非公式から公式への逆輸入とは?
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次回の更新は、来年1/1です。
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人材不足から思わぬ流れになったけど、次はなんでも市場だ。
ヴァーサさんには概要とEffet・Papillon商会からの出店、それからソーニャさんのエルフの里の物産品を売る店の出店は伝えてある。
ヴァーサさんにはローランさん協力のもと、商店街の人達との顔つなぎはしてもらっていて、彼らの出店希望も聞いておいてくれていた。
道具屋さんとか武器屋さん、防具屋さんは勿論のこと、屋台の串焼きとか孤児院の焼き菓子も出店希望がある。
他にはと、ヴァーサさんがまとめた資料を見ていると「象牙の斜塔の出店希望」というものもあって。
なんのこっちゃ?
資料から目を上げると、大根先生がちょっと咳払いをした。
「えぇっと、これは?」
「吾輩の弟子達が、出店したいというのでな。一応希望を出してみたのだが」
「そうなんですね。具体的な内容は?」
「うむ、まずは董子なのだが……」
そう言って大根先生が説明してくれたことには、董子さんは旅で知った各地の民族料理の屋台をやりたいそうだ。アシスタントは識さんとノエくん。ヴィンセントさんもマヌス・キュアや化粧品の実演販売をやりたいのだとか。
他にも二、三日中に到着するお弟子さんからも出店依頼があったという。でもそれはどちらかというと大道芸に近いそうで。
「そういうものもよいのであれば、出店させてやりたいのだが」
「大道芸ですか……。私は構わないけど、どうだろう?」
ヴァーサさんに視線を向けると、大道芸の申し込みは他からも問い合わせがあったそうだ。
なので広場の一角をそれ専用のスペースとして、時間を決めて交代で使用するのはどうかってルイさん達と話し合っているんだって。
エントリーしてもらえれば、そういうことは可能みたい。
「なるほど、そういうことならば本人に伝えておこう。二、三日中に本人が到着するから、顔合わせのときにでもどういった類のものかは確認してもらえれば」
「解りました」
お弟子さんの話はそういうことになった。
Effet・Papillonから出す商品は今年の初めに私が皆にプレゼントしたアジアンノットを元にしたアクセサリーだ。
雪樹からも一族の特産品である魔物の毛織物を出したいっていう希望が、ラシードさんからあった。
売り子は雪樹の集落から引っ越してくる移住者第一号になるだろう人がやるとのこと。これはその移住者第一号になるだろう人こと、カーリム氏の幼馴染の妹さんからの提案なんだって。
彼女は移住するにあたって、雪樹の一族を知ってもらう仕事をしたいと思っていたそうだ。そこに今回のお祭りの話をラシードさんから聞いて、「やりたい!」と張り切って手を上げてくれたとか。
後はヴィクトルさんの知り合いの魔術師とか、近隣の料理や手芸の腕に覚えのある人から出店希望が多数。
この辺は精査が必要かもしれないけど、出してくれるなら拒むことは基本ない。
つらつらと資料を眺めていると、ふと気になる名前を見つけた。
「あの、ヴァーサさん」
「はい、なんでしょう?」
「この、キリル&旭って?」
「ああ、エルフのキリルさんと、この度菊乃井歌劇団の公式画家になった旭さんですね」
そういえばあの二人、ヴィクトルさんが引き合わせてくれると言っていた。
こうやって連名で出店希望を出してくる辺り、意気投合したようだ。菊乃井に集まった人がそれぞれに結びついて、それぞれに刺激し合って良い方に向いてくれるのは嬉しい。
でもさ、この出店内容の「本」って何ぞ?
いや、書いて字の如く「本」なんだろうけども、その冠に「薄い」ってさ。
「薄い本とは?」
独特のなんか思い当たるフレーズに内心で白目を剥く私を他所に、大根先生が首を捻った。
すると答えは意外……でもないのかもしれないけど、ユウリさんが答える。
「俺のいた世界では、個人が好きな物について書いて、直接印刷所に頼んで印刷して、同好の士にだけ出版費用を少し出してもらって配布する本を『薄い本』って表現するっていうのを聞いたことがあってさ。それを旭さんに教えたんだけど」
「はぁ……」
うん、いや、多分薄い本に関しては、私というか前世の「俺」のほうが詳しいと思う。そっと目を逸らしたんだけど、大根先生はまだ気になることがあるようで。
「好きな物の本というのは解ったけれど、内容はどのようなものなのだろう? 研究報告書のようなものかね?」
「そういうのでもいいし、自分の好きな物語の登場人物を拝借して、自分が読みたい物語を作ることもあるらしいけど」
「他者の著作物の登場人物を借りるというのは、法的にはよくないのでは?」
「ああ、そこは何だったかな。親告罪とかで著者やら権利を持つ人に知られて訴えられたら罪になるだろうけど、そこは目を瞑ってくれてて、余程元の物語や著者に迷惑が掛からない限りは黙認してくれるみたいだ」
「ほう。そういうこともあるのか」
はい、あるんです。やってたのは「俺」じゃなくて「田中」だったけど、手伝ってた覚えはある。なのでちょっと大根先生とユウリさんの談議には入り難い。
こんな時、そういう空気を読まずに切り込んでくれる勇者がラシードさんなわけで。
「で、この薄い本ってどういう内容なんだ?」
「ああ、それはですね。鳳蝶君のスケッチが大分溜まったらしいので、画集的な?」
「は?」
ロマノフ先生の言葉に一瞬目が点になる。
何で私のスケッチ? 私、旭さんにモデルになってって言われてないけど?
頭の上に派手に「?」マークを飛ばしているのが解ったのか、ロマノフ先生がニコッと笑う。
「彼女、君を見ていると創作意欲が湧きたつとかで。歌劇団の紹介用の冊子のための絵を描く傍ら、息抜きに君のブロマイドを見て絵を描いてたと聞いたんですよ。なので頑張る彼女に報いるために、ブロマイドにしなかった私達のとっておきの君の記憶を幻灯奇術でいつでも見られるようにしてあげたんです。それが結構な枚数溜まったそうで、だったら画集として印刷して、その費用を同好の士に負担してもらえれば……という? 勿論私もヴィーチャもラーラも協力してますし、何ならレグルス君も沢山協力してますので各々一冊貰えることになってますけど」
「ちょっと何言われてるか理解できないんですけど!?」
なんで私に内緒で私モデルの画集が出るんだ。
思いきりドンびいていると、ヴァーサさんが挙手する。
「同好の士などと狭い範囲に供給するのでなくて、歌劇団かEffet・Papillonの公式書籍として売り出したほうがよいのでは? 広く需要があると思うのですが」
「そうですね。我が君の絵姿の画集となれば、もう少し装丁なども凝った物を用意しても、十分買い手はあるかと……」
ルイさんまで何か言い出した。
ダメだ、ボケばっかりで突っ込みがいない。大惨事に戦いていると、顎を擦ってローランさんが「待て待て」と割って入る。ローランさんは普段のやり取りからして突っ込みだ。このカオスな話に的確に突っ込みを入れてくれるに違いない。
さぁ、頑張ってローランさん!
「あのよぅ、それならリュウモドキ倒したときの戦闘記録とか、『天地の礎石』での戦闘記録とかあっから、そのときのことも絵にしちゃくんねぇかな? いや、物語調というか読み物にでもしてもらえりゃ、冒険者に憧れる若人を釣れるかもしんねぇし」
「なんでさ!?」
ローランさんまでボケだった。私の突っ込みへの期待値を上げるだけ上げて裏切るなんて酷過ぎる。
というか、それ以前になんで私に許可なく肖像画の画集とか出そうとしてるわけ?
意味が解らな過ぎて、そんな場合じゃないのに震える。
ここで話を聞いていたブラダマンテさんがポンっと手を打った。
「そういえば、天地の礎石で起こったことを本になさった物書きさんがいらっしゃいましたね? お願いしてみられれば?」
「ああ、そうですね。それなら私が声をかけてみましょうか? ロッテンマイヤーさんからご紹介いただいているので」
エリックさんがにこにこと話すことに、唖然とする。
「待って! 単なる七歳児のああしたこうしたなんて誰が読みたがるんですか!? 皆正気に戻って!?」
思わず叫ぶと、会議に参加していた人全ての視線が私に向く。その目に全く淀みがなくて、思わず天を仰いで呟く。
「噓でしょ……!」
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。
それでは皆さんよいお年を!




