巨大ロボット(じゃないけど)操縦は男子のロマン
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魔術で雪を固めて組み上げて、私としては前世の皇帝ペンギンに似せて組み上げたのはゴーレムってやつだ。
巨大な山のような牛に対抗すべく、同じくらい大きなよちよちしたペンギンは、けれどよちよちなのは見かけだけ。
くわっと嘴を開けた瞬間、すばばばばばと電撃がキングベヒーモスへと直撃する。
「……アンスロポルニス、ですか? それにしては首が短い、ような?」
ロマノフ先生がそう尋ねてくる。でも私、そのアンスロポルニスってのが判んないんだよね。曖昧に濁していると、レグルスくんがこてんと小首を傾げた。
「アンスロポルニスってなに?」
「飛べないけれど、海を飛ぶように泳ぐ巨大な海鳥のモンスターです。背の高さは丁度私くらいで、二足歩行なんですよね。鳳蝶君が作った氷のゴーレムより首は長めですね」
「あー……」
なるほど、似てるやつがいるんだな。
でもそれとはちょっと違うから、神様方に「異世界の可愛い生き物を見せてもらった」で押し切る。
「それをどうして?」
「え? や? 皇帝ペンギンっていう名前なので。キングより上だから丁度いいかと思って?」
だって魔術はイマジネーション。キングよりエンペラーのが強いと思えばそうなんだ。現に巨大牛の骨格標本は、電撃で焦がされてプスプスと煙を上げている。でもなんか決め手に欠けるんだよね。
むーんと唸っていると、くつくつと頭巾の男が笑った。
「キングベヒモスの魔力耐性を舐めるなよぉ!」
「いや、別に。魔術が駄目なら違うことを考えたら良いだけですし、焦げてるんだからやりようはあるでしょうよ」
面倒臭いので男の口に猫の舌の触手をもう一回突っ込む。
さて、じゃあ神聖魔術でもおみまいしてやろうか?
プシュケを起動させ祝詞の一つも唱えたら、あの世に送り返してやれるだろう。そう判断して口を開こうとしたけれど、レグルスくんがツンツンと私の手を引いた。
「あのね、れーもコウテイペンギン? うごかしたい!」
「えーっと、ちょっと待ってね」
キラキラのお目目でお願いされては仕方ない。レグルスくんと握手して、魔術の行使権限をレグルスくんに譲渡する。一瞬重いものを持ったような顔をしたレグルスくんだけど、むんっと気合を入れるとぐっと拳を握ってファイティングポーズを取った。
「てぇーい!」
レグルスくんの気合に合わせて、ペンギンのゴーレムが牛の骨格標本によちよち向かう。そしてその羽というかひれというかを、べしっと勢いよく牛の骨格標本に叩きつけた。牛の骨格標本の足元が揺らいで、ひれが叩きつけられた場所がガラガラと崩れていく。
「もういっかい!」
皇帝ペンギンゴーレムが、今度は先程とは反対のヒレでグラグラと揺れる牛の骨格標本をひっ叩いた。
ボロボロと叩かれた所から、骨が衝撃で崩れていく。それでも牛はまだ組み上がろうとしている。
「ちぇすとー!」
レグルスくんが元気のいい大きな声を出せば、ぴこぴこと皇帝ペンギンゴーレムは助走をつけて頭突きをかました。何だか怪獣大決戦の様相を呈してきたところで、雪樹の人々も茫然自失から立ち直ったのか「頑張れ!」とか「そこだ、やっちまえ!」とか声援が飛び交う。
結構盛り上がって来たな。
ちらっと辺りを窺えば、雪樹の族長はこちらを気づかわしげに見てるし、ザーヒルは奥歯をかみ砕きそうな勢いでこちら、正確に言えば頭巾の男を見ていた。
声援が徐々に熱を帯びて、一族がレグルスくんの戦いに熱狂している。
その声にかき消えそうだけど、触手に巻かれた男が唸り声を上げていた。口を自由にしてやると、「何故だ!?」と怯えたように口にする。
「何故だ!? 何故組み上がらない!? 俺の魔術は完全にキングベヒーモスの魂を支配下に置いているのに!?」
「そりゃ、貴方。嫦娥が、ひいては氷輪公主様がこちらにお味方くださっているのに。魂に触れる糸がいつまでも貴方の手の内にあるわけないでしょう?」
アホめ。
口には出さないけど、視線にありありと浮かべて投げてやる。
そしてこの男の心を折ってやるために、私はレグルスくんに声をかけた。
「そろそろ終わりでいい?」
「うん。もうナイナイしようね!」
にぱっと笑うひよこちゃん。大きなお人形遊びは、それなりに楽しかったみたいで良かった。
レグルスくんの肩に手を置くと、ゴーレムの操作権限を二人で共有する。ひよこちゃんが「いくよー!」と叫べば、皇帝ペンギンゴーレムはふわっと浮いて海で泳ぐような姿勢になった。そしてぎゅんぎゅんと高速で回転すると、まるでドリルのように巨大牛の骨格標本につき刺さる。骨を削り砕いて粉々にしてしまうと、ゆっくりと回転をやめて地上に降りた。
再び二足歩行の姿になるとカッと口を開く。今度は嘴から熱線を放って、地上の雪を蒸発させながら灰も残さぬ勢いで骨を焼き尽くして。
皇帝ペンギンゴーレム自身は融けることなく、威風堂々雪樹の大地に佇む。
「あ、土見えましたね? どうしよう? 雪崩とか起きるかな?」
「後で雪崩防止の魔術でもかけておきましょうね」
「このゴーレム置いておいて、雪崩防止に使えばいいんじゃない?」
しんっと沈黙してるから話がし易い。
呆けているカーリム氏を手招きすると、何でかラシードさんまで付いて来た。
「あのゴーレムですけど、動かせます? 動かせるならアレ、譲りますけど」
「あ、えぇっと、そのくらいの魔力はあると思います」
「じゃあ、ゴーレムを操作権限ごと譲渡しますね」
ちょんっとカーリム氏の手に触れると、ゴーレムとその操作権限を引き渡す。消費魔力はそんなに低くはないけど、まあ大丈夫だろう。
むぐむぐと呻きながら触手の中で暴れる男に目を移すと、その口から触手を引き抜いてやる。
すると男は口をもごもごさせて、げほっと血を吐いて唸った。その顔は白く恐怖に歪む。
「な、何故……?」
「それは『何故キングベヒーモスがやられたのか?』ということですか? それとも『死ねないのか?』という意味ですか? 前者なら貴方より遥かに私達兄弟が強かったから。後者だったら死ねないような細工をしたと言ったでしょう? 話を聞いてなかったんですか?」
「ひっ!?」
男が短い悲鳴を上げた。錯乱も実は出来ないんだよな。だって、舌を噛んだっていう強めの幻覚を見せてるだけで、実際はそういう行動をとれないように精神と肉体を絡めとる魔術をかけてるだけなんだもん。あれだよ、人形奇術を人間に応用しただけ。
どっと雪樹の民達が歓声を上げて、脅威が去ったことと勝利の雄たけびを上げる。
意図はしてなかったけど、掴みはいい感じ。この声援は私達への好感度へと転化するんだから。
後はラシードさんが完膚なきまでに次兄を叩きのめせば、それで全てはこちらの思うまま。
「さて、勝負を始めませんか? それとも止めますか? 自分で使い魔も用意できなかったようですし?」
ギリギリと歯を食いしばる次兄に向けて嗤ってやれば、煽り耐性がないのか次兄が怒りを剥き出しにする。
「仮令どうでもワイバーンは俺の指示を聞く! 魔物使いは強い魔物を道具のように使うのが本分だろ!? 誰が手に入れたなんて関係あるもんか!?」
「別に俺は構わないよ。そんなこと言ったらアズィーズはお袋と親父が俺にくれたんだし」
二人の言葉に族長に「どうします?」と尋ねれば、族長も重々しく頷く。
「ザーヒルの言うとおりだ。操り切れるなら、どういう経緯で魔物を捕まえたとて構わない」
その言葉に一族の人達が騒めく。今度はそのさざめきに失望が漂っている。私は微かにため息を吐いた。マジで面倒臭い親子だな。
「では、あの男のことは後で詮議するとして始めましょう」
どっと一族の人達が沸き上がった。
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