二人揃うと悪知恵がぽろり
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次回の更新は、1/12です。
災難がどんぶらこと押し寄せてくる理由は解ったけど、対処法としてはもうその都度最善を尽くして頑張れってことだよね。それでも姫君様によると、最悪の事態は姫君の厄除けがセイフティネットになってくれて避けられるみたい。
ただその最悪って言うのが予測できないっていうのが、また。
例えば大発生が起こって菊乃井領のほとんどが破壊し尽くされたとしても、レグルスくんを始め私が大事だと思う人達の命は助かるとか。或いはその逆も。
そのどちらも嫌なら全力で最善・最良を掴みにいけ、手抜きは許さん。そういうことのようだ。
姫君様の加護は、姫君様と同様、優しくはあるけど甘くはないということね。なるほど、今まで事が起こったら、出来る最善を取ってきたつもりだけど、それが最適解だったわけだ。
「これからも、頑張ります……」
「うむ。何度も言うが、妾の加護をもってしても避け得ぬ災難は、即ちそなたを磨く試練じゃ。心してかかれ。万事侮るな。仮令相手が野ネズミであれ、全力でかかるがよい」
「は、お言葉肝に銘じて」
ぺこっと姫君様に頭を下げると、隣のレグルスくんも同じく。
それでこの話はお終い。
私からはお祭りの規模やら会議で決まったことを、一応の進捗状況としてご報告。姫君様はところどころ相槌を打ちつつ聞いてくださる。
歌劇団の公演はレビュー全体がオリジナルのミュージカルの構成を下敷きにするのか、それとも一部だけになるかは、もう少しオリジナル楽曲の作成状況をみないといけないようだけど、やるにはやる。
そういう話になっていることをお話すると、姫君様は牡丹のように艶やかな唇を満足そうに引き上げた。
「ふむ、完全ではないが片鱗は見られるということか。完全に出来てからとも思っておったが、形になっていく過程を見るのも悪くはないのう」
「よりよくしていくためには、観客の反応を吸い上げるのも必要かと存じます。なのでもうしばらくお時間をいただくことになりますが、必ずや完成させてご覧にいれます」
「期待しておるぞ」
「はい!」
きっと必ず。
決意を込めて頷けば、隣のレグルスくんも手を元気に上げた。
「れーも、にぃにのおてつだいがんばります! ふえのれんしゅうもがんばります!」
「おお、そうじゃの。そちらのほうも期待しておるぞ、ひよこや」
「はい!」
お返事がとっても元気で可愛いひよこちゃんだけど、ちょっと私は背中に汗をかく。だってさぁ、お箏中々上達しないんだよー!
ヴィクトルさんは少しずつでも上達してるとは言ってくれるんだけど、そんな気が全然しない。やっぱり弾き語りは難しいんだよ。でも、頑張る。姫君様が期待してくれてるんだもの。臣は頑張りますとも。
兄弟揃ってもう一度「頑張ります」と言えば、姫君様はにこやかに団扇を振ってくださった。
後は武闘会となんでも市の話を軽く。
市が成功すれば新しい服飾の技術も生まれるかも知れない。姫君様はそれにはちょっと関心を示されたけど、後は鷹揚に「然様か」と。
「あい解った。これからも粛々と進めるように」
「はい」
「がんばります!」
一通りの説明をしてご納得いただけたようなので、今度こそはお歌の時間。
以前に歌って姫君様のお気に入りとなった、美女と野獣の恋物語に出てくるお歌を歌って過ごした。
この時間が私の楽しみでもあるんだけど、それが過ぎればまたお仕事ですよ。
お手紙を出して二日後の午後、次男坊さんから返事が届いた。
最初に結論からいうと、二人ほどなら何とかっていう。
これはうっかりだったんだけど、私のところのEffet・Papillon商会本店が人材不足なら、支店である次男坊さんのところも人手不足だったわけだよ。
そりゃそうだ。本店で使える人材が少ないのであれば、規模は小さくても似たような業務をしている支店だって登用できる人材も少ない。
次男坊さんのところの孤児院は、つまり支店の人材育成を担ってるわけだ。
いたたたた。
それでも二人ほど歌劇団の事務に来てくれるというか、歌劇団に就職希望を出して来た人が二人いるから渡りに船って話だったそうだ。
でも転んでもただで起きないのが次男坊さんだったわけで。
今、ほとんどの商会は見込みのある若い人を雇っては、自分のところで教育して、そのまま働いてもらっている。ようは丁稚奉公型の採用が多いみたい。幹部にするのはそういう子が多いというか。
だけどそれは手間暇コストがかかる。だから辞められちゃうとダメージが大きい。なので借金で縛ったり、のれん分けを条件に何年か年季奉公させるのだ。
そこで次男坊さんは「使える人材を備えて、派遣しちゃえばいいんでは?」と言ってきた。
此方で一定以上に育て上げた人材を、別の商会に派遣する。紹介先は商会だけじゃなく、お役所だっていいわけだよ。
直接雇用するのはEffet・Papillonだけど、業務に関する指示は派遣先が出す。給料やら福利厚生その他の費用はウチで出すけど、派遣先はその人材の斡旋料としてウチに幾許か払う。
これって働く側だってメリットがないわけじゃない。ウチが派遣するのは私や次男坊さんが厳選した派遣先だから、ブラックってことはない。そんなことは私達が許さないから。ちょっとお給料は直接雇用より下がるかもだけど、安心と安全は保障される。
将来は専門分野に強い人材だって育てる予定だから、彼らの就職先を確保する意味でも、人材派遣業は悪くないアイデアじゃないかな。
手紙は「いずれ人材派遣部門を立ちあげて、シュタウフェン公爵家の領地経営を人材のほうから押さえてやる。協力よろしく」と結んでいた。
遠回りだけど、彼の目標の手助けにはなりそうでよかった。
その辺りの話を夕飯のときにロマノフ先生達にすると、三先生と大根先生にちょっと苦笑されて。
「君は奏君と時々悪戯とか遊びの相談をしていますが、次男坊君ともそんな感じなんですね」
「悪戯っていうには、こう、なんか規模が大きいけどさ」
ロマノフ先生とヴィクトルさんが肩を揃ってすくめる。悪戯ってなんか悪だくみみたいでちょっと人聞きが悪いので、私は唇を尖らせてみた。
「悪戯っていうか、将来の展望の話なんですけども?」
「でも、それでシュタウフェン公爵家傾ける気満々なんだろう?」
「潰したりは考えてないですよ。公爵家ってそれ自体が大きな会社というか経済圏というかですし」
ラーラさんが小首を傾げるけど、潰す気なんかないよ。
公爵家が一つ潰れるとその領地にある商会やら、取引がある商会が大ダメージを受けるし、そうなると屋敷の使用人からその商会の従業員、その他末端に至るまでが失業してしまう。勿論そこで農業に従事する人や、商会に素材集めを依頼される冒険者達だって。
ありとあらゆるところに影響がでる。それが解ってるから、次男坊さんは家を潰すのでなく枯らすほうを選択したわけだし。
潰れた家門といえばお隣のバラス男爵のとこがそうだけど、あそこはそもそも私が取り上げた領地やら一切合切の権利をすぐにロートリンゲン公爵に返上した上、閣下の舵取りが巧みだったから混乱しなかった稀有な例だ。それは私にだって解ってる。
「ならば将来吾輩の弟子達が専門家として、各地に菊乃井ひいては Effet・Papillon代表として派遣されることもある、と」
「はい。でも嫌がる人を派遣することはないですし、派遣先に関しては私がきっちり精査します」
「鳳蝶殿のお眼鏡にかなうのであれば、まあ、大丈夫だと思っているよ」
とはいえ、そこに行くまでに色々道が遠いんだけどな。頑張って学校が開けるまで稼がないと。
ぐっと手を握ると、ひよこちゃんがこっちを見ていた。
「れーも、できることある?」
「そうだなぁ、応援してくれる? 『がんばれ! がんばれ!』って」
「うん! にぃに、がんばって!」
キラキラのおめめで「がんばれ! がんばれ!」って、ひよこちゃんがピヨピヨしてくれる。
あー、明日からもがんばれるわぁー……。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




