雪山道中膝栗毛
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次回の更新は、10/2です。
雪樹の山脈の村までは、先生達の転移魔術でひとっとび。
そのまま集落まで転移魔術で乗り込んでもいいんだけど、ここは徒歩で魔物を討伐しながら進む。
集落に楽に攻め込めるんだぜっていう示威もあるんだけど、お土産も必要じゃん? あと、協力してくれるジャミルさんが氷山椒を見せてくれるっていうのもあるから。
防寒着はちゃんと着て来た。
私はソーニャさんが作ってくれたクローク、レグルスくんもソーニャさんからいただいたひよこちゃんポンチョ。ござる丸としゃてーには私が作った毛糸のツナギを着せてるし、レグルスくんが背負ってくれてるござる丸としゃてーの入ったリュックは、色々付与を付けてるので中はとても温かいのだ。
それだけじゃなくぽちは自前の魔力で暖をとれるし、水辺の生き物である妖精馬のグラニはかえって過ごしやすそうにしている。
グラニの背中に乗って、ひよこちゃんは雪景色を楽しんでいるようだ。馬の轡をベルジュラックさんにとってもらって、ご機嫌で何か話しながらぽくぽく運ばれている。
私はぽちの上。ぽちには鞍も鐙もないけど、私を背に乗せてるのでぽち自身が凄く慎重。
「あっちにバイコーンいるけど、倒す?」
ゆらゆらと揺られている私に、雪を物ともせず平原を歩くように進むラーラさんの声が届く。
それに答えたのは、麓の村に預けていたヒポグリフォに騎乗するカーリム氏で。
「生け捕りにしてもらえれば助かりますが……」
その言葉が届いた瞬間、ラーラさんがひゅっと弓を射る。といっても矢なんかつがえていない。弦を弾いて見せただけ。それなのに矢が飛ぶ音の僅か数秒後に、頭に二本の角を生やした馬が雪原に倒れ伏した。
「気絶させただけだけど、誰か運べる人を集落から呼んで来るかい?」
「あ、ならば集落まで某が担ぎましょう。良い修行だ」
そう言って威龍さんがデカい馬を担ぐ。え、馬って担げるもんなの?
呆気に取られているとレグルスくんがケラケラ笑う。
「ちからもちだねー!」
「身体強化の魔術を使用しております故!」
「しゅぎょうだもんね!」
「はい!」
きらんって白い歯を見せて威龍さんは笑う。ああ、はい。修行ね、修行。身体強化の魔術自体は私も使えるけど、一生馬を担げるようになる気はしないな。
そんなことがあったかと思うと、ロマノフ先生はジャミルさんと一緒に氷山椒を採取して品質が~とか、菊乃井で育てられないか~とか話してる。
楽しそうでいいけど、ずっと雪景色だから私は何か飽きて来た。ぼーっとしていると、アズィーズに乗ったラシードさんが話しかけてくる。
「あのさ、透明な花ってのが雪樹にはあるんだ」
「透明? 透明って向こうが見えるってやつ?」
「そう、それ。えぇっとな、名前は……雪紅花っていってな。雪が降ってないときは透明な花びらなんだけど、雪が降ると真っ赤になるんだ」
「へぇ、それは見たいな」
「ああ、丁度あっちに咲いてる」
ラシードさんが指差した先にはたしかに真っ赤な花が咲いていた。紅花という名前が付いているだけあって、雪樹ではその花を染色に使うそうだ。ただ普段は透明なので、見つけにくいらしい。
ぽちを花の近くに寄せると、ロマノフ先生とジャミルさん、ラーラさんも近寄って来た。
「オオ、オジサン何年モ雪樹ノ一族ニハお世話ニナッテルケド、初メテ見マシタ!」
「私も図鑑で見た事はありますが、生で見たのは初めてですね」
「アントニオが欲しがってたよ、これ」
キャッキャウフフって感じ。私もちょっと浮かれてる。こういうものは奏くんや紡くん、アンジェちゃんや皆に見せてあげたい。
そんな私の気持を察したのか、ラシードさんがカーリム氏に「もって帰って大丈夫かな?」と声をかける。カーリム氏は少し考えて「構わない」と告げた。
「採り尽くされるのは困るが、一輪くらいなら。でも温度を保たないと、すぐに枯れてしまうが……」
そういうことなら大丈夫だ。
私はレグルスくんを手招きすると、背負われてるござる丸の名を呼んだ。
「ゴザー?」
「このお花を持って帰りたいんだけど」
「ゴザルゥ!」
元気に鳴くと、ござる丸はぴこっとリュックから飛び降りて雪紅花の前に立つ。そしてゴザゴザと花に話しかけた後、ぱくんと一輪花を食べた。相変わらず口の場所が解んないんだけど、顔……顔も解んないな……を近づけたあと、花が一つ無くなっていたから食べたんだろう。
「え? 食べた?」
「ああ、うん。ござる丸って食べた花を、頭の葉っぱから生やせるんだよね」
「はぁ? マンドラゴラってそんなこと出来んの? 便利じゃね?」
ラシードさんが感心したような声を上げる。カーリム氏や話を聞いていたベルジュラックさんや威龍さんも頷いてるけど、私は首を横に振った。
「それがござる丸だけみたいなんだよね。うちにいるござる太郎やらござる次郎とかござる三郎は出来ない。めぎょ姫も無理」
「え? ござる太郎にござる次郎? ござる三郎? めぎょ姫? 誰?」
「うちの庭にいる子達」
因みにござる太郎にござる次郎、ござる三郎は大根によく似ていて、厨房で料理されかかった所をござる丸に救出された。めぎょ姫は「めぎょめぎょ」鳴く人参。多分女の子。ござる丸と同じ着流しを着せたら悲しそうに「めぎょ……」と鳴いたので、ドレスを作って着せたら踊ってたから。姫って呼ぶとなんか喜ぶし。まあ男でドレスが好きで姫と呼ばれたいなら、それはそれでいいだろう。
ラシードさんが悲鳴じみた叫びをあげる。
「全部契約してんのか!?」
「まさかぁ。うちの屋敷の庭のマンドラゴラ村に住んでる住人だよ。村長の上司は上司って感じ」
「た、縦社会!」
「だねー。秩序を乱すとござる丸から鉄拳制裁喰らうからね?」
実際しゃてーはステゴロタイマンでボッコボコだったわけだし。
話していると、レグルスくんが「にぃに!」とちょっと強めの声を上げた。見れば遠くの方から雪煙を上げて何かがこちらに向かって突進してくるではないか。
「ナースィル! ハキーマ!」
ラシードさんが使い魔を呼ぶ。それと同時に、私はその雪煙を上げて走って来るモノの前に、指を弾いて物理障壁を展開した。
普通だったら止まるだろうけど、限りなく周りの景色に溶け込むように障壁の透明度を上げておく。するとドンッと物理障壁に大きなものが衝突した音がして。
勢いよく上がった雪柱に目を凝らせば、白色の牛の三倍はあろうかというほど大きな猪が障壁に激突していた。しかし、あちらもさる者。ぶつかった衝撃で額が割れたのか出血しながらも、まだ突進を続けようとしている。
が、稲妻が巨大な猪の顔面を直撃した。プスプスと稲妻に曝された顔面から、焦げた臭いと煙が上がる。
ちらっと後ろを見れば、かぱっと絹毛羊の王子が開けていた大口を閉ざす。その頭上では星瞳梟のお嬢さんがゆっくりと羽ばたいていた。
「お兄ちゃん、お見事なのだわ」
「メェェェ」
「そう? 私の付与魔術がお役に立ったなら何よりなのだわ」
地響きを轟かせて、猪の巨体が倒れる。
これ、食べたら何人前かな?
ぼんやりとそんなことを考えていると、カーリム氏が顔をひきつらせた。
「ラシード、お前……」
「こいつ、たしかこの辺りの主でおふくろが手を焼いてたヤツじゃなかったっけ?」
「あ、ああ。一族の者が何人もこいつに殺された。それを、お前……」
カーリム氏がラシードさんの手を握る。引き攣っていた表情には心配と安堵と、それから誇らしさのようなものが浮かんだ。
「本当に強くなったんだなぁ……。お前、本当に、頑張って……」
嗚咽する声が聞こえる。
ジャミルさんとイフラースさんが寄り添って、長兄と末っ子が固く抱き合うのに目を潤ませていた。
寒いんで、早く進みませんかねー……。
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