お揃いの意味のこもごも
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次回の更新は、12/22です。
「え? あれ? 彼女、パーティー組んでませんでした?」
皇子殿下方が滞在中、菊乃井ダンジョンに入る機会があったけど、リュウモドキという特殊個体を倒したんだよね。
シェリーというお嬢さんは、そのリュウモドキに半殺しにされていた初心者パーティーの魔術師だったはず。
あの後、シャムロック教官の説得を受けて初心者講座をパーティーメンバーとともに受けてたはずなんだけど?
私の顔には疑問符が沢山張り付いてたんだろう。ノエくんと識さんが説明してくれた。
それによるとシェリーさんと識さんとノエくんは、初心者講座で出会ったそうだ。識さんがノエくんの服に沢山刺繍をしてるのを見て、彼女は泣いたらしい。
色々苦労が重なった上に、Effet・Papillonの商品の魔術師のローブがあまりにも地味で、ショックを受けたんだそうだ。それ自体はカスタマイズ前提だから地味なんだって、識さんが説明してくれたお蔭で納得してくれたという。
でもそれなら独学で魔術を使うシェリーさんのような魔術師は、Effet・Papillonのローブの強みを全く生かせないことになる。
それが私への相談に、即ちカスタマイズ用アップリケだのリボンだのレースだのって話に繋がったわけだ。えらいこっちゃ。
因みに彼女のパーティーメンバー達は、日頃の彼女の頑張りを知っているので、彼女が無理なく戦えるようになるようにって、識さんや他の魔術師達と積極的に交流して戦闘中の自分達の立ち回りを研究しているそうな。仲良きことは美しきかな。
シェリーさんの事情を聞いて、私は少しばかり顎を擦った。
「彼女、手紙とか書いてくれませんかね?」
「うん?」
ぽそっと呟けば、ノエくんが拾って首を傾げた。
私としてはこっちが、二人に来てもらった本題だよ。忘れるところだった。
「実は」と、ノエくんや識さんにエルフ紋のアップリケをエルフの里の人に外注すること、その対価に感謝の手紙を付けること、けれど感謝というだけでなくお客さんの要望や苦情も吸い上げられる取り組みをすること。
そういった話をすると、識さんが頷く。
「シェリーちゃんに話せば書いてくれると思うけど」
「強制っていうんじゃないんです。ただもしそのローブとアップリケで助かったと思うなら、ぜひ」
「解った、伝えておきます」
ノエくんが請け負ってくれたので、見本品が届き次第トライアルを開始することになった。
で、それが午前中のこと。
午後はソーニャさんからの手紙を読むことから、業務が始まった。
ソーニャさんが菊乃井で私やレグルスくんの採寸をしてから七日ほど経っている。というか、まだ七日ほどしか経っていない。それで手紙っていうのも何かちょっと身構えてしまう。
けれどその手紙の中に書いてあったのは、ござる丸の葉っぱから作った布を買い取りたい旨とレクス・ソムニウムの衣装のデザイン画の貸し出しをしてほしいというもので。
「れーちゃんやかなちゃん、つむちゃんにお揃いの服を作ってあげたいの」って。
冒険者パーティーって、位階が上になるほど衣装をお揃いにするもんなんだそうな。私達はまだ見習いの域を出ないんだけど、やってることが見習いのそれじゃないので、実はローランさんはとても扱いに困っているらしい。ごめんね、ややこしくて。
私やレグルスくんが単独で冒険者ギルドで依頼を請け負うってことは全くないんだけど、奏くんと紡くんはそうじゃない。
何が困るっていうと、時々菊乃井に来たばかりのちょっとアレな感じの冒険者が、奏くんや紡くん相手に悪い言葉でいうとイキり散らすんだとか。
まー、これ聞いたときは呆れたよね。なんでいい歳した大人が、子ども相手にイキり散らすんだってさ。子どもと大人だよ? 普通に考えて、何もしていない子どもに手を上げる大人なんか信用に値するかっての。
菊乃井に長くいる冒険者なんかは奏くんと紡くんが私とパーティーを組んでいて、下手な大人よりもずっと強いって知ってる。
奏くんや紡くんが絡まれていると間に入ってくれる人が大勢いるんだそうだけど、それもローランさんに言わせれば「絡んだほうが後で可哀想なことになるから」だとか。
私といるときにはそういうことはない。絡む前にローランさんが、或いはその場にいる職員さんが相手の口を物理で塞ぐからだ。文字通り口を手で塞ぐこともあれば、意識を刈り取ることもある。その辺は穏便にしてほしい。
えぇい、話が逸れた。
高位の冒険者パーティーが衣装を統一してチーム感を出すのは、結局のところ自分が何処の冒険者パーティー所属かを明らかにすることで、無用なトラブルを避けるためなんだそうだ。
レクス・ソムニウムの衣装は今や私の戦闘服として、冒険者の間では有名になっている。それと同じ衣装を着た子ども達はフォルティスメンバーしかありえない。つまり、奏くんや紡くんに何かするってことは私に何かするっていうのと同じことになるわけだ。
私としては嬉しいけど、でも。
「願ってもないことだから、布は無料でお渡ししますけれど……?」
「払ってもらいなよ。余ったら好きに使いたいって書いてるじゃないか」
手紙を持って来てくれたラーラさんが、ソファーで足を組み替えつつ言う。
ソーニャさんの手紙にはたしかに、余ったらその布を好きに使いたいってあったけど、でもレグルスくんや奏くん・紡くんの戦闘服なら経費のうちじゃないかなぁ。
そう呟くとラーラさんがゆるりと首を横に振る。
「それを三人の誕生日プレゼントにしたいんだってさ。何か作ってやりたいおばあちゃん心だよ。まんまるちゃんには別の物を用意してるみたいだし」
「でも、エルフ一のお針子さんの腕に対価を出さないのは、こう……」
「お針子さんだと思うからでしょ? 本人が君達のおばあちゃんだからって言ってるんだから。大体お針子さんとしては、君のお正月の衣装をお願いしてるだろう? 凄い金額になるけど、一生使えるものが出来る。もとは十分とれるよ」
「それは……」
最初、晴れ着を作ってもらうのを依頼したとき、ソーニャさんは無料でって言ってくれたんだけど、それはお断りした。だって神様の布を扱うんだ。途轍もなく慎重な扱いが必要になるし、物が物だけに姫君の許可なく一片たりとも他者に譲ることは出来ない。
そんなものを取り扱ってもらうんだから、好意に甘えることなんて無理だ。そこは信頼しているからこそ、はっきりと契約を結んで対価を発生させなくてはいけない。それで仕立て代とかお支払いする運びになったんだけど、材料とか先生が用意してくれたし、それのあまり分を支払いに回すことになってるから、額面としては怖いけど懐は痛くない額になった。
神様の布は魔力を通すことで自在にサイズが変わるから、一度作ってしまえば後は一生着られる。
レグルスくんの分の布もあるんだけど、あれは成人式に良い物を作ってもらうのに取っておくんだ。
「お針子さんにとって神様の布に鋏を入れるなんて名誉なことだよ。伯母様の腕にも箔がつくし、名前もあがるんだから。伯母様にも得はあるよ」
「そうですよね」
ソーニャさんにも得はある。それが救いだな。
取りあえずフォルティスのお揃い戦闘服はソーニャさんにお任せしよう。ござる丸の葉っぱから作った布は、現在値段が付けられないでいるけど、早急に妥当な値段を弾き出さなきゃいけないな。
それは私よりそういうものの相場に詳しそうな次男坊さんや、商売を長くやってるジャミルさんや、冒険者ギルドで素材の買取査定をやってるローランさんに相談しよう。ロッテンマイヤーさんやヴァーサさんには市場調査をお願いしないと。
「ということは、レクス・ソムニウムデザインの服は売らないほうがいいかな……」
「そうだな。ジャヤンタやエストレージャ達のモデルとはちょっと考えを変えたほうがいいかも知れないね」
「そうですね。でも死蔵というか、私達しか使わないのも勿体ないような気がするんですよね」
私のぼそっとした呟きにラーラさんが頷く。
揃いの服はチーム感を出すのに使える。チーム感……。
はっと閃くことがあった。
「レクス・ソムニウムのデザインを流用して、菊乃井の騎士や衛兵の制服にするってどうでしょう?」
前世、戦国時代という戦乱の時代があった。
その時代に武勇で鳴らした大名たちは、自分の家臣団に同じ色の武具を身に着けさせて「赤備え」とか「黒備え」とかにしたと聞いたことがある。
菊乃井のレクス・ソムニウム備え、良くない?
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