そろそろ来るとは思ってたけど、来ていいとは言ってない。
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次回の更新は、1/22です。
ハリシャさんの手回しオルガンと紙芝居は、一言でいうと最! 高! だった。
紙芝居の物語はヴィンセントさんのマヌスキュアの原典にある物語「捨てられ王女と賢者の化粧」を下敷きにした話だったんだけど、これがまた。
お伽噺を聞かせるだけじゃなく、途中で計算問題や謎々のような謎解きを挟んだりして、私達紙芝居の視聴者にも参加させてくれる感じだったんだ。
しかも読み方も抑揚があったり、間が絶妙だったり。紙芝居っていうくらいだから、使われてるイラストも可愛いし見ていて飽きが来ない作りになっていた。
音楽も場面に合わせてカッコよかったり、悲し気だったり、おどろおどろしかったりで、思わず手に汗握っちゃったよ。本当に。
はぁ、満足。凄く良かった……!
レグルスくんや奏くん、紡くんも楽しかったみたいだし、アンジェちゃんなんか紙芝居の間ずっと百面相してたもんね。
「良かった……! 凄く素敵でした……!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「最高だったよな、若様!」
「おねえさんのおはなし、とってもおもしろかった!」
「アンジェ、このおはなしだいすき! ありがと、おねえさん!」
「おもしろかったです!」
私達は興奮しつつハリシャさんにお礼を言ったり、讃辞を送る。
「菊乃井歌劇団は凄いから、正直私の紙芝居なんてダメかなって思ってたんですけど」
「歌劇団は歌劇団の良さがあり、紙芝居には紙芝居の良さがありますから。どちらが秀でているとかではなく、どれも素晴らしいものです……!」
「そういってもらえると、自信が持てます。ありがとうございます!」
ハリシャさんが両手を握りながらブンブン上下に動かす。しっぽもパタンパタンしてる辺り、動物の狐より感情が尻尾と連動してるみたいだ。
これはでもなんでも市関係なく、見たいと思う子どもは多いだろう。もしかしたら大人だって楽しめるかも。
早速ルイさんとヴァーサさんに推薦状を書く。
なんでも市で大道芸として披露してもらうだけでなく、今後の幼児教育に是非とも活かしてほしい。そんな感じで。
ハリシャさんも今後菊乃井に留まり、幼児教育の研究を続けてくれるというし。
そんなわけでハリシャさんの手回しオルガンと紙芝居はなんでも市に出店確定だ。
彼女も浩然さんも今は菊乃井のお宿に宿泊してるけど、今後は菊乃井家が用意した家か空飛ぶ城の空いている部屋に移ってもらうことになる。
そういう話をすると、ちょっと考えてハリシャさんは空飛ぶ城の部屋を選んだ。
理由は空飛ぶ城にある図書館。
彼女の知らないお伽噺が収蔵されている可能性を考えると、それを探す時間が欲しいから、と。
浩然さんについても、空飛ぶ城のほうがいいかもしれないってことだ。
理由? 方向音痴が凄すぎるから。
菊乃井の町だと慣れてないから領外に出ちゃう可能性があるし、そもそも大根先生の研究室に辿り着けない可能性を考慮すると……と。
城なら案内人のうさおがいるし、ハリシャさんも大根先生もいる。外に行きたいときはハリシャさんが一緒に行けば迷わないだろうっていう。
そこまで言われるほどの方向音痴って怖い。
それで私達が紙芝居と手回しオルガンで盛り上がっている間に、美奈子先生の件は進展があった。
大根先生と浩然さんは、無事に美奈子先生に面会が叶ったそうだ。
だけど美奈子先生の体調が少し思わしくなくて、大根先生は私に言ったとおり疑似エリクサーを彼女に渡したという。
今のところ疑似エリクサーのお蔭でかなり回復はしたけれど、やはりお歳というのもあるし、象牙の斜塔からの旅で身体が弱っているので早いところゆっくりさせてあげた方がいいみたい。
一旦そう報告しに大根先生が戻ってきたところに、いい具合にヴィクトルさんが宰相閣下から私のお手紙への返事をもって戻っていらした。
なのでそのヴィクトルさんを捕まえて、大根先生はそのまままた梅渓領に。
因みに私の手紙を帝都の執務室で読んだ宰相閣下は、ヴィクトルさんに「吾が迎えに参りましょうぞ!」って飛び出していきそうだったらしい。
それをヴィクトルさんは「承知してくれるか分かんないし、承知してもらったあとの手配を先にしておきなよ!」と、久々に師として彼を諭したとか。
で、可愛いお弟子さんにせっつかれてたのもあって、大根先生が梅渓領に行くっていうのも「はいはい」って引き受けてくれたそうだ。
更に宰相閣下には美奈子先生に研究の件とお抱えになる件を承知してもらったことも、その足でお伝えくださったんだって。
「お、お疲れ様でした……!」
「全くだよ、けーたんも叔父様も相変わらず変に行動力あるから。もー!」
お夕飯の席で労いの言葉をかけると、ヴィクトルさんは顔を両手で覆って嘆いた。
本日、大根先生は浩然さんとハリシャさんを連れて、董子さんと識さん・ノエくん、ヴィンセントさんの暮らす寮へとお出かけ。弟子達の再会と集結とを祝って、食卓を囲むとか。
その席でハリシャさんと浩然さんに、識さんとノエくんを紹介して、彼らの顔つなぎをしておくって言ってた。
お土産に料理長が作った夕飯のおかずと、リュウモドキのベーコンをちょっとお渡ししておいたんだよね。あと、蜜柑のパウンドケーキ。
それで美奈子先生だけど、もう一つおまけがあって。
「けーたんが美奈子さん? 彼女に和嬢の家庭教師をお願いしたいって言っててね」
「なごちゃんの!?」
ヴィクトルさんの言葉に、いち早くレグルスくんが反応する。大事なお友達だもんね、気になっちゃうよねー!
ちょっと嬉しそうなレグルスくんに教えるように、ヴィクトルさんが話してくれたんだけど。
「マンドラゴラの協力を仰げる可能性のある和嬢が、そのメリット・デメリットを解らないようではいけないからね。丁度色々お勉強始める時期だから、お弟子さんを育てた経験のある美奈子先生にお願いできたらって」
「そうなんですか?」
「うん。美奈子先生、今一緒にいるお弟子さんを和嬢くらいの歳から育てたらしいからさ。自分みたいな年寄りがまだ役に立てるならって引き受けてくれたよ」
「なごちゃん、もっとたくさんごほんよめるようになりたいってえにっきにかいてたよ! ピヨ丸にごほんをよんであげたいし、れーがタラちゃんといっしょにじのれんしゅうをしたみたいにがんばりたいんだって」
「そうなんだ? 和嬢は頑張り屋さんなんだねぇ」
「うん! なごちゃんすごいんだよ!」
にこにこと和嬢の近況を色々教えてくれるレグルスくんにめっちゃ和む。はー、可愛い。和嬢も可愛い。
それにしても上手いこと人材がやって来てくれたな。
これこそ姫君様や神様方の御加護なんだろう。とすれば、そろそろ危難もやってきそうな気がするな。
ぼそっと零せば、ラーラさんが拾ったみたいで「どうしたの?」と声をかけられた。
そういえば姫君様からお聞きした、菊乃井に災難がどんどこやって来る理由を先生方にはまだ説明していなかった気がする。
思い出したときに話しておこう。ホウレンソウ大事。
ちょっと行儀が悪いんだけど、サラダをツンツンつつきながら姫君様からお聞きした「加護を沢山つけた絡みで人材や色々幸運がやって来るけど、その等価交換のように試練もやって来る。加護を外せば災難は少なくなるかもしれないけど、なんか起こったときに解決法も遠のくかもしれない」というのを話せば、三人の先生そろって「あー……」と天を仰いでしまわれた。
本当に言葉も出ないよね。
思わず遠い目をした私に、ロマノフ先生がこめかみを揉みながら「だからか……」と呟くのが聞こえた。
「だから、とは?」
「いえね。君のお父上だった方のご実家とシュタウフェン公爵家が、何某か秘密裏に、けれど頻繁にやり取りをしているという情報が入りまして。母とロートリンゲン公爵の二方面からだから、信ぴょう性はかなり高いんじゃないかと考えていたんですが……」
災難来ちゃったか……。
がくっと肩を落とした私を、ひよこちゃんが複雑な表情で見ていた。
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