこちゃんや奏くんや紡くん、他ご加護を持つ人にも試練は訪れている。
けど、大概私の試練へと集約されて、その解決に向けて一致団結して進んでいることで、皆個々の試練に打ち勝っているような形になっているとか。
「此度もひよこにも試練が訪れていよう?」
「え?」
「実の父の実家のこと、許婚の従兄のこと。其方だけに訪れている災厄ではなかろうよ」
言われてみればそうだ。
特に元父上の実家はレグルスくんにとって、放置しておけば致命傷になり得る。
和嬢の従兄にしても、将来レグルスくんと和嬢の関係に影を落とすかもしれないし。表立って動くのが私っていうだけで、レグルスくんにとっても困ったことに違いない。
私に試練が訪れる度に、応援してくれたりハッとするような言葉をくれるし、これが相互作用なんだろうな。奏くんにしても紡くんにしてもナイスアシストだし、何処かで誰かがヒントや助け船をくれる状況もそうなんだろう。
なるほど、人間関係と同じく凄い相互作用だ。
こりゃ誰かのご加護を解いたらどうにかなるとか、そんな問題じゃないわ。
感心して「はー」とか「ほー」とか言ってると、レグルスくんがぴよっと口を尖らせた。
「にぃにがこまるの、れーのせいですか?」
「それは違う。其方の兄はそもそも何もせんでも他人のせいで困る生まれなのじゃ。そしてひよこ、それは其方も同じこと。他者から必要とはいえ搾取する側の者は、自身の行いだけでなく、取り上げた物の分だけ他人の分の責任を負う。つまり他人のせいで困るのが、その取り上げた物に対する対価なのじゃ。ただ、少しばかりその量が多くはあるが……」
「れー、こまったことないです……」
「それは其方を大事に思う者、兄を始め守り役の娘や周りの大人、守護を任せた精霊達が其方を守っておるからじゃ。其方が兄を守りたいと思って行動するようにの」
納得しかねているのか、ひよこちゃんの唇は尖ったままだ。
でも貴族って本当にそういう立場ではあるんだよ。税金を取ってそのお金で生活する代わりに、領民の暮らしを良くしていくのが仕事だし、何か問題が起ったら解決するのもそうだし。
だからレグルスくんのせいで困るってことは、基本的にないんだよな。あるとすればそれはレグルスくんじゃなく、私達の元親のせいだ。元親の因果が原因であって、生まれただけの私達には本来何の責任もない。親を選んで生まれて来たんじゃないんだから、責任の取りようもないわな。
姫君様は薄絹の団扇を翻しながら「ひよこや」と、しょんぼり真っ最中のレグルスくんを呼んだ。
「其方、兄のためになんの役にも立たぬと思っておるのじゃろうがそれは違う。此度兄が作ろうとしている秘薬は、完成すればいずれ万民を救うじゃろう。その援助をする梅渓とやらいう家との縁を太く繋げたのは其方ぞ?」
「れーが、ですか?」
「うむ。其方が初めてあったその家の娘を助けてやった。その親切が娘の心を開かせた。それだけではないぞ。失敗をして羞じていた娘の心を、解きほぐしてやったではないか。その行いが娘の信を得、ひいてはその親、祖父の信を得たのじゃ。兄一人ではそこまでの信と縁を得るには、時間がかかったであろうよ。其方の行いが、兄を助けたのじゃ。誇るがよい」
「でもれー、なごちゃんがこうしゃくけのおじょうさんとかかんけいなく、なごちゃんだからなかよくなりたかっただけで……」
「それでよいのじゃ。生き物の関りは計算だけでは何ともならぬ。役に立たないと思っていた行動が何かの役に立つこともあれば、役に立つだろうと思ったことが全く役に立たぬということもある。ただ一つ言えることがあるとすれば、相手に対して向けた敵意は確実に敵意として返って来るじゃろうが、情けは仇になることは少ない。敵意を向けてくる輩に優しくしてやれとは言わぬが、直接関係がなく、こちらから敵意を向ける理由がないのであれば、嫌うより無関心でいてやれ」
ちょっと考えてレグルスくんは「はい!」と良い子のお返事を返す。
そうだよね、敵意を向けられるよりは無関心でいてくれる方がなんぼか有難い。それは私だって分かる。当事者にそれをされるとイラっとするけど、関係がないなら敵意より無関心で放置だよ。
だけど、そうだな。
梅渓家との繋がりの最初はヴィクトルさんや冒険者のバーバリアンが持って来てくれたものだし、その後の信用を稼いでくれたのはロートリンゲン公爵閣下や先生方、それ以上に繋がりを太くしてくれたのはレグルスくんと和嬢の関係だ。
私の実績だけではこうはいってない。守ってるつもりで守られてるのは、いつもこっちなんだよね。
レグルスくんのふわふわの髪の毛に手を伸ばして撫でると、きゃっきゃとひよこちゃんがはしゃぐ。
「レグルスくんが応援してくれるの、凄く心強いよ。いつもありがとう。レグルスくんが傍にいてくれるから、私は頑張れてるんだと思う。大好きだよ」
「うん。れーも、にぃにがだいすき!」
ぎゅうぎゅうひよこちゃんと抱き合っていると、姫君様のころころと鈴を転がすような笑い声が聞こえた。
姫君様の有難いお話の後は、お歌を歌ってまた数日後のお約束をして本日の会は解散。
まだ午前中だったので、庭菜園で収穫がある。
レグルスくんと手を繋いで菜園に到着すると、源三さんと一緒に奏くんと紡くんが道具の用意をしていて。
私達の姿を見つけた奏くんが手を振って来た。
それに朝の挨拶をすると、私はハッとして奏くんの肩を掴んだ。
「え? 何? どうしたん、若様?」
「奏くん、イゴール様のご加護があるって言ってたよね?」
「あ? おお。あるよ」
「紡くんも……?」
「お? うん。あれ? 言ってなかった?」
「聞いた? え? 聞いたのかな?」
「えー……言ったような気がするけどな?」
こてんと首を傾げる奏くんに、ひよこちゃんも紡くんも同じように首を傾げる。
三人のこの反応を見るに、やっぱり私が聞いてなかっただけなんだろうか?
だって紡くんもひよこちゃんも「いったと思うけどな~」ってお顔だし。
じゃあ、私が忘れてるだけなのかも。っていうか忘れてただけの気がしてきた。しかし。
「奏!? 初耳なんじゃが!?」
「え? あれ? おっかしいなぁ?」
「つむ、じいちゃんにいわなかった?」
「じいちゃん、今知ったぞ!?」
あわあわと源三さんが紡くんと奏くんの間で、視線を右往左往させる。
ステータスなんか親子兄弟でも、本人が見せる気にならなきゃ見ないもんだ。
源三さんは奏くんと紡くんを尊重して、ステータスを見たり聞いたりしてなかったんだろう。
あ、そういえば。
「源三さん、源三さんって無双一身流の唯一の後継者なんですよね? もしかして武神のご加護って……」
「は、あ、ありますが……?」
わぉ。
もしかして奏くんと紡くんが揉めてたのも、一種の試練だったりしてね……?
いや、でも、あの頃の奏くんはご加護なかった訳だし。だけど結果として私とレグルスくんは奏くんという親友を得たわけだし、後々それは紡くんとの縁に繋がったわけで。
「人生って色々だね……」
ちょっと遠い目をして話しかけると、源三さんが苦笑いを浮かべた。
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