舞台を整える側のあれやこれや
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次回の更新は、9/1です。
「……なるほど。今回は雪樹の一族とその裏で暗躍する悪党の成敗ですか」
ベルジュラックさんと威龍さんは、突然の呼び出しだってのにすぐに来てくれた。
今回のラシードさんと雪樹の一族の色々アレコレを話して、ラシードさんの護衛を頼んだんだけど、反応がこれ。
握り拳を握って何処か目を輝かせている威龍さんと、うんうん頷いてるベルジュラックさんにちょっと目が滑る。
「悪党……まあ、ラシードさんの命を狙う輩は確実にそうですね。雪樹の族長はちょっと保留で」
私の推察した通りなら、何か理由があるんだろう。だけどそれによって引き起こされてる一族の混乱は、同じ政を執る者として見逃しがたい。このまま決闘裁判に持ち込んで、ラシードさんが勝ったとしよう。浅からぬ傷を彼女自身も負うだろうさ。
悪くて一族から追放か? いや、それだとカーリム氏の相談相手がいなくなるんだが……。
何処に落としどころを持っていくのが正解なのか、見通しの利かなさに少し苛立つ。かりっと右手人差し指の第二関節を齧ると、横合いから「まんまるちゃん」と労りを含んだ声音で呼ばれた。
「ボクはキミの名代として、シラノは純粋に護衛。でも威龍は?」
「ああ、その雪樹の族長がおかしくなった理由を探ってほしいんです」
多分カーリム氏やラシードさんにはまだ見えてない理由がある。威龍さんのところの武神山派の情報網は侮れないし、情報の精査能力もかなり高い。威龍さんが異変に気が付かなくても、持ち帰った情報を諜報部が分析したら、まだ出て来てない理由が解るかも。そういう意味で威龍さんにも雪樹に行ってほしい。
理由を話せば、威龍さんは重々しく頷いた。
「解りました。某も間諜として働いていたことがある身です。雪樹の内情、探り出してご覧にいれましょう」
「お願いします。けれど手荒な真似をするのもされるのも、なるだけ控えてください。雪樹の一族は敵ではない。寧ろ近いうちに味方になる可能性が高い人達です。抱える遺恨は小さいに越したことはありませんから」
「はっ」
ゆったりと一礼する威龍さんを見て、ベルジュラックさんも頭を下げる。後ろでブンブン尻尾が揺れてるんだけど、張り切ってくれるのはいい事だ。
って訳で、今回の護衛は決定。
ラシードさんとイフラースさん、カーリム氏にも二人を紹介する。少しイフラースさんが「護衛とは?」って顔をしたけど、それだけこちらがラシードさんの存在を重要視してるってアピールでもあると説明したら納得してくれた。
あっちもこっちも立たせないといけないのって、本当に面倒。
諜報にオブライエンを行かせてもよかったんだけど、彼の雰囲気ってまだちょっと荒いんだ。それよりは好青年という雰囲気を纏った威龍さんに行ってもらった方が、警戒心は薄まるだろう。あとオブライエンには雪樹だけじゃなく、象牙の斜塔の監視もやらせてるしね。
そういう訳でラシードさんの出発は明後日ということに。
アズィーズとガーリー以外の使い魔達は手札を伏せる意味でもお留守番だ。その間に色々用意しないといけないものもあるしね。
で、だよ。
ラシードさんが上手いこと喧嘩を売って、相手に見事に買わせて、決闘裁判に持ち込んだら、改めて一回帰って来てもらう。それから私達が雪樹の一族に乗り込む。
本当ならラーラさんに行ってもらうのは、私がそれだけ雪樹の一族を重要視してるんですよって意味なんだけど、それを理解できない連中はラーラさんに喧嘩を売るだろうさ。
そうしてそれを理由に、私が乗り込むんだよ。お前らが誰を侮辱したか、その目でしかと確かめるがいいってね。
「名代にラーラを派遣してる意味が解る人の方が多いといいね……」
「少なくともラシードさんのお母上は解ってくださると思います。まあだからって、企みを中止にはしてくれないんでしょうが」
「というか、あーたんのとこにラシードたんが転がり込んだから、今回のことをやろうと思ったんじゃないのかな? あーたんには迷惑だろうけど」
やっぱり皆そう思うんだな。
だけどまともな親なら、社会的にっていっても親殺しさせたいと思うんだろうか?
疑問に思ったのは私だけじゃないようで、食卓を囲んでるロマノフ先生やラーラさんもヴィクトルさんも皆一様に納得が行ってない顔をする。
「カーリム氏が若いのも気にはなるんですよね」
「そうなんだよね。まんまるちゃんに比べたら、別に若くはないんだけど」
「そこは私を比較にするから……。いや、皇子殿下方もお若いですけど」
ロマノフ先生の呟きにラーラさんが頷く。
でも改めて考えたらそうなんだよ。私は七つだし、皇子殿下達は十二歳と十歳。子どもなんだ。それも特殊な立ち位置の。だから比較対象にする方が変なんだよ。
成人年齢は国によって違うんだけど、概ね幼年学校を卒業する十八歳。雪樹もそうらしい。そこに二十五歳っていうと、社会に出てまだ十年も経ってない。しかも両親はご存命。これで今、一族をいきなり引き継ぐ覚悟なんかなくたって、ちょっと甘いっていう程度なんでは?
私は既に長という立場の先輩だから色々言うけど、本来そうそう他者が非難できる状況でもないだろう。
「或いは、急がないといけない理由があるのか……」
あるんだろう。それを探ってもらうのに、威龍さんにお手伝い願ったんだし。
でもこの手の急ぐ理由の定番って言ったら、決まって来るんだろうけど。さて、どうしたもんかな?
考えてる間にも、手はちゃんと動いてて、せっせとエンペラーのソテーを口に運んでる。
こんな消化に悪そうな話をしたって、料理長の料理は凄く美味しいんだ。幸せ。
隣ではレグルスくんも幸せそうに、ソテーを食べている。こんな話はやっぱり食事中には合わないよな。
一旦この話題からは離れよう。
皆そう思ったのか、一瞬食卓が静かになる。けど、一息おいてラーラさんが「あ」と小さく呟いた。
「ごめん、まんまるちゃん。言うの忘れてたんだけど、明後日あたりにアントニオが菊乃井に着くって連絡があったんだ」
「あ、そうなんですね」
「うん。ボクは予定通り雪樹に行くから、叔父様に彼を紹介してもらえるかな?」
「はい。必ず」
アントニオさんは夏休みのマグメルで知り合った、ゴブリンのプラントハンターだ。凄腕さんらしく、この度大根先生にご紹介するつもりだったそうで。
冒険者ギルドや菊乃井の衛兵には彼が来たら、すぐに私に声をかけてもらうような手はずになってる。
ゴブリンという種族は、人間から酷い偏見を持たれているみたいだけど、冒険者は意外とそんなことはないみたい。
命を助けたり助けられたりする中で、種ではなく個を見る人が多いかららしいけど。
「そういえば、今回面白い植物を手に入れたそうだよ。叔父様が興味を惹かれそうなヤツだってさ」
「そうなんですか」
「うん。まあ採取した理由は、放っておいたらちょっと危ない植物だかららしいけど。でも研究者だったら、何とか出来るんじゃないかってことで持ってきたんだって」
おおう、それはちょっと私も興味あるな。
この間の夏休みに色んな生き物を見せてもらったお蔭で、私達は今変わった生き物に興味津々なんだよね。私達っていうのは、いつものフォルティスメンバーなんだけど。
「それ、私達も見られますかね?」
「うん? 叔父様と一緒だったら見せてもらえるんじゃないかな? 何だったらアントニオに『まんまるちゃん達にも見せてやってほしい』って連絡しておこうか?」
ラーラさんの申し出にひよこちゃんを見れば、おめめキラキラで私に頷いて見せる。そりゃ見たいよね。きっと奏くんや紡くんも見たいだろう。
「お願いします!」
「ラーラせんせい、おねがいします!」
二人でお願いすると、ラーラさんは笑って「任せて」と請け負ってくれた。
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