餅は餅屋、エルフのことはエルフに任せよ
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結局、ヴィクトルさんはソーニャさんに見つかって、お小言は言われなかったもののお買い物に付き合う約束をさせられた。
今度マグメルで行われる魔術市に、荷物持ちをしにロマノフ先生と付いていくことになったみたい。
私も魔術市、また行きたいな。
毎年お正月には皆に誕生日プレゼントを渡している。
来年のお正月の朝は帝都に行かなきゃいけないとしても、夕方には帰って来て新年パーティーと誕生日パーティーは出来るはずだ。
そのときに渡すプレゼントの素材を探しに行きたいんだよね。
だけど魔術市って夜だし、夜に一人で出かけたいなんて言ったら皆困っちゃうしな……。
ぶすっとむくれていると採寸が終わった奏くんが寄って来た。
ソーニャさんのご用事は、私を含めたフォルティスメンバーの採寸だったんだよ。
「どうしたんだ、若様」
「うーん、あのさぁ……」
聞いてくれるというなら遠慮なく言おう。
そんな気持ちでマグメルの魔術市に、また行きたいことを話してみた。
誕生日プレゼントの素材探しだから、出来れば一人で。
それに奏くんは肩をすくめた。
「一人は無理だろ?」
「だよねー……」
「でもさ、行くのは駄目でも来てもらうのはいいんじゃね?」
「え?」
にっと奏くんが笑う。大胆不敵って言葉が似合う表情に首を捻ると、奏くんは言葉を続けた。
「今は駄目でも、来年とか再来年とか菊乃井で魔術市開いてもらったらいいじゃん。したらちょっとくらい一人で行動しても大丈夫かもしれないだろ?」
「おお、そうだね。その手があった……!」
でもウチ、魔術師ギルドに入ってなかった気がする。
いやでも、それなら魔術に関するものだけじゃなく、ありとあらゆるものを売る市場にしたらいいのか。
「あ」
市場で思い出したけど、イゴール様には大規模な経済の動きやら医薬の発展が供物になるんだっけ。
先日から数度、料理長や厨房で働くカイくんやアンナさん、調味料の研究をしてる董子さんにお願いして、町の神殿にカレー味のお煎餅とポムスフレをお供えしにいってもらってる。でもあれはロスマリウス様やイシュト様もお召し上がりになってるとかで、イゴール様だけのお供えって訳じゃない。
どうしようと思ってたんだけど、何でも売り買い出来る大規模な市場ってイゴール様にぴったりじゃん。
その市場への出店料の一部を、イゴール様の神殿への寄付に当ててもいいんだし。
そうと決まれば、これはルイさんに連絡だな。本決まりになったらEffet・Papillonは出店表明しないと。
その市場の日だけ、特別な品を安価で出すんだ。それを目玉に冒険者さんや地元の人に、市場に参加してもらう。
「あら、いいわね。ばぁばもお店出していいかしら?」
つらつらと奏くん相手に話していたことが聞こえたらしい。
軽やかな声に振り返ればソーニャさんがひよこちゃんと紡くんを連れて、テーブルまで来てくれていた。
二人の採寸も終わったようで、手伝わされたヴィクトルさんがぐったりとソファーに沈んでる。
レグルスくんに呼び鈴を鳴らしてもらうことにして、私はソーニャさんに席を勧めた。
状況によっては休憩しながらになるだろうなと思ったから、採寸の場所を応接室にしてもらってよかったみたい。
ソファーに座りながら、ソーニャさんはひよこちゃんと紡くんの頭を撫でた。
「魔術市ってどうしても魔術師だけの市場って感じになっちゃうのよ。でも魔術を使わなくても、素晴らしいものを作ることが出来る人は沢山いるわ。その人達と技術と材料の交換が出来るといいなって思ってたのよねぇ」
「そうだったんですか」
「ええ。だってエルフの機織りの技術なんて、古めかしいのばっかりよ? 古いのが悪いんじゃないの。それはそれとして新たに技を取り入れて、もっと違う物を作り出す努力をしてもいいじゃない。挑戦する気持ちがちょっと足りない気がするわ!」
「ははぁ」
ソーニャさんはエルフの機織り技術の現状に相当憤りがあるようで、珍しくぷんぷんしてる。いや、珍しいって思ったのはプンプンしてるソーニャさんを見て、ヴィクトルさんが「珍しく嘆いてるね」って言ったからだけど。
ソーニャさんはヴィクトルさんの呟きに、少し肩を落とした。
「そういえば、夏休みのときにうちの若い子達が酷いことした、大陸のエルフさん達を助けてくださったんでしょう? お礼が未だだったわね、ありがとう。それとごめんなさいね?」
「いいえ、そんな。というか、ソーニャさんに謝っていただくようなことでは……」
「ばぁばは里の代表として帝都にいるんだもの。お礼も謝罪も私の役目よ」
ああ、と思う。
レグルスくんや奏くん、紡くんも釈然としない顔をしてる。私だって釈然としないけど、ソーニャさんのお役目は帝国の人間とエルフの生ける緩衝材なわけで。
帝国の貴族に対して、今回エルフの弁えない者達が無礼を働き、しかもその相手が自分で言うのもなんだけど一応皇帝陛下の御信任厚き侯爵ってことで、傍から見るとかなりきな臭い事態になっちゃったんだろう。
大きくため息を吐いた私は、ソーニャさんにワザと膨れて見せた。
「ではエルフの郷からの謝罪の証として、菊乃井で大きな市場が開かれることになったら、エルフの技術を惜しみなく提供してください。安価で!」
「まあ! だったらエルフの郷の技術をご領主様に見せつけて差し上げましてよ!」
すかさずソーニャさんがぷくっと膨れて返してくれた。ノリがいい。流石ロマノフ先生のお母様。
お互い芝居じみたやり取りに耐え切れなくなって、ぷっと噴き出す。
そんな訳で、大きな市場を開くとき、ソーニャさんは店側で参加してくれることに。
それともう一つ、最近分かったことでどうしてもソーニャさんに相談したいことがあったので、それを切り出してみる。
実はと前置いてソーニャさんに話したのは。
「え? Effet・Papillonで販売しているローブに、個別で縫い付けられるアップリケを作りたい?」
「はい。冒険者さんの魔術師のローブが地味だっていう意見があったんです」
ちょっと前、雪樹の騒動の最中に、街中で識さんとノエくんと会う機会があった。
彼女達からの情報だけど、初心者冒険者講座に参加していた魔術師の女の子が「ローブが地味で悲しい」って言ってたんだそうな。
これは私がうっかりしてたんだけど、魔術師のローブって自分でカスタマイズする用にワザと模様を付けず、無地でカラーバリエーションだけはあるようにしてたわけ。
だけどきちんと師について学んだのでなく、独学で魔術を学ぶ人はローブを自分用にカスタマイズできる技術を持たない人がほとんどなのだ。だって付与魔術は難しいけど、自分にだけ付ける方法って言うのは師から教わる手仕事みたいなもんだから。
師から弟子に伝わることはあっても、学問のように体系付けられていないので、独学でその方法を学ぶのも難しいんだよ。
そこでアップリケに付与魔術を固定して自分で縫う、もしくは頼んで縫ってもらう。そういうことで自分のいいように改造していってもらうためのパーツを沢山作りたいのだ。
「安価にしたいのよね?」
「はい」
「それならエルフ紋を刺繍したアップリケを作るのはどうかしら? あれは魔力のある人が縫えば、その人が魔術師でなくてもある程度の効果が期待できるもの」
「それも考えたんですけど、エルフ紋の使用料とかって発生するのかお聞きしたくて」
「ああ、そういう……」
著作権とか、そもそもデザイン使用料とかどこに支払わないといけないのか、そもそもそういうお金が発生するのか。
その辺が先生達に訊いても全く解らなかったんだよね。エルフじゃ当然みんな使ってるもんだから。
その辺りのことで止まっている話をすれば、ソーニャさんが少し考えてぽんっと手を打った。
「うーん、じゃあ、エルフにそのお仕事振ってみる? そうしたらそういう利権絡みのことを考えないで済むんじゃないかしら」
おおっと、意外な方向から解決策が飛んできたぞ?
お読みいただいてありがとうございました。
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