裁定のお時間です
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次回の更新は、11/6です。
族長の余生、まるっと差し押さえたくらいじゃ、本心をいうならまだ足りない。
でもこれから起こるだろうラシードさん周りの問題と、雪樹の一族の大小細々とした問題に対する対応人材を手に入れたわけだ。今のところ菊乃井の痛手はない。あるのは貸しだけだからね。
雪樹の一族の人達にも軽めの【魅了】を刷り込んだせいで、今のところイイハナシダナーでこの事件は終息に向かっている。
後はザーヒルに関しての裁定なんだけど、これがな。
一族に知らせる必要のない問題も絡んでいるし、事情は内密に、けれどその罪の重さに見合う一族の人達に納得してもらう裁定を出さなきゃいけない。
とはいえ、だ。ザーヒルには結構な制裁が先に下っている。即ち嫦娥と氷輪様……魔族の主神とも崇められているお方から「見放された」っていうね。
なので命を取るってとこまではやらなくていいだろう。でも殺人未遂に加え、一族を己の思い込みと恨みだけで危険に晒したことは否めない。
ラシードさんに対する殺人未遂に関しては、彼を利用しようとした南アマルナの陰謀にザーヒルもまた巻き込まれたとも言える。ザーヒルはワイバーンの制御が突然外れたと、族長や相談役の前で弁明していたそうだ。
だけどこれが本当にしたって罰は必要なんだよ。使い魔の制御がはずれるなんて、あってはいけないことだ。業務上過失とか安全義務違反だよね。
そういった場合一族では、事故を起こした魔物使いを降格というか魔物使い見習いに落として修行のやり直しを数年させるそうだ。
この辺の罰則は一応、甘い裁定ながらザーヒルに課せられていたらしい。甘い裁定っていうんだから、指導役はザーヒルの取り巻き連中に担当させていたそうだ。徹底してんなぁ。
こんな露骨な手のひら返し、相談役さん達もさぞや違和感を抱いたろうに……。
「私に【千里眼】があってねぇ。今の相談役は私のそれで何度も危難を乗り越えたもんだから、私の裁定には意味があるって勝手に思い込んでしまったんでしょう」
私の疑問の呟きに、疲れたようにクッションに凭れながら族長、いや、もう先の族長になったアーディラさんが答えた。
「……身につまされるね」
ラーラさんが肩をすくめる。
あー、私も使ってるからなぁ。フル稼働中だよ。
それでもおかしいものはおかしい。そういう風に思う人があったから、カーリム氏は支持を取り付けられた訳だけども。
まだモンスターに寄生されていた後遺症というのか、アーディラさんの体力はかなり落ちている。さっきも言葉少なで私に中々反論しなかったのは、子ども達と話す体力を残したかったからだそうな。解放されたって根本から失われつつあった生命力はすぐには戻らない。だから今だってクッションに崩れそうな身体を預けて、私達と対話している。
一応の決着を見た後、私達はザーヒルと家族の最後の別れをさせるという名目で、ラシードさんの実家にやって来ていた。
最後だ。
カーリム氏が言った。
それに対して一族の者は「ザーヒルもまた利用されてたんだから」と同情的に減刑を進んで申し出てくれた。この辺りは【魅了】の効き目もある。
だって私はラシードさんを案じて、彼の家族と一族の問題を片付けるべく雪樹にやって来たラシードさんの「心優しい」友人なのだ。その「心優しい」友人の私が、ラシードさんの兄であるザーヒルの極刑を望むわけがない。
刷り込んだ【魅了】はそうやって、私への忖度として働いた。勿論雪樹の一族の人達の心の中に、族長一家に対する慕わしさが根底にあるから、そう上手くことが運んだのだけれど。
人の心を操った代償は、この後大きくカーリム氏に伸し掛かるだろう。彼はこの先一度の失策も許されない。
救済処置としてアーディラさんを残したのだけれど、恐らくそれは両者とも気付いているだろう。私を利用したお代には安いけどな。
というか、それが解ってないのは事情において蚊帳の外なジャミルさんとザーヒルくらいなもんだろう。ひよこちゃんでさえ、時々複雑な顔をしてカーリム氏を見てるんだから。賢いね、レグルスくん。可愛くて賢くて強いとか、無敵で素敵だね!
レグルスくんの頭を思わずわさわさ撫でたけど、ロマノフ先生の目が「め!」って言ってる。現実逃避してる場合じゃなかった。
そんな中、ジャミルさんが手を上げる。
「私、腹括リマシタ。オ話全部聞イテイイデスカ? アノ軍人ノコト、調ベラレルト思イマス」
「危ないことをしてほしいわけじゃありませんが、雪樹との関係強化のためにはジャミルさんのお力も必要だと感じています。お願いできますか?」
「勿論! 私、モウ商会ノ一員ト思ッテマス!」
「ありがとうございます」
そうだよな。もう既に色々やってもらっちゃってるし、ジャミルさんのお蔭でEffet・Papillonの販路も広がってる。ここは正式に商会の一員になってもらおう。
握手すると、ジャミルさんは穏やかに頷いてくれた。
さあ、肝心な話をしよう。
ザーヒルの心を徹底的に折らなきゃいけない。彼に現実を認めさせないと、この後しようとすることが全部無駄になるからな。
目配せすると、元族長が一瞬だけ痛みに耐える表情をし、それから疲れに僅かに震える唇で「ザーヒル」と呼びかけた。
呼ばれた男が、後ろ手に縛られたまま、仄かに顔を上げた。
「お前に、大事な話をしなくては、ね」
円形の住居は円形に外から見えるだけで、実はそうではない。地下に空間を多くとっている建築方法のようで、通されたのは会議室として普段使っている広い広間だった。その中心に後ろ手に縛られたザーヒルを置き、その周りを私達が囲むように座っている。そのお蔭で、ザーヒルには私達の視線が四方八方から付き刺さっていた。
「大事な、話……?」
「そう、お前の言ったアーティカの子の話だよ。たしかに私はアーティカから子どもを預かった」
「だったらやっぱり俺は……!」
自分の短慮が母親を殺しかけたダメージでほんの少し憔悴して見えたザーヒルは、けれどまた激する。情緒が良くも悪くも安定しないな。
しかしその激する次男に、母親はゆっくりと首を横に振った。
「違う。お前は紛れもなく私の子だ。だってアーティカが駆け落ちしたとき、お前はもう生まれてたんだから。だから誰もお前がアーティカの子だなんて言っても、相手にしなかったのさ」
「……ぁ……」
そうだよねー。っていうか、だからさっきの決闘でアーティカさんの名前が出て白けたのか。なるほど。
「じゃ、じゃあ、別の誰かの……!」
未だ言い募る当たり、ザーヒルは本当に被害者意識が強いんだな。なんでそんなに拗れた?
でも母親はそんな息子の性質をよく理解しているのか、もう一度「お前は私が産んだ」と繰り返す。
アーディラさんは一度目を瞑って、次に開けたとき、ラシードさんをそっと見た。その母親の視線にラシードさんが頷く。するとアーディラさんはまた震える唇を開いた。
「ラシードだ」
「は……?」
「アーティカの息子はラシードだ。ラシードこそが、アーティカから託された南アマルナのさる身分ある男の息子なのさ」
「!?」
ザーヒルがかっと目を見開いて、勢いよくラシードさんの方に向く。
何も言葉にならないのか、ザーヒルはラシードさんに向かってパクパクと口を開閉して呻くだけ。
そんなザーヒルにラシードさんは頷くだけで、視線は逸らさない。
「ザーヒル、お前は正真正銘私の息子。お前はラシードが生きていては都合の悪い連中に、踊らされて担がれただけの私の息子だ。選ばれたものでも、特別な血筋でもない、愚直で素直な私の可愛い息子。ただそれだけの子どもだ」
哀れむような声に、ザーヒルの喉から絶叫が迸る。
結局のところザーヒルは、自分を特別な存在だと認めてほしかったんだろう。
努力すれば伸びる物はあるけど、兄のように特別秀でてる訳じゃない。かといって弟のように人に素直に守られていられるほど弱くもなかった。
普通、平凡。
特別じゃないから、特別に愛されない。愛されないから寂しい。寂しさは恨みに変わって、それが元々の素直な性根を腐らせた。
阿呆か。特別じゃなくたって、お前は愛されていただろうに──。
拗れていても、真心で接していればいつか解ってくれると期待を抱き続けるくらいには、愛されていたろうに──!
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