真夜中の不定期開催おやつパーリー
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次回の更新は、9/29です。
パリパリと軽妙な咀嚼音が夜の寝室に響く。
ラグの中央には山盛りのポムスフレと綺麗なガラスの水差しとワインボトル。
水差しの中には炭酸水が入っていて、ワインボトルの中はコーラシロップで、勿論メイドイン菊乃井ですよ。
寝る前にジャガイモの揚げたお菓子とコーラとか、リバウンドまっしぐらメニューを私が嗜むはずはない。ので、これを夜にオーダーすると、ロッテンマイヤーさん始めメイドさんも、調理担当の料理長やら厨房の面々も顔が引き攣る。ご、ごめんよー、皆。菊乃井が儲かったらもっとボーナスやら特別手当をだすからねー!
そんなわけで私ともうお一方は料理長お手製ハーブティー、後のお三方はコーラだ。さっきからパリパリいい音を響かせているのは、ロスマリウス様とイシュト様、それから夜中のお茶会に今回初参加のイゴール様。氷輪様はおやつは召し上がらずに、料理長のハーブティーを嗜んでいらっしゃる。
「上から結構見てるけど、本当に厄介事に巻き込まれるねぇ」
パリパリ。
ポムスフレを食べる合間にそんなこと言われてもな。
私の内心は神様方には筒抜けで「だよねー」とイゴール様は笑われる。イゴール様だけじゃなくロスマリウス様も「違いねぇな」って、HAHAHAと声を上げられた。イシュト様も仄かに唇が上がってるんですけど。
唯一氷輪様だけが「どうしたものか、この間から百華や艶陽と考えている」って仰ってくださる。
「僕だって考えてるよ。ちょっと酷過ぎるからね」
「ありがとうございます」
イゴール様もそうは仰ってくださるけど、コーラ飲んでげふってなりながらじゃ……。いや、不敬。これ以上はいけない。
気分を変えるためにハーブティーを飲めば、苦かった口の中がスッキリする。
今回の夜中のお茶会、氷輪様はレクス・ソムニウムの衣装に少し似た、前世の狩衣ってやつをお召しだ。冠もきちんと被っておられて、何だか光の君って感じ。
それは置いといて、今回の趣旨は「寄生キノコについて」ということだそうな。上で見てらして、ちょっくら助言してやろうという思し召しだそうで。
「対抗策がないわけじゃないんだよ。ちょっとただの人間には難しいだけで。いや、人間っていうのは言葉の綾で、単なる魔族にもエルフにも獣人にも難しいけど」
「そうなんですね……」
医学の神様であらせられるイゴール様は、寄生キノコも何とか出来ると仰った。けども条件がありそうな口ぶりに、私は顎を擦る。
単なるというのが問題なんだ。この場合の単なるは何にかかるのか。
寄生キノコモンスターはモンスターなんだから、意志の疎通が図れるのか?
そう考えて「否」と首を振る。意志の疎通が出来るくらいなら、もう雪樹の族長は試しているだろう。それでさえ駄目ならキノコモンスターは意思疎通が出来ないか、或いは繰り手花のしゃてーのように自らの意志で意思疎通しないのだ。
いや、待てよ?
今、一瞬引っ掛かった。
その引っ掛かりを口に出してみる。
「あの、寄生種対寄生種ってどっちが強いとか、あります?」
おずおずと尋ねると、一瞬四方がきょとんとなさる。瞬き一度の間に、ロスマリウス様とイシュト様がからからと笑い出した。
「お前は本当に面白いことを考えるな!」
「毒を以て毒を制すか。中々愉快なことを考える」
この反応を見るに私の引っ掛かりは間違ってないんだろう。お二人から視線を外してイゴール様を見れば、イゴール様も真面目な顔で頷いた。
「そういうこと。ただ、人の身体の中で戦わせることになるからね。勝った後の繰り手花の管理が……いや、君のところは大丈夫か。この間繰り手花をボッコボコにしてたもんね」
「ああ、はい。見事な試合でした……」
「見かけによらず凶暴だよね、君のとこにいるやつ。人間もだけど。君からして」
ぽそっと付け加えられたことに関しては空耳かな。だって私は凶暴じゃないし、どちらかといえば平和主義者だ。ただし弱いとも戦わないとも言わないけど。
とりあえずではあるけど、族長の病に関して算段はたった。後は思惑通り次兄とその後ろにいるヤツを引き摺りだすだけ。これが多分一番骨が折れるだろうな。
さあ、どうしよう?
『それに関しては、お前は気にしなくてもよい』
「え?」
思考に沈みかけた私の頭上に、氷輪様のお声が降る。
どういう意味か測りかねて顔を上げれば、氷輪様は薄く笑んでおられて。
『宇気比の結果を待て』
「あ、はい」
氷輪様がそう仰るってことは何かが起こるんだろう。ただ何か起きなくて、次兄の後ろにいるヤツをとっ捕まえられなくても、現行特に困りはしない。ラシードさんが勝てば、次兄とは雪樹の一族から切り離されるからだ。勝負の結果を怨みに思ってラシードさんやイフラースさんに何か仕掛けたくとも、菊乃井は悪意を抱くものに門を開くことはない。雪樹の一族に何かしたくとも、出来ないように手は打つ。
「傀儡奇術だが、お前の思う方向に調整してやろう。そうだな、抹消刑と同じだが、消えるのは記憶ではなく能力だ。が、オレは慈悲深い。救済処置も用意してやる」
私の心の声を聞かれたのか、ロスマリウス様がそう仰る。しかし、その顔は慈悲深いっていうか、結構獰猛な感じ。何を考えておられるか読み難いその表情に、背中に緊張が走る。
そんな私の様子に、ロスマリウス様はポムスフレの入った皿を指差された。
「そんな警戒すんなよ。俺はカレー味の煎餅とカレー味のポムスフレを所望するぞ。コイツの神殿にでも置いといてくれたら、回収してもらうからよ」
「は!? 僕が回収するの!?」
「そうだな、余にもそれを捧げよ。決闘の折、便宜を図ってやろう」
『お前ら、たかるな! それでも神か!?』
HAHAHAと笑うロスマリウス様に、イシュト様も何食わぬ顔で乗っかる。いや、うん、私は良いんだけど、イゴール様って姫君様や艶ちゃん様だけでなく、お二人にもパシリ扱いされてるの?
そんなことを考えた瞬間、イゴール様の目が死んだ魚の目になった。
『鳳蝶、傷を抉ってやるな』
「ひょえ!? 申し訳ありません」
「うぅん、気にしてない。キニシテナイヨー……」
イゴール様の力ない声が、現実を知らしめていた。
すったもんだがありまして。
雪樹の一族の元に乗り込む当日がやって来た。
メンバーは私にロマノフ先生とラーラさん、ラシードさんとイフラースさんにカーリム氏。それからベルジュラックさんと威龍さん。案内人として予てからの約束のジャミルさん、そして……。
「レグルスくん、やっぱりお留守番しない?」
「しない! れーもいく!」
「でもさー、雪樹山脈って凄く寒いんだよ……? 風邪引いちゃうかも知れないし」
「にぃにだっておかぜひいちゃだめだよ!」
「あーねー……」
レグルスくん。
不測の事態に備えてお留守番してほしいって言ったんだけど、この調子。
いや、まあ、それは建前だよ。
ヴィクトルさんに残ってもらうのだって、次の菊乃井歌劇団の公演の方が一大事だからってだけで、基本何かあるとも思ってない。あちら側に私達に対して何も出来ないってことを知らしめるために乗り込むわけだしね。
要するに親兄弟の諍いなんて教育に悪そうなものを、レグルスくんに見せたくないだけだ。
まあ、今更だけど。
「じゃあ、レグルスくん。ござる丸としゃてーのことリュックに入れて、連れてってくれる?」
「いいよー! きょうはグラニもいっしょにいけるんだね」
屋敷の庭には今日雪樹に一緒に行くメンバーがずらっと並んでる。それは人間だけじゃなく使い魔もだ。
私の使い魔はござる丸としゃてー、ぽち、そしてグラニ。ラシードさんの使い魔はアズィーズは元より、魔女蜘蛛・ライラ、絹毛羊の王子・ナースィル、星瞳梟のお嬢さん・ハキーマと揃い踏み。イフラースさんはガーリーのみを同行させる。奈落蜘蛛のアメナはタラちゃんと一緒にお留守番だ。
いざ、出発!
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ




