芋づる式人材発掘
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次回の更新は、1/15です。
さて翌日、この日は来客がある日だ。
といっても大根先生のお弟子さんで、なんでも市で大道芸をやりたいって申し込みをしたお弟子さんと、それから予てから聞いてた防具の研究をやってる方向音痴のお弟子さん。
なんで二人が一緒になったかというと、大道芸の方のお弟子さんが菊乃井に向かう途中で、同じく菊乃井に向かうって言いながら正反対の街道を進もうとしてた防具を研究してるお弟子さんを捕まえて一緒に来たんだとか。
防具を研究するお弟子さんはどうも、菊乃井の近くを通ったのに、そこが菊乃井だって気が付かずにスルーしたらしい。方向音痴恐るべし。
「菊乃井への地図は渡したはずなんだがなぁ……?」
大根先生が大きく執務室兼書斎のソファーに座ってため息を吐く。
その斜め向かいに座った青と緑が混じったような髪色の糸目の男の人──浩然さん、エリーゼくらいの歳かな? その人がへらっと笑った。
「さーせん、なんか反対見てたみたいで」
「そうなんですよ。道が反対だって説得しても『先生がくれた地図が間違いなわけない!』とか言っちゃって。間違ってんのはアンタの目だよ!」
「ごめんって」
浩然さんの横でぷんぷん怒るのは黒と赤が混じったような髪色の狐耳の女の人──ハリシャさん、浩然さんと同じくらいの年代かな?
尻尾がぴこぴこ動くのに連動して、狐耳もぴくぴくしてる。
「なんにしても無事に到着なさってよかった。お待ちしてましたよ、お二人とも」
大根先生に連れられてこの部屋にやってきたときはガチガチに固まっていた二人だけど、ロッテンマイヤーさんが淹れてくれたお茶を飲んで人心地ついたのか穏やかな雰囲気だ。
このお二人は小さいときからの幼馴染で、大根先生の弟子になったのも同じような歳だったとか。なのでとても気安い関係らしい。
ハリシャさんプンプンしてるけど、本気で怒ってるっていうよりは心配が重なって小言を言ってる感じだもんね。
微笑ましいと思っているのがバレたのか、二人が私の顔を見て苦笑しつつ「ありがとうございます」と言う。
さて、本題に入ろう。
まずはハリシャさん。
彼女は菊乃井のなんでも市で大道芸をしたいそうだけど、それがどういう類なのかってやつ。
彼女はこの部屋に台車のようなものを持ち込んできた。その上はハンドルの付いた可愛らしい装飾の四角い箱。花や鳥の描かれたその箱の正面には、観音開きの扉が付いている。これってもしかして?
ワクワクして「これは?」と尋ねると、ハリシャさんはぐっと胸を誇らしげに張った。
「手回しオルガンと、私が作った紙芝居です!」
「手回しオルガンと紙芝居!?」
あー、やっぱり!!
誇らしげな表情でハリシャさんは観音開きの扉を開けた。そこには紙芝居の舞台木枠があって中には絵の描かれた紙が収まっている。
「これが私の研究というか、先生に幼児に勉強させる方法を考えて来なさいって言われて、考えてきた方法なんです」
元々ハリシャさんは音楽による魔術効果の増強を研究しているそうだ。音楽の響きに魔術を乗せることで、回復魔術の苦痛を軽減させられないか……とか。苦痛の無い回復魔術は識さんと研究分野が重なってるけど、彼女は音楽で魔術全般の効果の増強を研究しているんだって。
それで研究道具である手回しオルガンを使って、研究費と旅費を稼ぎつつ世界の音楽を探求してた。そこに大根先生から菊乃井に居を移す話と、私が歌うことで魔術を使うことも出来るっていう話を聞いたもんだから、これは「出番では?」と思った、と。
子どもの教育っていうと、本の語り聞かせが浮かんだらしいんだけど、それと音楽を組み合わせて盛り上げればもっといいのでは?
思いついてやってみたところ、結構行く先々で人気が出たそうだ。そして旅費も研究費も多少貯まったということで、満を持して菊乃井にやってきたという。
「それでこれを披露させていただきたいと思うんですが」
「そうですね。もう少ししたら弟と友人兄弟の勉強が終わるので、その子達と一緒に見たいんですが、それでいいですか?」
「勿論です!」
大勢で見てもらった方がやりがいがあるってことで、ハリシャさんは了解してくれた。
それで今度はハオランさんの方なんだけど。
大根先生に目を向けると、彼は小さく頷いた。
「浩然、吾輩がここに来るまでに説明したことだが覚えているね?」
「はい。一番末の妹弟子がどえらいことに巻き込まれてるってやつですね」
「そうだ。その件でお前の力が借りたいんだが」
「そんな水臭い! 研究も出来るし成果も試せる。その上妹弟子の助けになってやれるんでしょ? こっちからお願いしたいくらいですよ」
ぐっと拳を作って力強く浩然さんが言う。
彼の家は古くから続く防具職人の家なんだけど、家自体は彼のお兄さんが継ぐことになっている。浩然さんは家の技術を発展させたり新素材の研究を旨として、大根先生に弟子入りしたんだそうだ。
菊乃井のダンジョンは超稀少鉱物ヒヒイロカネの産出地でもある。あわよくばその超稀少鉱物を研究に使いたいそうな。
あー、でも、私もヒヒイロカネはまだ見たことないんだよなぁ。
たしか最後に産出されたのって、高祖父の時代だった……ような。つまりそれだけレアメタルなので、うーん。
しかし、それに代わる素材はある。空飛びクジラの骨だ。
骨自体は白鯨山に沢山転がっているけれど、採りに行くとなると出没するアンデッドの強さが気になる。でもそれを天秤にかけても欲しいと願うものがいるくらいには貴重な素材なんだそうだ。
「採りに行くときはこちらが全面的に協力します」
「はい、そのときはオレも一緒に行かせてもらいます!」
そういうことで、後で浩然さんには大根先生が識さんとノエくんを紹介するとか。
着々と人が集まって来る。
大根先生のお弟子さんって若い人が多いんだな。何とはなしにそういうと、大根先生が首を横に振った。
「そうでもないがね。年嵩の子達は所帯を持つと、その土地に留まることも多くてな」
「ああ、なるほど。家族で旅って中々大変ですもんね」
「何があっても旅を続ける子達もいるが、年を取るとそれが厳しくなってしまうこともあるだろう。研究はどこにいても出来るし、場所が解っていれば吾輩から会いにいけばいい」
「たしかに」
けどやっぱり象牙の斜塔にいづらいのはそうらしい。メジャーな学派に所属してないと、マウントとか取られて鬱陶しいんだって。
ハリシャさんも浩然さんもウンザリしながらそう言ってた。
その話の中で、ハリシャさんが「そういえば」と口を開く。
「先生、美奈子先生を覚えてますか?」
「うん? ああ、勿論」
訊ねられた大根先生が、ちょっと懐かしそうな顔をする。彼らの共通の知り合い、先生というからにはその美奈子さんは象牙の斜塔の賢者かしら?
ちょっと不思議そうな顔をすると、浩然さんが説明してくれた。
美奈子さんという人は、やっぱり象牙の斜塔の研究員かつ賢者だそうで、大根先生と同じく薬学の研究者だそうな。大根先生と共通して名声や富には興味がなく、自分の知りたいと思うことが世のため人のためになれば……ってタイプなんだって。
その彼女も歳が歳だからと、大根先生が菊乃井に居を定めたのを感じて、象牙の斜塔から離れたそうな。
研究一筋で生きて来た彼女は、帝国のそれなりの家のお人だったらしいけど、研究をしたくて家族の反対を押し切って象牙の斜塔に入った。そういう事情があるから、帰るところもない。
美奈子先生は何処かに落ち着きたいとはいってるけど……と、美奈子先生の弟子である友人が手紙をくれたそうな。
三人の視線が私に集中する。
「いいですよ、菊乃井に来てくださって。歓迎しますとも」
大歓迎だよ、そういう人は。
揉み手でもしながら迎えたいくらいだ。そう言えば、ぺこんとハリシャさんが私に頭を下げた。
「友達の話だと、美奈子先生ちょっと体調を崩されることが増えてて心配だったそうで。今帝国の『梅渓』っていう領地にいるそうなんですけど、早速連絡しますね!」
「ちょっと待った!」
おおぅ、これは根回し必須事案だぞ。
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