グダグダ真相解明編
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次回の更新は、10/23です。
ザキーヤはザーヒルが赤さんから育てた使い魔で、いつ如何なるときもザーヒルと共にある忠実な従者だそうだ。
そりゃ殺されたくはなかったろうよ。
勝負は文句なしにラシードさんの勝利だ。
罪人として後ろ手で縛られ、地面に膝をついたザーヒルの横で手当てをされたザキーヤが大人しく寄り添って沙汰を待つ。
ワイバーンなんだけど、これはしばらく経つとドロドロに溶けだした。これは以前ラシードさんの命を狙ったワイバーンと同じで、屍を生きているように巧妙に偽装した故のこと。ワイバーンの溶けた亡骸は、ロマノフ先生とラーラさんが超高温の火の魔術で灰も残さぬよう焼き尽くした。
それでだ。
ラシードさんとザーヒルの戦いの結果は、即ちカーリム氏と族長の勝負の結果となる。
ここで問題なのは、勝負の前に湧いて出た、頭巾に双頭のワイバーンのエンブレムを付けた男の存在だ。
そしてヤツは南アマルナの特殊工作部隊の軍人だという。その謎の男をザーヒルは知っている様子があった。
雪樹の一族はほんの十数年前まで南アマルナと紛争状態にあったのだ。その今は何もないにせよ、少し前まで相争っていた国と族長の次男になんの接点があったのか?
それは一族の誰もが知りたい疑問だろう。
ここに至るまでの様子で一族は族長に疑問の目を向け始めた。
「説明する義務がおありなのでは?」
勝負が決した。決闘裁判に負けたから、じゃあカーリム氏に一族の長の座を譲ります、で終わらせてやるほど、こっちはお優しくねぇんだわ。
ザーヒルの横で同じく座る族長夫妻に笑顔で迫る。
一族の者たちも口々に「何故だ!?」とか「何か理由があるのでは!?」と大きく騒めきだす。
しかしザーヒルは兎も角、族長夫妻はだんまりだ。
暫く二人を見据えていると、ザーヒルがくつくつと笑い出す。
「何がおかしい?」
カーリム氏がザーヒルを咎める。しかしザーヒルは堪えた様子もなく、カーリム氏を睨みつけた。
「本当の兄貴でもないくせに、兄貴面すんな!」
「ザーヒル! まだそんなことを……!」
「煩い! あの頭巾の男が言ったんだ! 俺の親は南アマルナのやんごとなき人と、前の族長の娘、即ち俺達が叔母だと思っていたおふくろの妹・アーティカだってな! 証拠もある!」
ザーヒルの絶叫に一族がしんっと静まり返る。
でもだな、真実を知ってる私達一行はこう、なんとも言えない雰囲気に包まれた。いやぁ、予想が当たっちゃったよ。思わず目が虚無になる。
というか、証拠とは?
同じ疑問を持ったのか、ラシードさんが呟いた。
「証拠って何だよ」
「は、お前に教えてやる義理なんかない。でもいいさ、教えてやるよ。俺のこの角だ。そのやんごとない人の父親、俺の父方の祖父が俺と同じ角だったそうだ。肖像画も見せられた!」
「へぇ……」
その「へぇ」は意訳すると「あいたたた」って感じか。ラシードさんの目も死んだ魚の目だ。カーリム氏も凄く頭が痛そうにしてるし、族長夫婦も何か凄く目が淀んでる。気持ちは分からなくもないが、貴方方の御子息ですよ。
まあ、いいや。本人がそう思っていたからどうなんだって話だし。
「それで、それがどうしたの? かあさまがちがっても、ラシードくんにいじわるするりゆうにならないよ?」
「っ!?」
「れーとにぃに、かあさまがちがうけど、にぃにはれーにいじわるなんかしないよ? かあさまがちがうのは、ラシードくんのせいじゃない。そのひとのせいじゃないことをりゆうにいじわるするって、はずかしくないの?」
ぴこぴこっとレグルスくんが金の髪を揺らして、ザーヒルに尋ねる。
「お、俺だって親が違うせいで、差別されたんだ!」
「さべつしたのは、おにいさんのかあさまととうさまでしょ? ラシードくんになにかされたの? されてやりかえすのはわかるし、わるくないとおもうけど、ラシードくんがなんにもしてないのにいじわるしたんだったら、おにいさんはおにいさんのかあさまやとうさまとおなじことしてるとおもうんだけど? はずかしいことをするひととおなじことをして、はずかしいっていうきもちはないの?」
ひよこちゃんのお口からぴよぴよと正論パンチが繰り出される。本人の理解がどうであれ、ラシードさんに当たる正当な理由がないんだよな。
静まり返っていた一族の人達が「次男坊は差別されてたか?」とか「思い込みが激しいな」とか、「そんな素振りあったか?」とか「どっちか言えば甘やかされてたじゃねぇか」とか、ざわざわしだす。
この人達の話は半分くらいに聞いておかなくちゃいけない。未来の族長に対する忖度ってのは、無かったとは言えないんだから。
それでも概ね「差別なんかなかった」というのだから、次男の旗色は悪い。
それじゃあ、もう一つの疑問をぶつけてみようか?
「何故、カーリム氏じゃなくラシードさんなんです?」
こてんと首を傾げてザーヒルに尋ねてやる。
ザーヒルは何を尋ねられたのか解っていないようなので、もう少し丁寧にして。
「だから兄弟で差別があったのなら、矛先はカーリム氏でも良いわけですよね? 寧ろカーリム氏に矛先を向けて、勝ったなら族長の地位を奪い取れるんだし、そっちの方がご両親に恥をかかせてやれたんじゃないです? なのにカーリム氏ではなく、一族の跡継ぎでも控えですらないラシードさんを殺そうとしたのは何故ですか?」
「そ、それは……殺すつもりなんかなかった! ただ、怖がらせてやろうと……」
ザーヒルの目が泳ぐ。どんだけ可哀想ぶってもこれじゃな。
私は「あ」とワザとらしく、手を打った。
「あー……ラシードさんに勝てないようじゃ、カーリム氏に勝つなんて出来ませんよねー……。これは失礼しました。今の質問は私が良くなかったですね。勝てない相手に向かっていくなんて愚か者のすることですし」
「なんだとっ!?」
激昂して立ち上がったザーヒルの肩を、威龍さんとベルジュラックさんが押さえつける。暴れようとしても、屈強な青年二人に押さえられてままならないからめっちゃ喚く。
だけどこの男の言い分を聞くものは、表面上誰もいない。ザーヒルの取り巻きだったものや、その家族すら目を伏せて口を閉ざしている。
負けるってのはこういうことだ。彼の姿を目に焼き付ける。私自身がこうならないように。
さて、次兄が愚かだったっていう印象は付けた。そして彼を擁護していた者は、これから先態度を改めなければいけない状況になった。
それじゃあ、真相を確認していこうか。
私はロマノフ先生やラーラさんに合図する。そしてカーリム氏やラシードさんにも目配せすると、ラシードさんとイフラースさんがすっと私の横に立つ。
「さて、種明かしと行きましょうか?」
ねぇ、族長。
そう呼びかけると、族長が怪訝そうな顔をする。
「私は貴方の企てに乗って差し上げたけれど、最後まで乗るとは言ってませんし、その気もありませんからね?」
にっと唇を歪めると、族長が大きくため息を吐いた。
「此度のことは、私が息子可愛さに招いたこと。全ての責は私にある。それではご納得いただけない、と?」
「当たり前でしょう? 人を利用して面倒ごとを片付けさせておいて、挙句真実を語らないとは貴族の面子を軽く見過ぎです。先ほどの件はルビンスキー卿への無礼の落とし前であって、私への落とし前ではありません。この落とし前は貴方の命で付けていただきますから」
私の物言いに一族が騒然となり、ラシードさんとイフラースさん、カーリム氏の顔色が変わる。勿論族長の夫で、ラシードさんとカーリム氏の父上の表情にも戦慄が浮かんだ。
「レグルスくん!」
「はーい! やっちゃえ、しゃてー!」
私が弾いた指の音に合わせて、レグルスくんが背負っていたリュックを下ろし、中から取り出したしゃてーを族長に投げつける。
「ぎにょぉぉぉぉ!」
叫んだしゃてーは虚を突かれた族長の額に飛びつき、自分の頭なのか胴体なのか、そういうヤシの実のような丸い部分を思い切りぶつけた。
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