たしかに頂上決戦とは言ってるけど
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薄々解ってたけど、菊乃井の大人の人って私のことマスコットとか「ゆるキャラ」とかいうのと勘違いしてるよね? でなきゃ、私の絵姿で本を出すとか言わないだろう。
あれから頑張ったんだけど、賛成多数で私の肖像画の本が公式に出ることになってしまった。
なんでも市で旭さんとキリルさんが出すのは、公式で出す本の宣伝として限定数の販売を行うことに。
公式になってしまった以上、彼らに印刷料金を負担させておくわけにいかない。
きちんと料金をお支払いし、旭さんは絵担当、キリルさんには編集をお願いする運びになった。
なのでこの本はEffet・Papillon商会における出版物第一号となることに。私の肖像画の本が第一号って、きっつい。まあ、売れなけりゃ皆目を覚ますだろうさ……。
死んだ魚の目になりながら、会議は続く。
本以外に決まったのは、区画分け。
今のところ出店申し込みの問い合わせがあるのが、大きく分けると服飾系の屋台、大道芸、そして食べ物の屋台という感じ。なので広場の中央は大道芸の人のために確保して、広場を挟んで向かい合うように服飾系の屋台と食べ物系の屋台を配置することに。
服飾系と食べ物系はごっちゃにしてはいけない。
食べ物の匂いが布地に付いたりするのも困るし、アクセサリーなんかに使われる小さな部品がまかり間違って食べ物の中に混入しても困る。どちらにせよ揉め事が起こるからだ。
そういうわけで、この二つの販売所はあらかじめ離しておく。
広場の中央に関しては菊乃井歌劇団の公演のパブリックビューイングも予定しているから、大道芸の人達と時間調整か日数調整を行うことで合意。
というか、お祭りの日数を当初一日だけと考えていたんだけど、これはもしかすると増やしたほうがいいんでは……と。
ローランさんからこういう意見が出た。
「武闘会と特別公演を同日にやるのは、ちとキツいかもしれんなぁ。出場者が多いとそれだけトーナメント本戦に出てくる数も増える。一日で捌ききれるかどうか。予想以上に予選に出たいってヤツが多いんだよ」
「えー……どのくらい?」
「そうさな、俺が知ってるだけでもまずエストレージャにバーバリアン、それとあいつ等」
「アイツら?」
指を折るローランさんに、首をこてんと横に倒す。
アイツらって言われても思い当たる節があるようなないような。そういう顔をする私に、ロマノフ先生が「ああ」と呟く。
「例のリュウモドキから助けた子達が出るとか何とか?」
「おう。まあ、見どころのある奴らだったからな、いい線行くんじゃね? それから、晴からもベルジュラックと武神山派の兄ちゃんと三人で出るってよ」
「何でその組み合わせ……?」
ベルジュラックさんと威龍さんは帝都の武闘会で一緒に戦った仲だから解るんだけど、晴さんがちょっと解らない。
あの二人と晴さんって接点あったっけ?
その疑問にローランさんが答えてくれた。
「あの騒ぎのとき、晴がシェヘラザードのギルマスに話を通してくれたお蔭で大分やりやすかったろ? その礼をしたいって言ったから、俺のほうで奴らに紹介しといたんだよ。意気投合したみてぇでな、一緒に組んで出場するんだそうだ」
「ああ、なるほど。あの二人も自分の力を試してみたいですよね」
「まあ、帝都の武闘会はご領主様一人でもどうにかなった感が凄いからな」
「それは違うんだけどな……」
困惑しつつ首を左右にふれば、ローランさんも「解ってる」と手をひらひらさせた。
ローランさんによれば、私の強さが段違いであることはたしかだけど、彼らが協力して動いたお蔭で私が神龍召喚に集中出来たっていうのは、ある程度実力のあるパーティーには一目瞭然なんだとか。
なので上位の冒険者は彼ら二人に対して敬意を払うし、一目も二目も置いている。けど、それが解らないのが下位の冒険者に多くいるそうだ。
これも結局知らないから起こること、なんだよなぁ。彼らの実力を解ってもらうためにも、是非とも頑張ってほしい。
とはいえ、初心者冒険者講座の出身者は、仮令駆け出しでもその辺はしっかり教えられているので「目指せ、第二のベルジュラック! 威龍! エストレージャ!」と彼らを目標にしているとか。
猶、他にもローランさんの知ってる有名どころの冒険者パーティーが結構な数エントリーしてきているという。
彼らは揃いも揃って帝都での武闘会には「興味がない」と出てないそうだ。今回菊乃井冒険者頂上決戦が初出ってやつ。
「なんでまたうちの武闘会に出る気に?」
「そんなの、鳳蝶様に御墨付きもらいたいからだろ?」
「えー……? 優勝したからってそうそう贔屓にはしませんよ?」
「そら奴らもそれくらい解ってるさ。けど実力を見せる機会がないのとあるのとじゃ、雲泥の差だろうさ」
なるほど。
それだけルマーニュ王都の冒険者ギルドとのアレコレは、冒険者の中では影響のあることだったんだな。
そんなことを考えていると、ブラダマンテさんが「よろしいでしょうか?」と手を上げた。
「楼蘭の衛士隊からも参加したいという旨を聞いているのですが……」
一瞬遠い目になる。国単位で来られたら帝都の武闘会みたいな感じになっちゃうじゃん。
政治的なアレコレが過って、私だけじゃなく、ルイさんやエリックさんやヴァーサさんも目が虚無ってる。それを察したロマノフ先生が「個人で冒険者パーティーを作って参加する分には良いんじゃないです?」と。
そう、冒険者の頂上決戦だからね!?
ブラダマンテさんもその辺は解っているようで「そのように伝えます」とにこやかだ。
更にこれに加わったのが大根先生とラシードさんで。
「日にちが複数日になるのであれば、識やノエ君も力試しに武闘会に出たいと言っていたな。武闘会をやらない日に、董子のアシスタントをすればいいだろうし、と」
「雪樹からも、力試しさせてほしいってのがいるんだけど……」
「皆さん、何でそんなに血の気が多いんですか……?」
ちょっと唖然としちゃった。
そういうことは置くとして、出場希望者があまりに多いならそりゃ一日だけで歌劇団の公演もやってっていうのは難しいかもしれない。
「ならやはり開催期間は二日にしますか?」
「それが妥当なところかと」
「決勝戦だけは同日でやればいいんじゃないかな? この間みたいに」
「武闘会の準決勝は前日にパブリックビューイングですか? それで見せるのもいいかと」
武闘会の準決勝までで一日、決戦と歌劇団の特別公演で二日。催しとしてはそのくらいの日程のほうがいいかもしれない。なんでも市に関しては、一日目と二日目で出店者の入れ替えをしてもいいだろう。一日目と二日目の両日出店希望を出してもいいし、どちらか一日だけでもいい。勿論希望者が多ければ両日というのは無理になるだろうけど、どちらか必ず一日は出店出来るように配置をするとして。
サクサクと計画の骨子が出来ていくのは結構楽しい。私は結構こういう準備が好きなのかも知れない。考えるだけでもワクワクするもんね。
案外武闘会に出たがる人も、こういう気持ちで出場を楽しみにしてるのかも。
そういうようなことを口にすると、ルイさんの口角がちょっと上がる。
「我が君が領を愛するゆえの楽しみでもあるかと」
「うん、まあ、好きですよ。町がもっと豊かになるといいなって思うくらいには」
「これからも皆と共に富ませてまいりましょう」
「はい!」
思うより大きく弾んだ声が出た。
私の声の大きさに一瞬皆驚いたみたいだけど、すぐに「頑張ろうな!」とか「力を尽くします」とか、口々に返してくれる。
ちょっと気恥ずかしくなって、無理に話題を変えてみた。
「それにしても武闘会の規模、大きくなりましたよね……。何でだろう?」
「そりゃ、菊乃井頂上決戦なんだから君と戦えると思ってる人が多いからでは?」
ロマノフ先生がニヤッと笑う。
「え? 出ませんよ?」
「出ないことを公表してませんからね」
は?
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