団子三兄弟の歌詞を思い出した件
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ここに至って「どうするんです?」ってのは、本来は愚問な訳だよ。
だって乗るしかないんだ。そこまで今の族長を追い込んだんだから。
だけどあえてこういう聞き方をしたのは、現段階でカーリム氏に覚悟がないとしか見えないからだ。
違うな。彼に覚悟がないために、族長は爆発せにゃならん環境を調えたんだ。
あからさまにおかしな裁定、一族にじわじわと広がって今にも火が点きそうな不満、そしてカーリム氏に「お前はくっそ甘い」って現実を痛みとともに突き付ける人間……これに私を据えたのは、私が親を排除して菊乃井の天辺を獲ったからだろうさ。
カーリム氏より遥かに幼い私ですら、未来のためにそこまでやったのにってな。
あと弟に甘いってのも同じだと思われてんだろうよ。だけど残念だな。うちのひよこちゃんは善悪の区別はちゃんとついてるっての。
同じ弟なのにラシードさんには弱い者を虐めようっていう発想がないのは、うちのひよこちゃんと同じなのにな。次男はどこで曲がったんだ?
思い至って、私はジト目でラシードさんに視線を移した。そういや、肝心なことを聞いてなかった。
再びカーリム氏に目線をやる。
「次兄も貴方も、ラシードさんとは本当は従兄弟だった訳ですけど、その辺はどう思ってるんです?」
「……あ、え……血の繋がりがどうであれ、弟なのはこれからも変わりない。だからこそ、どうすれば良かったのかと……」
「次兄もラシードさんと、半分しか血の繋がりがないことは知ってるんですか?」
「……母は『ザーヒルは知らないし、知らせるつもりはない』と言っていました」
「そうですか」
知っていようが知っていまいが、次兄がラシードさんにつらく当たっていたのは変わりないもんな。
カーリム氏とラシードさんによると、お母上とお父上は本当に三兄弟を平等って訳にはいかないけど、出来るだけ差を付けずに育てたそうだ。
平等って訳にいかなかったのは、やっぱりカーリム氏が次の族長となるって決められてたので、その分の教育や周囲の温度的なものの差はあったらしい。
加えて容姿。
角の形がカーリム氏の羊型でも、ラシードさんの山羊型でもなく、なんと次兄の角は一角獣のごとく額に一本だとか。
それは母方でなく父方の、それも曽祖父より前の世代に一人いたくらいの珍しい形だったそうで。
「思えばそれも劣等感になったんじゃないかと……」
「虐められたんですか?」
「俺の知っている限りではそんなことはなかったはずだ、が……」
カーリム氏は言い淀む。そらそうか。お前の目は節穴だって突き付けたばっかりだもんな。自分の視野を疑うのも当然か。
とはいえ、雪樹の一族は独立不羈は謳っても純血主義って訳じゃなかったので、人間とのハーフだったり、獣人とのハーフだったりもいるしで、容姿に関してはバリエーションが豊かなんだとか。
ようは俗世というか今までの繋がりを薄くして、一族に入って来るなら種族は問わないみたい。
前に雪樹の一族について書かれた本を読んだ時には閉鎖的ってあったけど、実際は異種族排斥みたいな話じゃないってことだね。
ジャミルさんも商人として取引してるって言ってたもんな。
なるほど。でも、あれ?
顎を擦って、机に視線を落とす。
なんか今、凄く引っ掛かるものがあった。
子どもの頃から兄との不公平感を感じていた、容姿が違う。それも角……。
「……いや、いやいやいや、そんな馬鹿なことあるか……?」
ラシードさんが追われた原因が角にあるからって、そんな馬鹿なことあるぅ?
でもなぁ、角の無い人間からしたら角の有無で生かすの殺すのっていう価値観は解らないんだし。そう考えれば、ないこともない話だと思えてくるから不思議だ。
そこでハッとする。
「ラシードさんって、自分の角がお兄さん達に似てない件に関して、私が以前お母上と似ているのか尋ねたときに話しませんでしたよね?」
「え? あ、うん。だって兄貴の誰とも違うし、おふくろと親父も違うし、周りもわりと角は似てたり似てなかったりだから、角に関してはそんなもんだと思ってた」
「一族において角はそれぞれ変わってても怪しまれないってことですか?」
「うーん、どうかな? 俺の場合は長老が『曾祖母さんの角にそっくりだな』って言ってたからそうなんだろうって思い込んでた部分もあるし。あれ? でも長老、下の兄貴の角は『こんな角はとんと覚えがない』って言ってた気がする」
首をひねったラシードさんの言葉に、カーリムさんが思い出したように後を継ぐ。
「でも父方の祖母が『アタシの祖父さんの若くして亡くなった末弟が一角だったらしい』って言ってたから、そこに似たのか……と」
「証言だけで、誰も見た事がないんですね?」
「そうなるのかな?」
「ああ、その通りだ……。あ、いや、その通りです」
尋ねた私にラシードさんは怪訝な顔で答え、カーリム氏は言い直す。別に敬語を使えとは思わないけど、言い直してるあたりカーリム氏は真面目なんだな。
うーん、次兄がつけ込まれた理由がちょっと見えて来たけど、これだとしたらちょっと、いや大分、かなり……。
取りあえず、ぶつけてみようか?
「あの……次兄がラシードさんを虐めてたっていうか、貴方にもご両親にも反発しまくってたのって、もしかして『自分は実子じゃないから差別されてる』とか、僻んでたとかそんな……?」
考えつつ言ったけど、どう言葉を選んでもこんな馬鹿みたいなことってないだろう。
ただ、もしそう考えてたとしたら、辻褄が合わなくはないんだ。
自分だけ容姿が違う。似てる人間が直近にもいないし、そんな人がいたなんて証拠もない。
将来族長になる兄と、そのスペアの自分とでは周りの扱いが仄かに違う。そして能力の低い弟のことは心配して護衛を付けるけれど、スペアの自分は放置。いや、能力があるから放置なんだけど、じゃあ能力がある兄は族長になるからって優遇されてるじゃないか……と?
で、ここにつけ込むのは容易いわな。
貴方様は実はさるやんごとないお方の御落胤、族長は貴方を預かったのはいいが持て余しているのです。だから育て方を実子二人と差を付けているのです。でもお可哀想なことに、波が立つのを誰もが恐れ、貴方様を引き取ることも出来ぬ状況。その鬱屈を晴らすために、ワイバーンを差し上げましょう。ほら、貴方の下の弟に嗾けて遊んでやればいいのです。散々に追い回してやれば、貴方様の気も少しは晴れましょう……とかって。
次兄は実際ラシードさんを殺そうとまでは本当に考えていなかったとしても、捧げられたワイバーンは躯にそれと分からないよう偽装された物。
一見次兄の思い通りに動いているように見せかけて、違う人間の意を受けて動いていた。ある程度で止まるはずのワイバーンは止まることなく、ラシードさんやイフラースさんを追い立てて……。
「いや、いやいやいや、いやいやいやいやいや、流石にナシ寄りのナシだろ……!?」
これはいくら何でも妄想が過ぎる。
つらつらと考えていたことを話したけど、いくら何でもこんなことは会ったことも話したこともない次兄に対し失礼だ。
そう思って取り消そうとしたわけだけど、ソファーに座る長兄と末弟の顔色が微妙に悪い。ついでに末弟の後ろに立っている、彼の幼馴染兼護衛も凄く狼狽えてる。
え? まさか。まさか……。
背筋がぞっと寒くなる。
「あの、え? まさか、そういう人なんですか……?」
恐る恐る兄弟に向かって疑問を投げかける。
すると二人は大変良く似ているリアクションを同時にとった。
二人ともめっちゃ項垂れてるし、凄く頭が痛そうな顔なんだよな……。
口を開くのも怖くなって押し黙ると、ラシードさんがゆっくり顔を上げる。そして油でも切れたのかと思うようなぎこちない動きで、私の方に首を動かして顔を向けて来た。
「えぇっと……その……ここって『下の兄貴を馬鹿にすんな!』って怒んなきゃいけないとこだよな?」
「え? た、多分?」
「そうだよな……そうなんだよな……」
沈痛な面持ち。
そうとしか言えない長兄と末弟と幼馴染兼護衛の顔に、私は視線を明後日に飛ばした。
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