だから本当にそうじゃないんだからね!?
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『あー……なんだ……その……お疲れ……?』
遠距離映像通信用の布の中で、統理殿下が心底から同情してるよってお顔で、そんなことを言う。統理殿下の隣に座っているシオン殿下の視線は凄く逸らされてるし。
解るよ。他人だったら私もそういうリアクションになると思うし。
ロスマリウス様と氷輪様が来てくださった翌日、私の元に皇子殿下方から通信が入った。
用件は以前ロマノフ先生から聞いていた、シュタウフェン公爵家がバーンシュタイン家と接触を図っていることについて。
もうソーニャさんがこっちに来たことで、何か話がついてるだろうってことだったんだけど。
あの日起こった「あっちゃいけない物があるんですが!?」事件のせいで、その話をしそびれてたんだよね。
ついでだから消えた旧火神教団が保持していたイシュト様の古龍の諸々についてやら、勝手に増えて行く古龍の諸々の話のご報告をしたらこうだよ。
物はいいんだ、本当に。古龍の鱗や牙や諸々なんて、望んでも手に入らないんだから。
だけどそれが大量にあるっていうのが、どんな事態を運んで来るやら。
悩む私に、同じくらい悩み深い顔で、統理殿下が溜息を吐いた。
『旧火神教団から消えた火神の古龍の諸々に関しては、宰相や父上のお耳に入れておくよ。お前からも一応報告申し上げてくれ。この件はそれでおしまいの方向に持っていく』
「ありがとうございます。そうしていただけると、気持ちが楽になります」
奇しくも六柱の神様の古龍の諸々が手元に揃っちゃっただけでも、大概えらいこっちゃ事案なのに、盗難疑惑とか本当にヤダ。心臓に悪い。
それが解消されるのはホッとした。
しわが寄ってるだろう眉間を解していると、シオン殿下がこてりと首を傾げる。
『そういえば旧火神教団の真っ当な信者は、武神山派と号して菊乃井の新しい領地のほうにいるんだろう? 彼らはなんて言ってるんだい?』
「あそこは……」
朝一で威龍さんには連絡を取った。
彼からの返事は「あれが消えてしまったのは武神の思し召しだと思っていたので、それが教主様の元にあるのであれば寧ろ安心できます」とさ。
悪用したらどうするんだろうね……。
皆、私に対して期待値っていうか信用度っていうか、そういうのが高すぎるよ。
ため息交じりにそんな話をすれば、皇子殿下方は顔を見合わせてそれから苦笑される。
『悪用しようという人間が、顔を真っ青にして「どうしたらいいんですか!?」なんて相談しないだろう』
「今はしないと思ってても、お金がどうしても要るってなったら解らないじゃないですか?」
『それなら買い手がつくか解らない市場に流すより、国のような確実にある程度大金が一括で払えるところに任せるんじゃないの?』
まあ、たしかに。
買い手がつくか解らないところよりも、確実に買ってくれそうなお国や関係諸神殿にねじ込むわな。
ともあれ、痛くない腹を探られないように協力してくださると言質はくださった。この件はこれにて一件落着。
えんちゃん様の古龍の鱗についても、陛下と宰相閣下に話しておいてくださるそうだ。もしかすると楼蘭まで話がいって、あちらが引き取ると言ってくれるかも知れないそうな。
それで本題、シュタウフェン公爵家とバーンシュタイン家なんだけど、これがまた。
『バーンシュタイン家は記念祭後に代替わりしてな。当主はお前の元父親の兄だ』
「……それはそれは。お悔やみが必要でしょうか?」
『いや、前代は隠居しただけで壮健だ。まあいい歳だからな』
「なるほど」
『前代は孫の窮状を聞かされて恥じ入って社交界から遠ざかった』
「遠ざかるより、婿養子に行ったとはいえ我が子。叱りつけて道を正してほしいところですがね」
統理殿下の口から出てくる情報に、冷ややかな言葉が出てくる。いるんだよな、手も出さないけど口も出さないことが正義みたいに思ってる人。
悪事の傍観者は大体において加害者側なんだぜ?
皮肉気に口の端を引き上げると、統理殿下も頷く。シオン殿下も冷ややかな眼差しだ。
前代が引退して代替わりした途端にシュタウフェン公爵家と付き合いが始まったそうな。となると、当代のバーンシュタイン家の当主は、前代と違って口出しする気満々ってとこか。
推測を口にすると、シオン殿下が『正解』と応じられた。
『君の元父上である弟とそっくりな小者だ。君が今まで相手にしてきたのとは比べ物にならない』
「いや、あんまり大物とばかりやり合いたくないです」
『かといって小者は小者でやりづらいだろう? 考えていることの意味が解らない』
たしかにそういう面はある。でも相手が小さいとか大きいとかよりは、価値観の問題っていうのがあるかも知れない。
此方が苦笑していると、シオン殿下の唇が引き上がる。楽しそうなそれに、ちょっと悪寒を感じていると、統理殿下が心底から気の毒そうな顔を向けてきた。
ニタリとシオン殿下が口を開く。
『ところで宰相のところの孫と何やらあったんだって?』
来たよ。
ジト目になりつつ、こっちも口を開いた。
「特に何もないですよ?」
『えー? じいが「我が孫の番が回ってきたようですのう」って言ってたけど?』
「何のことやら」
ニヨニヨ笑いが止まらないのか、シオン殿下は凄く楽しそうだ。
こうなる気がしてたから、連絡取りたくなかったんだよ。
通信を始める前にロッテンマイヤーさんが用意していってくれたみかん茶の甘さが沁みる。そういえばこれも去年いただいた蜜柑から作ったんだよなぁ……。
ぼんやり視線を遠くに飛ばしながらお茶を楽しんでいると、統理殿下がシオン殿下を止めるのが聞こえた。
『アイツもちょっと言い方が悪いだけで、中身はそう悪いヤツではないんだから……』
『中身なんて付き合わないと解らないじゃないですか。あれじゃあ初対面の印象が悪すぎて、付き合う気すら起こりませんよ、兄上』
『う、ま、まぁ変わったヤツではあるけれど……』
変わったヤツ。
初対面で付き合う気すら起きないって、いきなり暴言でも吐いて来るんだろうか?
いや、それなら皇子殿下方に目通りも出来ないはずだ。
話を聞いていると、統理殿下が弁明するように重ねて『悪い奴じゃ本当にないんだ』という。
「そう言われましても……。和嬢に『伯父上もお祖父様も忙しいんだから煩わせるな』と言ったのは……」
『あれはその後に『だから私に相談するがいい!』というのが無音で入るんだ、多分』
「はぁ?」
今、絶対私の眉間には物凄いしわが浮いている。
いや、解らん。どうやったらそんな魔変換が出来るんだ。
統理殿下の傍らでシオン殿下が物凄い表情をしている。多分その表情と、私が顔に浮かべているのは同じのはずだ。
統理殿下も無理があるのは承知の主張なのか、視線がちょっと明後日に向いてる。
そんな兄に向ってシオン殿下はむすっとした顔を見せて。
『兄上はアイツを庇い過ぎですよ。だいたいアイツ、ちょっとぶつけて青あざ作ったからって大量に腕に包帯捲いてみたり、修行していずれ第三の目が開くだとか……! 【千里眼】のスキルってそういうものじゃないでしょう!?』
『ま、まあ、そうなんだけどな? そうなんだけど、アイツのあれは鳳蝶の「手助けなんかじゃありません! 等価交換ですからね! 貴方のためじゃありませんからね!」っていうのと同じで……その……良い人に見られるのが恥ずかしいとか、そういうのの行き過ぎたやつでな?』
「は!? 私のことそんな風に思ってたんですか!?」
聞き捨てならないことをどさくさ紛れで言われて、眉が跳ねる。
そんな私に画面の向こうで統理殿下が「あ、まずい」って顔をした。
っていうか、人のことをツンデレみたいにいうな。そう思った瞬間、前世の「俺」がツンデレの概念を脳に流し込んで来る。
ようは好意があるのに意地っ張りなせいで、それが上手く表現できず、結果ツンツンした刺々しい態度を取りがち。でも心の中では非常に他人を心配していたり、思いやっていたりと、裏腹かつややこしい態度を取って来るという。
「だから! そういうんじゃないって! いってるじゃないですか!」
ゾゾッと流し込まれた概念に、鳥肌が立つのを止められなかった。
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