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シナリオと演者のミスマッチ

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、9/22です。


 拍手を送られたラシードさんははにかみ、イフラースさんはそっと目を逸らす。ラーラさんが薄く笑みを浮かべる中、カーリム氏は一人首を傾げた。

 雪樹まで私の切り札は広まっていないからこその、ラシードさんの奥の手なんだろう。勝つために必要だと思うことは全てやるようにと、雪樹に向かう前にルイさんやエリックさんに言われた成果が発揮出来たんだろう。いいことだ。

 首をひねるカーリム氏に何をしたか教えた方がいいのか、考えているうちに扉がノックされた。


『わか、じゃない、だんなさま、はいっていいですか?』

「はい、どうぞ」


 元気なアンジェちゃんの声に返事をすれば、扉がゆっくり開いて外からアンジェちゃんと大根先生が現れた。

 二人して部屋に入るとアンジェちゃんは「おつれしました!」と一礼して、部屋から出ていく。

 彼女が完全に部屋から出ていくのを確認して、大根先生は手を上げた。


「頼まれていた物を持ってきた。確認してもらえるかね?」

「ありがとうございます」


 お礼を言えば、大根先生はにこやかに頷く。そして部屋の中央、皆で囲んでいるローテーブルの上にいくつか小さな紙の(つつ)みを並べた。

 皆が私と大根先生の間で視線をうろつかせる中、私はベルジュラックさんに声をかける。


「ベルジュラックさん、その包みを嗅いで雪樹の族長とその夫君ふくんからした匂いと同じモノがあるか確認してください」

「は」


 ベルジュラックさんは私の言うように、一つずつ包みを検める。

 中に入っているのは紫の粉薬だったり、茶色の粉だったり、白い粉だったり、様々な色の粉薬で。

 ベルジュラックさんは二十ほどのその包みを一つずつ嗅いで、その中から最後から二番目に嗅いだ包みを「これです」と私に差し出した。

 受け取ったその包みを、私は大根先生へと返す。すると大根先生は「当たりだな」と呟いた。


「まんまるちゃん、どういうこと?」


 ラーラさん自身は多分予測がついてるんだろうけど、不思議そうな顔をしている面々のために尋ねたのだろう。


「私、この間から急いで代替わりする理由を考えてたんですよね」


 一つは私と同じく、先代が全く頼りにならないばかりか、有害でさえある場合。これはでも雪樹には当てはまらない。だって今までの統治に問題なかったからこそ、大半が今回の族長の裁定に不審を抱いてはいても、すぐに反抗にはつながらなかった。

 統治に何の不満もない。能力的に不足はない。それなのに……と考えたとき、無難といえば無難なんだけど健康問題じゃないかと思った。

 だけど単に健康に問題があるだけなら、代替わりを急ぐことは無いだろう。だって族長は出産の折、夫と長老に任せて一族を離れていたというではないか。

 だったらそれはきっと一時の戦線離脱くらいでは済まない問題なのでは?

 そう考えると不治の、それも死に至る病なんじゃないかなぁってね。


「なので、大根先生にお願いして凡そ考え得る不治にして死に至る病の薬を用意していただいたんです。ラシードさん達が帰って来たら『こういう薬は見たことないか?』って尋ねるつもりで。匂いを嗅いで覚えて来てくれて助かりましたよ」


 そう話せば、ラーラさん以外の人達の顔が引きつる。特にカーリム氏とラシードさん、イフラースさんは血の気が完全に失せていた。


「いつからそんなこと考えてたのさ?」

「極端な幕引きを図ろうとしてるんじゃないかって思った辺りからですね。両親が揃っていて、私を頼ってまで引き締めを図ろうとしてる理由を考えてみるとこの辺かなって」

「なるほど」

「だってやり方が酷なんですよ。いくら次期族長っていっても、今まで両親に守られて自分で大きな決断をしたことがない人を、矢面にいきなり立たせるとか。だけどそうまでして鍛えないといけない事態になったから、丁度良い試練を課そうとしたんじゃないかと。お母上の誤算は、多分思ってたより私がエゲツナイ人間だったってことかな?」


 大方市井の評判を調べたんだろうけど、人を甘く見過ぎだ。

 吟遊詩人や市井の人の口の端に登る私の評判は、確実に私の本性を反映してはいない。だってアレは他者が見たいように私を幻視した結果の虚像にしか過ぎないんだから。そして私はその幻想を肯定もしないが否定もしない。穏やかに笑ってるだけだ。そしてその笑っているという事実に、人は夢を見る。

 雪樹の族長も、私に都合よく夢を見たに過ぎない。まあ、それはいいとして。

 大根先生に視線を移すと、彼は心得ているとばかりに頷いた。


「この薬なのだがね。肺に寄生したキノコ型モンスターの胞子が、全身に回るのを遅らせるというものだ。普通のキノコなら枯らすことも出来るが、モンスターだ。中のモンスターを殺すには、寄生されたものを殺す他ない」

「!?」


 雪樹の兄弟・乳兄弟の表情が凍り付く。いや、威龍さんやベルジュラックさんの表情もだ。

 私やラーラさんは辛うじて取り繕うことが出来たけど、それでもすぐに声は出ない。これは流石に予想できなかったな。もう少し穏やかなものかと思ってた。けれど、いずれにせよ、か。


「か、可能性の話だろ!?」


 ラシードさんが裏返った声を上げる。


「勿論ですよ。全く違うかもしれない。でも否定する材料がありますか?」

「そ、それは……」


 いや、もう、ここに至る全てが推測でしかないんだから、これだって確証はない。確証はないけど、私の予想どおり裁定は覆らなかった。

 睨み合うような私とラシードさんの視線の応酬に、イフラースさんはオロオロとする。でもここに至って一番揺れそうなカーリム氏が、さっきからずっとだんまりだ。さて?

 横目でカーリム氏を観察していると、大根先生が「ちょっといいだろうか?」と声で割って入る。


「このキノコ型モンスターなんだが、ワイバーンの寝床によく生えていてね。寄生はワイバーンとの接触、ないしワイバーンと接触した人物との接触によって起きるんだ。普通健康な人には中々寄生出来ないんだが、貧血気味だったりすると寄生される可能性が高くなる傾向にある。とはいえ、寄生された人から他者に胞子が移ることは、基本的にないんだがね。寄生されてからの余命は一年あるかないかだ」

「なんとまぁ……」


 見事な不運の連鎖だな。

 まあしかし、やりようがないわけではない気がするけど。

 私と睨み合う形になっていたラシードさんが、しおしおとソファーに沈む。イフラースさんはその背中を支えるけれど、自分自身も相当酷い顔色だ。

 しかし。


「決着を付けましょう」


 カーリム氏が力強く言った。

 それに縋るようにラシードさんが視線を向ける。


「もしも侯爵様のいうことが全て当たっているのなら、早くケリを付けて安心させてやりたい。そうして肩の荷を下ろして、治療に専念してほしい」

「兄貴……」

「それには俺が族長としてやっていけるって示さなきゃいけない。ラシード、すまん。改めて、俺に力を貸してくれ。頼む」


 カーリム氏はそういってぎゅっとラシードさんの両手を握る。

 ここに至って猶予はない。それがカーリム氏を覚醒させたのか、その目には強い光があった。

 ラシードさんは最初は動揺していたものの、一度目を瞑って次に開けた時にはもう、その揺らぎは表情から消えていて。


「兄貴。俺、勝つよ」

「ああ。お前に託すよ」

「任せろ」


 がっちりと手を取り合う二人は、決意を新たにしたようだ。

 ようやくかと思わないでもないけど、水を差すこともないだろう。

 これから先は私が動くんじゃなく、人を動かして勝つことも考えないといけなくなるんだろうな。嫌になるね。

 決闘裁判は二週間後だそうな。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ

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― 新着の感想 ―
族長の旦那は王配としての権限、能力が全く無いの?
[良い点] いけ! しゃてー! 寄生対決だ!
[良い点] キノコモンスターを体内から殲滅しようとしたら、勇気を出して立ちはだかる寄生仲間のシャテー君とか、、、
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