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冬仕度はチャンスを招く?

評価、ブックマークありがとうございます。

 結局、泣いたヴィクトルさんを宥めてあれこれしてるうちに、さつまいもは源三さんとラーラさんの手で熾火に埋められて、ほくほくで甘い焼き芋になっていた。

 うん、まあ、美味しく頂きましたよ。

 エルフも洟とか出るんだね、びっくり。

 それは兎も角として、奏くんは一度お家に帰る事にしたらしい。

 それでもレグルスくんと一緒にヴィクトルさんから魔術を教わることになったから、三日に一回は源三さんちに泊まって、一緒に通ってくるそうだ。

 どさくさ紛れに、私にもレグルスくんにも友達が出来ちゃった。

 風は段々強さと冷たさを増して、季節は冬へと向かっていく。

 その前に私にはやりたい事があって。

 魔術の勉強は先ず、集中力を養うのと、魔素神経を成長・定着させるために、瞑想から始まる。

 私は元々インドア派だからあんまり苦ではなかったんだけど、アウトドア派の奏くんとレグルスくんには、一定時間じっとしているのは結構辛いみたい。

 それを見越してヴィクトルさんは短い時間瞑想する、魔術の原理を実践と実験で見せる、また短い時間瞑想するって感じで、短時間集中を繰り返しているのだ。

 その間に私は、エリーゼに頼んで取り寄せて貰った毛糸でネックウォーマーを編む。

 本格的な冬が来る前に、レグルスくんの冬着を調えるのが私のやりたいこと。

 何着か宇都宮さんも持っては来たみたいだけど、残念ながらこどもは大きくなるのが早くて、去年のはほとんど着られないのだ。

 私のお下がりがあるけど、それはエリーゼにお願いして切らないで裾や袖を短くしてもらう。私って小さい頃から白豚だったらしく、レグルスくんなら詰めた裾や袖を伸ばしていけば、暫く楽々着れそうなんだもん。

 その間にあの人が、レグルスくんの養育に使えるお金を儲けてくれたら良いんだけど。

 取り決めの際、儲かるまでレグルスくんの生活にかかるお金は、全て父の借金に変わる事に。私としては借金を背負わせても構わないんだけど、成人したらそれをレグルスくんも背負わなければいけないとなれば話は別だ。

 節約して、少しでも借金にならないようにしてやらないと。

 因みに私の養育費は、ロマノフ先生が色々吹っ掛けてくれたらしく、常識の範囲内で使いたいだけ使えって感じになってる。

 なので、毛糸を私の趣味として山ほど買って、レグルスくんのマフラーやネックウォーマー、手袋、セーターに変えるという反則すれすれをやってるわけで。

 ちゃかちゃか編み棒を動かすと、スキルのお陰でさっさかさっさかネックウォーマーが編める。普段使いと洗い替えにマフラー・ネックウォーマーも手袋もセーターも最低二組は必要だし、セーターはもっといる。更にベストや帽子、靴下も何とかしなきゃ。

 座学は私も参加するから、二人の魔術のレッスンを見ながら一つめのネックウォーマーを完成させる。

 それを丁度瞑想が終わったレグルスくんに着けてやると、毛糸に顔を埋めて「きゃー!」と歓声をあげた。


 「あったかいのー!」

 「うん、後で巻いたときに止めておく用のボタンつけてあげるからね」

 「あい!」


 余裕を少し持たせてあるから、ちょっとモコモコだ。

 セーターも手袋も着けさせると、完全装備って感じになるな。

 外に遊びに行くならマフラーよりはネックウォーマーのがいい。マフラーは何かの拍子に引っ掛けると危ないもんね。

 そんな事を考えてると、ヴィクトルさんと奏くんがネックウォーマーをペタペタ触っていて。


 「なぁ、これ何だ?」

 「え? ネックウォーマーだけど?」

 「ネックウォーマー? マフラーみたいなもんか。それよりこれ、すげぇふかふかできもちいい」

 「あー……だろうねー。精霊が寄って集ってふかふかにして遊んでるもん。しかも何だか【氷結耐性】付いてるんだけど、れーたんはこれから氷竜退治にでも行くの?」


 なんでや。

 今まで刺繍に魔力ブーストがかかる事はあったけど、あれは特別なエルフ紋様を刺繍したからだ。

 でもネックウォーマーは本当に単なる毛糸。大量に仕入れる代わりに、ちょっとだけ安くして貰った品だもの。

 目をパチパチさせていると、ヴィクトルさんが私をじっと見て、「うーん」と眉を寄せた。


 「あーたんは、アレかな。付与魔術に特化してるのかもしれないね」

 「付与魔術?」

 「ふよ、まじゅちゅ?」

 「なぁ、ふよって何だ?」


 首を捻ったのは私だけではなく、レグルスくんも奏くんも、それぞれ頭に疑問が生えたようで。


 「あー……付与って言うのは、何かの効果を物や人に付けるってこと。例えば……」


 説明より見せる方が早いと思ったのか、ヴィクトルさんは奏くんにレグルスくんを抱っこさせた。当然重い。だけど、その後奏くんの手を柔らかく握って、ゴニョゴニョとエルフ語か何か、兎に角聞いたことのない言葉を紡いで。

 それから奏くんにもう一度レグルスくんを抱っこさせた。


 「うぇ!? めっちゃ、かるい!」

 「かなたんに腕力強化を付けたからね。簡単な話、これが付与魔術」


 奏くんに高い高いをされてきゃっきゃ喜ぶレグルスくんも、高い高いする本人もきゃっきゃうふふで、凄く可愛い。

 やだー、和むー。

 ほわっと、魔術のレッスンをしている大ホールの雰囲気が明るくなる。

 と、扉を叩く音がして、そちらを見ると、ラーラさんが開けた扉に身体をもたれさせて立っていた。

 僅かに口角が上がっていて、涼やかな流し目。

 いつみてもカッコいい。


 「ちょっとお邪魔するよ」

 「はい、どうぞ」


 高い高いをピタリと止めて、レグルスくんも奏くんも、ラーラさんを見つめていた。

 奏くんに言わせると、将来あんな風になったらカッコいいだろうなって思うとついつい見蕩れるんだそうな。気持ちは解る。超解る。


 「どうしたの、ラーラ」

 「うん、マリーから手紙が来てね。まんまるちゃんにお願いがあるんだそうだよ」

 「マリアさんが、私に?」


 ゆったりと手紙を指に挟みつつ、背筋をすらっと正して歩いて来る姿は、本当に綺麗。

 私の巻添えを食って奏くんもレグルスくんも、ラーラさんの歩き方レッスンを受けてたりするんだけど、こう言う歩き方が出来るようになるなら、やる気もでようってもんだよ。

 受け取った手紙には、思いがけない事が書いてあった。

 皇妃様がつまみ細工の髪留めを欲しいと言い出したとか。


 「……つまみ細工の髪留めが、そんなに……」

 「うん。まさか皇妃様の眼にまで留まるなんてね」

 「えー……そりゃ凄いね。あの皇妃様は物欲が本当に無くてね。皇帝陛下も誕生日にプレゼントを選ぶのに苦労しておられたよ。あんまり決まらないから本人に欲しいものを聞いたら『親子水入らずで過ごす休日』ってさ。それくらい物欲がないひとなんだけど」

 「手に入るなら欲しいって……えー……」


 困った。

 いや、つまみ細工自体は作れるんだけど、マリアさんにあげたのと同じだけの細工が出来るほど、姫君の布がもう残ってない。

 どうしようか。

 考えていると、ラーラさんがふとレグルスくんの首にまだかかっている物を見て、指を指すのが見えた。


 「まんまるちゃん、あれはなんだい?」

 「あれはネックウォーマーって言って、首回りの防寒具です」

 「ふぅん、あれってこの辺りで売ってるのかな?」

 「いや、どうかな……」


 答えに困っていると、レグルスくんと遊んでいた奏くんが「ねぇよ」と答えをくれた。


 「おれ、はじめて見たもん。街にはよく行くけど、そんなのねぇよ」

 「……だそうです」

 「と言うことは、まんまるちゃんのオリジナルだね」


 それはどうなんだろう。

 これは前世の記憶から引っ張り出してきたものだから、完全オリジナルとも言い難いんだけど。

 どうしたもんかとおもっていると、話はどんどん進む。


 「これ、材料は用意するから、ボクにも一つ作ってくれないかな」

 「え、あ、はい。構いませんが……。なんでまた?」

 「ボクも教師をやってないときは冒険者だし、冒険者の装備としてはマフラーより安全そうだからね。戦闘中に引っ張られたら危ない。だからマフラーはつけない方がいいんだけど、寒いのは嫌だったんだ」

 「ああ、なるほど……」


 って、これ、商売のチャンスなんでは?

 ぴーんっと来たのでちょっと確認。


 「これ、もし売ってたら、冒険者のひと、買うと思います?」

 「ああ……ある程度安かったら買うんじゃないかな。毛皮やら毛皮の襟巻が買えるほど、裕福なら兎も角」

 「じゃあ、もう一つ。マリアさんに渡した髪留め、皇妃様に献上したとして、欲しがるひとは増えると思いますか?」

 「うーん、ボクはその髪留めを見たことがないから解らないけど、上流階級から下層へお洒落ってのは流行るからね。需要は生まれるかも知れない」


 なら、今から作り手を養成しても間に合うだろうか。手作りだから、流行ったとしても渡せる数に限りがあるから、流行りも引き伸ばさなきゃならないし。

 でもそうなると、模造品が出てきたり……。

 いや、それに対抗するために技術と利権の保護も考えれば、或いは。


 「技術者の養成と保護、そのための法整備、それから何だ? 何がいる?」

 「あ、あーたん? どうしたの?」


 あ、ヤバい。頭が痛い。

 久々に襲う頭痛と吐き気に、意識が塗り潰される。

 でも気絶する前にやらなきゃいけないことを、誰かに覚えていて貰わなきゃ。

 肩を小さな手が掴む。

 くらくらする眼に見えたのは、奏くんの心配そうな顔で。


 「奏くん、お願い。覚えてて。技術者の養成と保護、そのための法律整備……」

 「わ、わかった! わかったから、しっかりしろよ!?」


 肩に置かれた手を握ると、ぎゅっと強く握り返してくれる。

 その強さにほっとしながら、私は意識を手放した。

お読み頂いてありがとう御座いました。

評価、感想、レビューなど頂けましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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