凸凹主従との信義と仁義
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次回の更新は、6/30です。
ラシードさんやイフラースさんが、蜘蛛族のライラとアメナと契約できたのは私の使い魔であるタラちゃんがいたからだ。
タラちゃんが持つ蜘蛛蜘蛛ネットワークで、人材……虫材募集をかけてくれて、そこにライラとアメナが応募してくれたお蔭。
鑑みるに同族のネットワークっていうのが、知能の高い魔物達の間には存在するようだ。実はござる丸もそういうネットワークがあるらしく、ここ最近庭に見た事ないマンドラゴラが埋まって寝息を立てているのを度々目撃している。
屋敷には先生達が張った悪意・害意のあるナニカを弾く結界が張ってある。それをすり抜けてくるんだから悪意はない。
源三さんの庭仕事を積極的に手伝っているらしいので、バイト代として奏くんや紡くんや大根先生が魔力をあげてるそうだ。私も偶に魔力をあげてる。
閑話休題。
知能が高い魔物は独自のネットワークを持っている。そして魔物使いはそのネットワークを利用することが出来る。
ならばそのネットワークを使用して秘密裏に、魔物使い同士が連絡を取り合うことも可能って訳だ。盲点といえばそうだね。
「大方、鳥類系のモンスターでイフラースさんのガーリーにツナギを取って来たんでは? 小型で、しかも悪意のないものなら菊乃井に入り放題ですし。もしくは貴方の方から知らせた?」
尋ねると、イフラースさんが唇を引き結ぶ。一方ラシードさんは真っ青だ。
唇を震わせて、ラシードさんはイフラースさんの胸倉を掴む。
「お、お前! 何で!? もしも俺の命を狙ってるヤツにそれを知られたら、菊乃井にワイバーンとかが襲って来るかも知れないのに!!」
「申し訳ありません!!」
激高するラシードさんに、イフラースさんはひたすら頭を下げる。けれど裏切られた気持ちと混乱が強いのか、ラシードさんは拳を握りそれをむずがるように振り上げた。
大きくため息を吐いて、私はラシードさんの拳に触れる。
「落ち着いて」
「で、でも!?」
「いいから。私は怒ってないし、現実に菊乃井は危険には晒されていません。そうなる見込みが僅かでもあれば、その時に言います。やってるだろうなって感じつつ、見逃して来たんだから大丈夫。どちらかと言えばこちらが契約違反かもしれない事案になってるから、話を付けたいだけです」
私の言葉にラシードさんは、イフラースさんの胸倉から手を離してその場にへたり込む。
主を想ってのことでも、やられた側にとって隠し事は裏切りに等しい。それによって誰かを危険に晒す行為であれば、猶更だ。
けども。
「ラシードさん、私は連絡を取る事を禁じた事はないですよ。知られた所で、国境を超えて菊乃井に攻撃を仕掛けるなら国際問題だ。貴方のお兄さんが犯人でも、その後ろにいる人間が犯人でも、大掛かりなことは出来ない。じゃあ貴方一人をっていっても、菊乃井は先生達だけでなくタラちゃんやアメナ達のお蔭で、まさしくアリ一匹敵意を持っては近付けない。イフラースさんは最低限、安全を確保した上で連絡は取ってくれている。怒るようなことじゃない。まあ、報告はすべきだなって思うくらいですか」
寧ろ方法があるのにやらなかったことに対して、文句の一つも言われそうな状態ではあるよな。これに関してはラシードさんが一人前になるのを待ってからでもいいかと、悠長に構えてたってのもあるんだけど。
ただそういう観点から見ると、この主従に言っておきたいことがある。特に主の方に。
私はワザとしょっぱい顔を作る。
「この件で叱責喰らうのは、寧ろラシードさんですよ?」
「お、俺……?」
ラシードさんは呆然としたまま、眉を八の字に曲げて泣きそうな顔で私を見た。何かこういう顔を見ると、レグルスくんよりちっさい子みたいに感じる。いや、まあ、そんなことはないんだけど。
「イフラースさんは貴方の部下でしょうが。その彼が貴方に何も言えないのであれば、貴方が気付いてやらないと。おまけに今回は思いつける方法があった訳だし。ちゃんと目配り気配りしなきゃ。貴方も今、勉強と修行で一杯一杯かもしれないけど、上に立つならば仮令一杯一杯でも、その辺りは忘れちゃいけない。私達がこれからぶつかる相手は、弱い所に弱いと解って手を出してくる輩がほとんどだ。気付かなかったで、後悔して泣くはめになるのは貴方ですよ」
「うぐ……!」
「ましてイフラースさんにとって私は怖いらしいし。そんなんで黙って何かしてるなんてバレたらどんな目に遭うか解んないし、貴方を守るのは自分だけっていう緊張もある。私は怖いらしいし!」
「……根に持ってんな」
「持ってたら、こんなもんで済まさないですよ?」
肩をすくめると半泣きのラシードさんが、ぐすっと洟を啜る。そして少し考えて、隣で土下座を決めているイフラースさんに向き直った。
「ごめんな。俺が頼りなかったから、ちゃんと相談出来なかったんだな……」
「いいえ! その様なことは決して! ただ……ラシード様の御立場を危うくするのでは、と……」
勢いよく顔を上げたイフラースさんは、縋るようにラシードさんの両肩を掴む。
この御立場を危うくっていうのは、恐らく菊乃井での立場じゃないんだろう。もっと根本の御立場ってやつなんだろうけど、その根本は今の安全が保障されていないとどうしようもない。そういうところまでイフラースさんにも考えが及ばなかった。或いはそこまで考える余裕がなかったということか。
ラシードさんに施された封印というのは、それほどのもののようだ。まあ赤子を封印するって余程以外の何でもないだろうけど。
でもさー、それ、破れかかってるんだよね。
イフラースさんとの契約はラシードさんの秘密を守ること、そして彼からラシードさんの封印についてこれ以上聞かないことだ。封印が破れたところで、契約違反にはならないだろう。
ならないだろうけど、信義とか仁義ってあるじゃん?
それに関して先にイフラースさんがやらかしてくれたから、ある意味助かった。それがあるから私はイフラースさんに怒ってはない。
一方、ラシードさんに言ったことも本心だ。これは以前私が姫君から教えられたことだしね。
上に立つ者は付いて来てくれる弱い立場の人を守らなきゃいけない。それが出来ないなら、他人と争うことを考えてはいけない。
ラシードさんの実家に乗り込むまでに、彼の甘さを削がなきゃいけなかったから丁度良かった。
そうはいってもラシードさんは跡取りとして最初から育てられた身じゃない。私にだって過酷ってことは分かってるんだ。
だけど事を動かすと決めた以上、ゆっくりラシードさんの成長を待ってる訳にいかなくなった。何せ私には味方が少ないんだから。
菊乃井が大きくなる度に、予期せぬところから敵が現れる。敵は勝手に増えるのに、味方は増やそうとしないと増えないんだ。
封印だの信義だの仁義だの、そういうところを省いてつらつらと二人に説明すれば、二人とも行儀よく正座しながら俯いてしょんぼりだ。
まあ、そうなるよな。努力してても足りないって言われた挙句、自分より年下の子どもに偉そうに上から目線の説教くらうなんて、誰だって嫌だよ。解る。
そう考えつつ二人を見ていると、急にラシードさんが顔を上げて正面にいた私に抱き着いて来た。
「ぐぇ!? 何!?」
「俺、そこまで期待されてたんだな!? ごめんな! 気付かなくって!」
「え? は?」
予期しない動きに驚いて躱し損ねた。ぎゅうぎゅう腕に力が入って、凄く締めてくる。
「ちょっと!? 痛いってば!」
「お前がそこまでオレが出来るようになるって期待してるなんて思ってなかったんだ! 俺、頑張るよ!」
「あ、うん? いや、貴方そんな感激屋だっけ!?」
「あ、ラシード様、最近凄く前向きに物事を捉えられるようになってきまして。でも自分もそこまで閣下がラシード様を想ってくださっているとはつゆ知らず……!」
主を止める事もなく、イフラースさんも立ち上がり、凄く真剣な顔で私に寄って来る。さっきまでの怯えっぷりは何処にいったんだ?
驚いていると、イフラースさんが私とラシードさんの前に跪いた。
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