叩くからポケットの中でビスケットは増えるのであって、何もしないで増えたらホラー。
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次回の更新は、1/29です。
この古龍の諸々が入った袋をいただいたのは、今年のお正月。私への誕生日プレゼントとして、神様方からいただいたんだ。
このときにはまだイシュト様と御目通りしておらず、中にイシュト様の古龍の鱗はなくて。
プシュケはそのときいただいた鱗を素材に作ってもらったもので、今年の初めには五個しかなかったんだよね。
でもイシュト様が火神教団の色々を解決する報酬の前渡しとして、柘榴色のプシュケをくださり、それで六個。六柱の神様の古龍の鱗を使ったプシュケが揃うことになったわけだ。
だからうちにいただいたプシュケ以外に、イシュト様の古龍に纏わるナニカはない。っていうか、あったらおかしいんだけど!?
なんで!? どうして!?
グルグルとお目目を回していると、私の異変に気が付いたのか、ソーニャさんが肩に触れてくる。
「あっちゃん、どうしたの?」
「いえ、あの、これ……」
ここにあっちゃ駄目なヤツなんです。
そう言ってツラツラとイシュト様の古龍の諸々が本来ここにあるはずないのに、何故かあることを説明する。
ソーニャさんが大きなため息を吐いた。
「火神教団の本拠地から、かつて武神が歴代の教主に与えたとされる鱗や諸々が消えてしまったらしいけれど……。どさくさに紛れて盗まれたんじゃないかって話になってたような?」
「そうなんです! でも、これはそれじゃない……はず! なんであるのか分かんないですけど!?」
もう意味が解らなすぎて半泣きだ。
そんな私を落ち着かせるように、ソーニャさんが背中をポンポンと柔らかく叩いてくれる。
「大丈夫よ。あっちゃんが教団から取りあげたとは思ってないから。それに仮令教団の本拠地から消えた鱗があっちゃんの手元にあったとしても、教団の人は何も思わないんじゃないかしら。だって代表者の人が、あっちゃんに預けようと思ってたのにって供述してるし」
「そ、そうですか?」
っていうか、そんな由緒ある古龍の諸々なんか預けられても困るんだけど。
とりあえず、これはちょっとナイナイ。
なんでイシュト様の古龍の鱗とか諸々があるかは、ご本人か近しいお方にお訊ねするよりないだろう。
問題は何方にお話すればいいかっていうこと。
姫君様とは二日後にお会いするからそのときにお訊ねするべきだろう。でもあと二日もこの問題を抱えたままでいるって、正直怖い。
今日、氷輪様はおいでくださるだろうか?
ともかく私のお正月用の衣装にビーズとして使う分の鱗をソーニャさんに選んでもらう。
ソーニャさんが選んだのは元々いただいていた姫君様や氷輪様の古龍の鱗。だけどそれも探している最中に、凄く違和感があった。
いただいたものはちょいちょい使っている筈なのに、なんか減ってないどころか増えている。
ホラーだ。凄く怖い。
袋の中身を確認する間にも、どんどん血の気が引いていく私を心配しつつ、ソーニャさんは帝都に戻って行った。
もうこんな怖いこと、黙ってるなんて出来ない。
夕食時に先生達に相談する意味でも話したんだけど、レグルスくん以外お給仕をしてくれていたロッテンマイヤーさんすらも顔色が悪くなっていた。
だって増えてるって何? しかも出所不明のイシュト様の古龍の諸々がある?
絶対おかしいじゃん!
今日の夕飯だって凄く美味しい物だったはずなのに、何を食べたか全く覚えてない。
そのくらい焦っていたわけだけど。
「やー、悪かったって」
その夜、氷輪様に首根っこをひっ掴まれたロスマリウス様が軽く仰った。
月の氷輪様のお宮から私をご覧になっていて、物凄くガクブルしてたのでその原因のロスマリウス様を捕まえて来てくださったそうで。
良かった……! これで悩みが一つ減る!
お出でくださったお礼を申し上げて、お茶の準備をしておもてなし。
氷輪様はロスマリウス様を指差して『お前の苦悩はこれが原因だから、茶なぞくれてやらんでいい』とは仰ったんだけど、そういうわけにもいかない。
丁度ポン菓子があったので、それをお出しするとロスマリウス様は豪快な笑みをその精悍な面に浮かべられた。
「お、また新しい菓子か。お前のところは旨いものが多くていい」
「ありがとうございます。料理長と董子さんに代わってお礼申し上げます」
ロスマリウス様がお持ちくださったラグに三人で座って、お茶会の開始。
ところで、私の悩みの原因とはなんだろう?
お訊ねすると、氷輪様が視線をロスマリウス様に向ける。ロスマリウス様はといえば、飄々と肩をすくめられて。
「ああ、俺らのところには古龍の鱗だの何だのが山のようにあるってのは知ってるだろ?」
「はい」
話を向けられて頷く。
神様方の飼っている古龍は、まだ単に龍って呼ばれていた時から繰り返し脱皮してきた。そのときに抜けた鬣だの髭だの爪だの鱗・逆鱗だのが、お手元には庭の敷石にするくらい山ほど、それこそ掃いて捨てるほどに積み上がっているというのはいつか教えていただいたことだ。
ロスマリウス様やイゴール様、えんちゃん様は、自分達が要らないと思うようなそういうものを、人間や魔族、エルフやドワーフ、獣人達がこぞって欲しがることをご存じ。だから時々気に入った誰かに、こんな捨てるものでも喜んでくれるならと渡していたらしい。それに倣ってイシュト様も信徒の武器や防具に使えるならと、下賜してたんだって。
でも渡す数より降り積もる古龍の諸々の方が多い。
そこでロスマリウス様はいいことを思いついたそうだ。
「お前にやった袋に、そういう要らない諸々でわりといいヤツを転移してやってりゃ、そのうち使うだろうと思ってよ。お前、色々作るの好きだろ? それで、ウチのティアマトに俺が作ったお前の家の袋に諸々が転移する魔術を教えといたんだよ」
「は、はぁ……?」
「そうしたらだな、遊びに来た艶陽の古龍にその魔術を良かれと思ってティアマトが教えたんだよ」
「え、えー……?」
「でだ。艶陽の古龍が『こんな便利な魔術を教わった!』って、付き合いのあるイゴールやら百華やらイシュトの古龍に教えちまったんだとよ。アイツら古龍自体も自分の鱗やら色々の処理に困ってたみてぇでな」
何でやねん。
聞いていることは理解出来るけど、起こっている現象が理解できない。
いや、皆様方の古龍にも交友関係があるのは解った。凄く微笑ましいですね。
ちょっと言葉が出ないでいると、氷輪様がちょっと困ったような顔をされる。そしてロスマリウス様から『ここからは我が話そう』と話を引き取った。
『その……、お前もあったことのある我の猫の編みぐるみは、艶陽のところの編みぐるみ達と仲が良くてな。艶陽の古龍があれの編みぐるみに教えた魔術を、遊びに行ったときに教わってきたそうだ。そしてそれを嫦娥に教えたらしい』
「わぁ」
思わず遠い目をしていると、ばんばんとロスマリウス様に背中を叩かれる。
気兼ねなく何にでも使ったらいいし、何ならEffet・Papillonの商品にどんどこ使えばいい。そう仰ってくださる。
だって神様にはそれこそ砂漠の砂くらい沢山あって、どうでもいい物らしいから。
だけどそれは神様の価値観であって、地上の価値観ではないんだよなー……。
話を聞いて遠い目にはなったものの、袋の中身がいつの間にか増えていることについては解った。
あるはずのないイシュト様の古龍の諸々があるのも、その魔術が原因なんだろう。
ちょっと安心は出来た。
胸を撫でおろしていると、ロスマリウス様が「違うぞ?」と仰る。
「え? 違うって?」
「イシュトの古龍のあれは、火神教団の歴代教主が下賜されたものだ。イシュトの周りにいる歴代教主の魂にどうするか聞いたら、今度のことの礼に全部お前に渡してくれって願われたんだとよ」
「Oh……!」
そういうことは、先に仰ってください……!
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。
 




