瓢箪から細々
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、12/4です。
ソーニャさんのお知り合いに、手芸が趣味だけど家族から「これ以上作品を作られても、置いておく場所がない」と厭われているご老人がいらっしゃるそうで。
「そのご老人は人間を嫌っていないというか、どちらかというと好きだから距離を取っている人なの。それで隠居してから趣味に没頭してらっしゃるんだけど、家族が置く場所がないって嫌がるからそれもできなくなりそうだって、少し前に相談を受けたの」
ソーニャさんとしては手芸くらい好きにやらせてさしあげたらいいのにって感じみたいで、ちょっと呆れ気味。
ヴィクトルさんもちょっと肩をすくめたけど、それはソーニャさんとは違う意味合いで。
「誰か解ったけど……、それは仕方ないんじゃない? だってあの人帝国建国より前からずっと手芸してるでしょ? 百年、二百年じゃきかないくらい作り続けてるんだから」
「でも、ヴィーチェニカ。それだってエルフがきちんと他の種族と交流していたら、何処かの誰かと物々交換に使えたかもしれないのよ?」
「それは……。でも、それを一族の奴らが良しとしてて、あの人も唯々諾々と従ってるんだから仕方ないでしょ。嫌なら僕らみたいに人間や他種族と生きればいいんだ」
「それが出来ないから、長い年月引き籠ってるんでしょう?」
ソーニャさんとヴィクトルさんの間で、激論とまでは行かないけど、言葉の応酬が続く。
ソーニャさんの話では、物々交換に使えるくらい見事なものを、流通もさせずに腐らせてるのが見るに堪えないって感じ。一方のヴィクトルさんは、エルフが他種族と交流を持たないという決め事をその人も守ってる限り、折角作ったものが腐っても致し方ない。嫌なら現状を変えるように動けばいいってことなのかな。
でも、現状を変えることはその人には出来ない。
そういえばさっきの話では、ソーニャさんのお知り合いのエルフさんは人間が嫌いって訳じゃないって。でも先にいなくなっちゃうのが悲しいから、距離を取っていたいんだっけ?
ウチとしてはエルフ紋が使えて、更にそのアップリケをエルフのお針子さんが安価で作ってくれるというのは、すごく魅力的なんだけど。
それじゃあ、そのエルフさんが菊乃井と関りを持つ事で、何か得になるようなものはあるのか……?
エルフは基本的にお金に執着がない。だから手芸の材料費と合わせて報酬を幾許か色を付けて払うとなっても、それがエルフさんに魅力的かと言えばそうじゃないだろう。
ならば菊乃井と関わることに付加価値を付けなくてはいけない。
何か……。
「おてがみは?」
はっとして顔をあげると、ひよこちゃんが目をキラキラさせている。
あー、レグルスくん最近和嬢と絵日記も交換してるし、それとは別にお手紙書いて、お返事もらってるもんね。
そのお蔭か、レグルスくんの書き取りの練習を見ることがあるんだけど、めきめき字も上達してるんだ。
そっかー、お手紙貰うの嬉しいよねー。
なるほど、それはいい手かもしれない。強制はしないけれど、そのエルフさんの作ってくれたアップリケを購入した人に、感謝の手紙を書いてもらう。それをこちらのお支払いする報酬に合わせてお渡しするんだ。
いや、アップリケの製作者さんだけでなく、Effet・Papillonの全ての職人に、激励と感謝の手紙を書いてもらう。それが職人のモチベーションに変われば、よりよいものを提供できるだろうし。
ただ感謝や激励だけだと、ちょっとワザとらしい気もする。全体的にEffet・Papillonの製品に関しての意見を募るていにすれば、或いは……。
思いついたことを話してみる。
するとヴィクトルさんがちょっと眉を上げた。
「激励とか感謝はいいけど、苦情とかはどうするの?」
「苦情に関しては私の名前で対応します。的外れでない物に関してはEffet・Papillonの品質向上や顧客満足度に繋がるでしょう。的外れなものに関しても、それ相応に毅然と対応する姿を見せればいいと思います」
「真っ当な意見に関しては取り入れるけれど、そうでない物にはそれ相応の対処をするから覚悟なさい、ってことね?」
「そうです。お客さんに寄り添うのは当たり前ですが、お客さんでない人に文句を言われる筋合いはありませんから」
とはいえ、これはEffet・Papillon商会の事務長をやってもらってるヴァーサさんに相談だな。
ただアップリケを作ってくれるエルフさんが、それを喜んでくれるかが問題。とりあえず、実験的に一度やってみようか。
そう言えば、奏くんがちょっと考えて。
「だったら、識姉ちゃんとノエ兄に手伝ってもらえば?」
「え?」
「だって、情報持ってきたの二人なんだろ? ってことは、二人ともその自分でローブを改造出来ない人を知ってるってことだ。ならその人に試しにアップリケ付けたローブを着てもらって、手紙も書いてもらえばいいじゃん」
「ああ、なるほど」
どうでしょう?
そんな感じでソーニャさんに視線を向けると、彼女は頬に手を当てて少し考えるような仕草。
「……いいと思うわ。あの人、人間がやっぱり好きなことに変わりはないし。一人に肩入れすると苦しくなるだろうけど、沢山の人と浅く広くなら悪くないんじゃないかしら」
ソーニャさんの言葉に、ヴィクトルさんが複雑そうな顔をする。
ヴィクトルさんやロマノフ先生、ラーラさんは、それでも個人に肩入れしてるんだよね。そんなヴィクトルさんからしたら、ソーニャさんのお知り合いの人はどう見えるのか。
気にはなるけど聞かない。聞きたくても聞かない選択をするのだって、大人になるってことだろうから。
神妙な空気が応接室に流れる。
その微妙さを打ち払うように、ソーニャさんが口を開いた。
「そう言えば、あっちゃん。雪紅花を手に入れたって、アリョーシュカから聞いたんだけど?」
「はい、雪樹からもらってきました」
ござる丸に雪樹で採取してもらった雪紅花は、一株はプラントハンターのアントニオさんにお渡しした。
長年探し求めてたらしく、物凄く感謝してくれて、菊乃井からの依頼は率先して受けてくれると仰る。
菊乃井からの依頼はだいたい大根先生達の依頼だから、珍しいものや入手が非常に困難なものもあるだろうし助かるよね。
で、それをソーニャさんがどうして?
「ばぁば、ゆきべにばなきになるんですか?」
紡くんがこてんと首を傾げる。私も気になるから首を傾げると、レグルスくんや奏くんも不思議そうな顔でソーニャさんを見た。勿論、ヴィクトルさんも。
私達の視線に囲まれて、ソーニャさんが肩をすくめる。
「気になるというか、いい染料になるのよ」
「ああ、そうらしいですね」
そういうようなことを、ラシードさんかカーリム氏から聞いた覚えがある。
でも、ソーニャさんの顔は何だか苦いものを食べたような表情で。
「社交界って煩くって、ドレスの色が被ったの被らないので凄く揉めるのよ。去年だったか一昨年だったか、雪紅花で染めたドレスが被ったか何だったかで、物凄く揉めたの。それを思い出しちゃって」
「うわぁ」
げそってする。
「あっちゃんの服に雪紅花って一瞬考えたんだけど……」
「やめときましょう!」
「そうよねぇ……」
そんなややこしいことに巻き込まれるのは絶対御免だ。
社交界で衣装が被るって喧嘩売ってるのも同じことだもん。敵が多いのに、この上自分から増やすような真似をする必要はない。
でもそうか。雪紅花自体には需要があるってことだな。
とすれば、それは雪樹の人達に新たな産業を齎せるってことで。
「乱獲はいけない。だから保護しながら収獲できるように育てて、それを産業に変える。そうすれば非戦闘員がお荷物扱いされることもないと思うんだけど……」
「ラシードくんとそうだんだね」
「そうだね。それと植物の育成とかそもそもの生態に詳しい人もほしいな……」
むにっと自分の顎を親指で押す。
プラントハンターのアントニオさんは、雪紅花については詳しくないと言ってた。だからこそ欲しがってたんだよね。じゃあ、他に……。
眉間にシワが寄っていたのか、レグルスくんが一生懸命解してくれる。
それを見つつ、紡くんが「はい!」と元気よく手を上げた。
「だいこんせんせーのおでしさんに、おはなとかくさとかにくわしいひとがいるっていってました!」
「あら、フェーレニカのお弟子さん? ちょっと興味あるわね」
私も現金だけど、めっちゃ興味ある!
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ




