中二じゃなくたって罹るヤツは罹るアレ
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梅渓家の跡継ぎ君は、なんというか本当に変わった男の子なんだそうで。
ちょっとぶつかって青あざが出来たら包帯を厳重に巻いて「この痣は、きっと何かの天啓……!」とかやってみたり、スキル【千里眼】を身に付けるために滝行に勤しんでみたり。
他人より自分は優れてるっていう自信に溢れているせいか、態度は尊大。使う言葉もちょっと偉そう。ただ統理殿下以外全方向そういう態度なので、裏表は多分ないんだろうなー……と思われているらしい。
統理殿下は彼の尊大な態度を咎めることはなく、けれど余裕をもっていなしていたら懐かれたそうだ。直接稽古とはいえ剣を交えて倒したのも、懐かれる一因にはなったかもしれない。
それで統理殿下に言わせると、和嬢へのあれは「大人の手を煩わせずとも、私が解決してやろう!」という意気込みが内に隠されていた可能性があるとか。
ただ、私のことが気に入らないっていうのはたしかだそうで、それが「菊乃井より条件のいいところへ嫁がせたら?」発言に繋がったのは否めないらしい。
そんな傍から聞いていると残念な坊ちゃんは、でも学問に関してはかなり成績がいいそうだ。こと魔術に関しては、同世代でも抜きんでているらしく、そういうところが梅渓宰相によく似ているんだってさ。
違うのは才走りすぎて鼻に付くし、態度が悪い。
そうはいっても統理殿下以外には誰に対してもそうだし、かのシュタウフェン公爵家の長男ともバチバチやってるご関係だそうな。
「面倒くさい……」
心底から思ったことが口から出てしまった。
統理殿下が苦笑いしながら『まあまあ』と手をひらひらさせる。
『そういうなよ。あれで話せば解るところもあるんだ』
『どこがですか……!?』
シオン殿下のお顔に『心底解りませんが?』って書いてある。私も同意だ。
そんな私達の様子に統理殿下が説明をしてくれた。
たしかに性格には難がある。だけどそんな尊大な態度なわりに、身分の上下で人の質が決まることはないし、生まれで良し悪しは定まらない。まして性別で出来ることに区別はあっても、そこに優劣はないとも考えているらしい。
ようは自分より皆弱くて賢くないんだから、優秀な自分が守ってやんないとっていうね!
だけど、その自分は優秀っていうのも、統理殿下みたいに崩すことが出来れば、ある程度敬意をもって接せられるそうな。
「つまり、どっちが上か解らせたらいいってことですか?」
『早い話をすれば、な』
「その人、野生動物かなんかですか?」
『鳳蝶、そういうのは兄上じゃなくて本人に聞いてやってよ』
「えー……」
だから関わり合いたくないって言ってんじゃん。
ジト目で皇子殿下方を見れば、兄の方は苦笑いが張り付いてるし、弟の方は凄く愉しそうだ。
でもなー、宰相家の跡取りがそういう人だと、後々レグルスくんと和嬢の関係に何かありそうなんだよなぁ。私だけのことなら放置一択なんだけども。
だいたい何で面識もない宰相家の跡取り小僧に威嚇されにゃならんのだ。
イラっとしてきたのが伝わったのか、シオン殿下がにやりと口の端を上げた。
『今社交界では鳳蝶は僕ら兄弟の歳の離れたお友達として、特別な間柄って目されてるわけだし? あっちとしては気になるだろうね?』
「ゾフィー嬢もそんなようなことを仰ってましたね」
『それにレクス・ソムニウムの後継者って、魔術師界で君は有名になっちゃってるし』
「はぁ? そんなの偶々じゃないですか」
『そ、あっちも偶々だと思ってるわけだよ。同じチャンスがあったら、自分だって選ばれる筈だってね』
「それほどの実力者なので?」
『僕と互角の打ち合いは出来る』
「なるほど」
それはそれは。
シオン殿下も普通の大人からしたら、魔術の腕はかなり高い。それと互角なら、たしかに強いほうだな。「帝都では」っていう但し書きは付くけど。
どっちにしても筋違いな嫉妬ではあるな。
それにしたって公爵家の大人達は、それを注意しないんだろうか?
疑問を口に出せば統理殿下が肩をすくめた。
『注意はしている。しているが、あまり響いてない。それに……』
「それに?」
『父上によると、宰相の長男次男も昔はあんな感じだったそうで、時期が来たらパタッとそういうのがなくなったらしい』
「へぇ?」
『なんだったかな? 長男の方は右目に精霊が宿ってるとか思い込んでたらしく、次男の方は封じられた左手が疼く~とかなんとかやってたそうでな。幼年学校に入って暫くしてぱったりそういうのがなくなって、その時期辺りのことは触れられたくないとかなんとか……』
「うん?」
『なんか、こう、一過性の思い込みみたいなもんで、客観的に自分を見られるようになると、その時期のことは恥ずかしすぎて触れられたくなくなる……とか言ってたかな?』
お? ちょっと風向きが変な方に変わって来たぞ?
要領を得ないと言えばそうなんだけど、なんかそういう特定の時期に自尊心やらなんやらが大きくなっちゃうような現象が、前世でもあった筈だ。今生でも、最近見た。いや、聞いた。そして「あー……大人になったとき大変だー……」って他人事みたいに思ったやつが。
考えていると、シオン殿下がふと口を開いた。
『それ、この間ソーニャ様が仰ってたやつですよね? なんか初代の皇妃殿下が「黒歴史」とか表現するって仰ってたとか、なんとか……?』
ぎょっとする。けど、それは一瞬で納得に変わる。
帝国の初代皇妃殿下は渡り人で、議会がどうのっていう話も宿題として置いていったけど、ご子孫方に「この紋所が目に入らぬか!」とか、お忍びで出た先で揉め事の解決のために「頭が高い! 控えおろう!」ってやれって教えていった癖のある御方だったはずだ。そういう言葉を遺していっててもおかしくはない。
でも黒歴史になるのって大概「認めたくない若さゆえの過ち」ってやつなんだよな。そしてこのセリフも実はそれっぽいんだけど。
痛くなってきた眉間を揉み解すと、何とはなしにお二人に向かって言葉が出て来た。
「あのー、それっていきなり『俺より強いヤツに会いに行く!』とか言い出したりする感じだったりします?」
私の疑問に、二人の皇子殿下はそれぞれに考える仕草を見せる。そして二人して顔を合わせると『多分?』と声をハモらせた。
なるほど、面倒くささの正体が掴めた。
「そういう子、うちにもいますよ」
『え?』
『そうなの?』
「はい」
とはいえ、私はあの子に困らせられたことはない。だってウチには賢くて強い肝っ玉母さんがいるんだもん。
頷いた私に、殿下方が怪訝そうな顔で首を傾げる。夏に我が家に逗留したときのことを思い出してるんだろうけど、あの時には既に肝っ玉母さんに「解らせられた」後だったんだよね。
思いつかなかったんだろう皇子殿下方が、やっぱり怪訝そうな顔で私を見る。
私はぐりぐりと眉間を押しつつ答えた。
「ラシードさんの使い魔の絹毛羊の王子様・ナースィルですよ。あの子、『強いヤツに会いに行く!』とかって修行のためにラシードさんと契約して当家に来たんです。そう何日もしないうちに、ポニ子さんの踵落しを喰らって現実を解らせられたみたいですけど」
『ポニ子さんって、あの大人しそうなポニーの?』
「はい。アレでポニ子さんは菊乃井家動物ヒエラルキーの頂点なので」
目をパチパチさせるシオン殿下の言葉に頷く。
画面の向こうでは統理殿下も『ほー』だか『へー』だか、声を上げていた。かと思うと、統理殿下はにわかに苦笑しつつ仰る。
『お前の家は大人しそうなものほど、そうでもないんだな』
どういう意味だってばよ。
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