嵐の前の準備期間
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次回の更新は、9/25です。
二週間の時間が何で必要かっていうと、次兄はラシードさんに嗾けるためのワイバーンを手に入れるために、それまで使い魔にしていたモンスターのほとんどと契約を切ってしまっていたそうで。
残っていたのは次兄が赤ん坊から育てたガルムという狼種のモンスターだけだった。なのでそれで勝負っていうのも酷なことだろうと、戦力を整える時間として二週間が与えられることになったとか。ただ、その時間以外は一部謹慎のような扱いが、完全幽閉に変わったけどね。
次兄はそのガルムとかいうモンスター一匹で十分だって吼えたらしいけど、「負けた時にモンスターが少なかったって言い訳できるからか?」ってラシードさんに煽られて、挑発に簡単に乗ったとか。
頭が痛そうにカーリム氏とラシードさんは語った。うん、お疲れ。
で、ここからは威龍さんからの報告なんだけど、次兄の守りのために武神山派の精鋭数人が、影に潜んでくれているんだって。
もしこの間にラシードさんの命を狙って蠢く者が、再び次兄に接触すればその時にソイツを捕まえるか追跡するか。そういう行動をとるようにと指示を与えているんだって。頼もしいことだ。
二週間あればこちらはもっと準備を万全に出来る。
そういう訳で、各々自分がすべきことをして二週間後にまた集合ということになった。
私もその間に色々やらなければいけないことがある。
まず帝国上層部への中間報告。
これに関しては先生方が方々に転移魔術で行ってくださったのと、私自身は皇子殿下方に遠距離映像通信魔術で連絡を入れた。
報告に対して皇子殿下方は、二人とも三度くらい瞬きして「え? なんでそうなるんだ?」とか、「当の本人が何も疑わないで、間違いなく実子が悲劇の主人公だと思い込んでるとか何?」と、明らかに呆れた様子で仰ったな。
何、か? そんなの私が知りたい。
けど雪樹の一族の族長の体調の話になると、二人は少し痛ましげに眉を寄せた。
『ラシードは現行お前に守られているから安心できるが、問題は長男と次男だったわけだ。ラシード自体は心を鬼にしてお前の元に捨て置けば、三兄弟の中で一番安全で安心できる場所で暮せる。一方で一族の方は次兄を厳しく処断しても、一族の中に既に不和の芽は蒔かれているからな。南アマルナと小競り合いしていた一族だ。それをまたぞろ彼方に利用されても敵わんから、次兄をあえて泳がせて囮にし、今回仕掛けて来た奴ら諸共排除にかかったのか。だがそうするにしても、長兄が情に流されては元も子もない。だからこそ、一番きつく現実を見せてもらえそうなところに放り込んだんだろうが……。病に関しては、次男をきちんと守ってやれなかった罰とでも考えてそうだな』
「そうですね……。ただ次兄が生きていることで、あちらがまだ次兄を手駒として使えると判断すれば、他の一族の者への接触の可能性は低くなるでしょう。次兄は益々拗らせるでしょうが」
『なんなんだろうね……?』
統理殿下のため息とシオン殿下の呆れた声が耳に届く。
今でさえ拗れてるのに、これ以上ってあるんだろうか?
言っててため息が出てくる。
この辺カーリム氏の話を聞いたけど、彼らは次兄が蔑ろにされていると疑う度に「そんなことあるはずがない」って、ことあるごとに諭してはいたそうだ。
族長は長兄と次兄では一族で負う役割が違うのだと説得していたという。お父上なんか族長からお叱りを受ける覚悟で、次兄が欲しいと言ったモンスターを捕まえて与えてやってたらしい。寧ろこの辺はカーリム氏やラシードさんより優遇されてたくらいだ。
でもそこで一旦は納得するんだけど、暫くするとまた疑い始めるそうな。それで最近はきりがないっていうんで、軽く受け流すことが増えたとか。
これが良くなかったんだろうけど、そうはいっても限度ってものがあるんだよなぁ。
また大きなため息が出る。ぐりぐりとこめかみを揉んでいると、統理殿下が「それにしても」と呟いた。
『俺達より年上の連中がこういう感じなんだから、俺達はもう少し出来なくってもいいんじゃないか?』
『兄上、多分逆です。僕達より年上の人達がこんなだから、僕達がしっかりしないといけないんです』
身も蓋も底もないシオン殿下の言葉に、私の喉は乾いた笑い声を押し出した。
虚無を感じても、やらなきゃいけないことが減るわけじゃない。
日々の政務はあるし、連絡以外にも準備はあるんだ。
その合間にお客さんもやって来た。誰かっていうと、イツァークさんが紹介してくれた絵描きさん。
以前スケッチブックだけが届いたんだけど、本人がようやく菊乃井に到着したんだよね。
なんでも旅費と当座の生活資金と稼ぐために、道中でお仕事してたから、それが終わるまで動けなかったらしい。
それでその生活資金や旅費のための仕事がようやく終わったとかで、名うての冒険者であるサンダーバードの晴さんに連れられてやって来た。
まあ、絵描きさんに「当家で貴方を雇用したい」っていうお手紙を届けたときには、既に菊乃井までの護衛として晴さんが絵描きさんに雇われてたので、それじゃあって晴さんにお願いしたんだよね。勿論護衛費も旅費も菊乃井持ちだ。
応接間に晴さんと二人並んで座ってたのは、オレンジっぽい髪の厚底眼鏡の女性で、旅姿だからか三つ編みがところどころ解けてピョンピョンと毛束がはみ出している。
よほど急いできてくださったに違いない。晴さんはいつもと同じく身形が整っているあたり、歴戦の冒険者って体力も凄いんだな。
二人の斜め向かいに当たるソファーまで来ると、私は彼女達に声をかけた。晴さんには労いとお礼を、オレンジの髪の女性には初めましての挨拶を。
するとびくっとオレンジの髪の女性が肩を震わせたかと思うと、ソファーから急に立ち上がった。
「あ、あの、わた、わたし、わたくしは、あの、旭と申します! こ、侯爵様、あ、いや、あの侯爵閣下にはご、ごき、ご機嫌麗しくあらしぇ……! か、かんだ……!」
「落ち着いてください。まずお茶飲みましょうか? ご丁寧に、ありがとうございます。旭さん」
「はひぇ!? お、お茶、いただきます!」
穏やかに返せば頬っぺたを赤く染めて、先に出されていたお茶を飲む。慌てるその背に晴さんが手を添えて、撫でてやって。
「もー、彼女、朝から凄い緊張してたんだからぁ」
「そうなんですか?」
「うん。だってあの菊乃井歌劇団の創設者で、音曲を愛でる神様である百華公主様のお気に入りの菊乃井侯爵閣下に御目通りが叶う~とかって」
「だってその方凄い絵描きさんですからね。当家にお招きするにあたって、誠意を見せないと」
「だから閣下はそういう人だから、大丈夫って言ったんだけど……」
晴さんが肩をすくめる。
なんでも道中晴さんが聞いたことには、帝都で食い詰めたのには貴族とのお付き合いを失敗したのも一つ原因にあるのだとか。
とある画廊で個展を開けたはいいが、芸術家のパトロンを自称する貴族に頼んでもないアドバイスをされたり、作風を変えろと迫られたらしい。断ると、画廊や色々に手を回されて、結果都落ちせざるを得ないことに。
「それは不運に見舞われましたね。でもその貴族とやらもこちらには干渉出来ません。私の望みは一つ、貴方の筆で菊乃井歌劇団を更に美しく夢と希望に満ちた存在へと高めてほしい。そして貴方自身の芸術も磨いて、次に受け継がせてほしいというだけです」
「一つじゃなくて二つ? いや、三つあるじゃん」
「おや、ばれた」
ころころと笑う晴さんに悪びれず返せば、旭さんが一瞬キョトンとする。そのすぐ後、顔を真っ赤にしてまたソファから立ち上がり、「頑張ります!」と勢いよく頭を下げた。
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