災難てそっちじゃなかったかも知れない。
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次回の更新は、1/26です。
ロマノフ先生の元に届いたソーニャさんとロートリンゲン閣下のお手紙は、それぞれ別日に出されたもので示し合わされて出された物ではないという。
というか、ロマノフ先生はロートリンゲン閣下の手紙をもって、ソーニャさんに話を伺ってくださったそうだ。
だけど情報の精度でいえばロートリンゲン閣下の手紙の方が格段に上らしい。
ソーニャさんは噂を耳にした時点で「こういう話があって」っていうレベルで手紙を書いたそうで、ロートリンゲン閣下の手紙は裏取りしてから書かれたものだから。
今頃、ロートリンゲン閣下は宰相閣下や陛下にこのお話をしていることだろう、とはソーニャさんとロマノフ先生の推測。
そして明日辺り、ヴィクトルさんに宰相閣下からお手紙が届くだろうっていう予測だ。
となると近いうちに皇子殿下方から通信が入るかもしれないな……。
動いてるのがシュタウフェン公爵家で、父だった人の実家が噛んでいる。実にきな臭い。
だけど何か企んでいるかも知れないって解った以上、何を考えているのか予測して対処法を練ることは出来る。
顎をなんとなく擦ると、レグルスくんと視線があった。普段元気な眉毛が、しょんぼりと下がっている。
「どうしたの、レグルスくん?」
「ちちうえ、またなにかにぃににいじわるしようとしてるの?」
「え? いや、今回は父上関係ないと思うよ」
「ほんとうに?」
しおしおするレグルスくんに「大丈夫だよ」と声をかける。
仮令父だった人が絡んで来てたとしても、あの人では私に毛の一筋でさえ傷をつけることは叶わない。物理精神両面、多分私の方が彼に致命傷を与える可能性のほうが高いんだけど。
好意の反対は無関心。もっともなことだ。私はあの人がレグルスくんに何か累を及ぼさない限りは、特に死んでいても生きていても好きにしてほしい。それくらいにどうでもいい。よしんば幸せであっても「同じ失敗しないといいね?」ってなもんだ。
そういえば風の噂で聞いたけど、あの人自分から断種したらしい。ケジメだとかいって。
それはいい。
今はしおしおのレグルスくんだよ。
「大丈夫だよ。別にシュタウフェン公爵家と仲が悪いわけでも、父上の実家と仲が悪いわけでもないし。お正月にご挨拶するかもしれないから、その打ち合わせかもしれないしね」
「そうなの?」
「うん。大人の世界のルールって沢山あってね。『初めまして、こんにちは』ってご挨拶するだけでも話しかける順番があったりするんだよ」
そう説明すると、レグルスくんがキョトンとする。そうだよなぁ、社交界というかそういう辺りのお作法の説明って難しいんだ。
例えば身分が下の人間から、上の人間に話しかけちゃいけないとか。
父の実家であるバーンシュタイン家は貴族っていっても騎士で、侯爵家の私においそれと自分達から話しかけられる立場にない。それでも話しかけたければ、私と繋がりがある菊乃井と同格かそれ以上のお家に取り持ってもらうしかないわけだ。だって私、バーンシュタイン家の人の顔知らないし。
ちょっと困っていると、ラーラさんが助け舟を出してくれた。
「まんまるちゃんもひよこちゃんも、バーンシュタイン家の人と会ったことないだろう? 初めて会うときには人に『この人はどこそこの誰誰さんです』って紹介してもらった方が会いやすい。それをシュタウフェン公爵家の人に頼んだんじゃないかな?」
「そうなの?」
レグルスくんがこてんと首を傾げて私を見る。コクコクと頷くと、ちょっとは納得してくれたみたい。眉毛がいつもと同じく凛々しく戻った。
とりあえずこの件はそれでおしまい。
仕掛けて来たとしても、それは私が解決すべきことでレグルスくんに気を揉ませるようなことじゃない。
それで、それから三日後。
ソーニャさんが「ちょっと相談が」と、菊乃井にいらした。
最近頻繁に菊乃井に来てくださるけど、お店とか大丈夫なのかな?
気になって聞いてみると、つい十日前くらいにお手伝いさんが来てくれたんだって。
その人、遠距離映像通信魔術使えるらしいので、何かあったらすぐに連絡してくれることになっているそうな。
「あれ、エルフの皆さん他所とは繋がりを断ってるって……?」
「ええ。でも暗黙の了解と偏見で他種族と関わらないだけで、特に掟というわけではないもの。よくは言われないでしょうけど」
「ああ……」
お茶を一口含んで頷く。
ロマノフ先生達だって里から出てるわけだし、希望したら出られるのはそうなんだな。ただ希望者は皆無に近く、マイノリティーはよくは言われない、と。
でも珍しくそういう人がいたから、ソーニャさんは菊乃井に来ることが出来ている。そして窓口業務の大事さも分かる人だから、お役所も許可を出したという感じだそうな。
執務室兼書斎のローテーブルには、ソーニャさんが持ってきてくださったお菓子に加えて、今度菊乃井から売り出すお米のお菓子が並んでいる。
菫子さんと料理長が共同で開発したんだけど、玄米をひたすら炒って弾けさせるやつ。前世では甘く味を付けてポン菓子って言われてたやつに近いかな?
トウモロコシが種類によって炒れば弾けるように、お米を炒ったらどうなるか実験してたら偶然出来て、そこに塩を振ったり水あめをかけたりしたら美味しかったんだってさ。
あの二人を一緒にしておくと、なんか色々美味しいものが出来上がる。凄く助かるし、食生活が豊かになるよね。
ソーニャさんも塩味の方が気に入ったみたいだから、後でお土産に包んでもらおうか。
それはさておき、相談ってなんだろな?
訊ねてみると、新年パーティーの服についての、で。
「ビーズ刺繍を取り入れようと思ったのだけど、中々釣り合うビーズがなくて。あっちゃんのところには神様方の飼っておられる古龍の鱗があるって、前にアリョーシャから聞いたのを思い出したの。もしよかったら、鱗の破片を使わせてもらえないかしら?」
「ああ、はい。そういうことでしたら」
ソーニャさんには最高のものを作っていただくために、必要なものがあるならなんでも言ってほしいと告げていた。
それに古龍の鱗なら、まだ残ってる。神様方は皆様「好きに使え」と仰ってくださっているし、私の衣装だったら大丈夫だろう。
そういうことで、ソーニャさんと一緒に自室へ。
クローゼットの中に仕舞ってあるから、早速ソーニャさんの目で選んでもらうことにした。
屋敷の中はいつだって綺麗に整えられているけれど、ソーニャさんが初めてここを訪れた祖母の時代からあまり劣化もしていないらしい。
それは偏にここに勤めてくれているメイドさんや執事さん達のお蔭だ。
私の部屋もいつも綺麗に整えてくれている。
自室の扉を開けて、一目散にクローゼットの扉を開けて、古龍の色々が入った袋を引っ張ると、僅かに違和感を感じた。
「え?」
「どうしたの、あっちゃん?」
「なんか、重いんです」
「あら?」
たしかに前に引っ張り出したときも、ラシードさんと二人がかりで動かした。しかし、そのときでも私一人で袋をクローゼットから引っ張りだすくらいは出来た。なのに今は私一人だとびくともしない。
なんか、嫌な予感がするぞ?
ともかく動かさないことには中身が見られない。そんなわけでソーニャさんにもお手伝いいただいて、袋を引っ張り出して中身を確認する。
すると中から柘榴の実のような色の鱗がポロリ……。三度見くらいしても、その鱗の紅さは変わらない。
なんで、これがあるんだ……!
ソーニャさんのおめめが点になった。
「あらあら、イシュト様の古龍の鱗もあるのねぇ?」
いや、それそこにあったらおかしいんですけども!?
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