リフレッシュでリスタート
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次回の更新は、6/12です。
私が夏休みに入る前に、オブライエンに指示した事が一つ。
それは雪樹の一族の長男坊に渡りを付ける事。
彼が真にラシードさんを案じて探しているのかの見極めが出来次第、接触を試みるようにと。
そして私が夏休みの間に、その見極めが終わったらしい。
少しずつラシードさんのお兄さんはこちらに手繰り寄せられているのだ。彼がそれに気が付いても尚飛び込んで来るならそれでよし。そうでなくこちらの思うままにされるなら、それも構いはしない。
前者ならラシードさんを死に物狂いで探してる証明になるだろうし、後者ならラシードさんの交渉が上手く行きやすくなるだろう。
そうは言っても秋口まではこちらも動く気はない。
ラシードさんにも今少し時間が必要だからだ。なんのためって、彼が使い魔達と連携を深めるため。
次兄との対決、ひいてはその後ろにいるものとの対決に向けて、彼らの戦力アップを図らないといけない。
まあでもその辺はそんなに悲観しなくていいだろう。
この件は引き続きオブライエンにお任せだ。
料理長に釣ったお魚を渡して、ロッテンマイヤーさんにお土産話を沢山して。
また来年も行きたいねってレグルスくんや奏くん・紡くんと盛り上がって、それから夕飯を一緒に食べて解散。
また日常が戻って来た。
私の夏季休業の間も菊乃井のお役所は動いている。
まず報告されたことの一つ目が、ロートリンゲン公爵領との街道の整備についての協議の打診があった事。
一昨年の武闘会のリザルトで断絶させたバラス男爵の財産の処分がやっと終わり、旧領の整備の目途が立ったそうだ。
ロートリンゲン公爵領側から菊乃井に訪問する際に接している境が旧男爵領だったせいで、あの賭けの清算が終わらない限りは手が付けられなかったんだよね。
なんせほら。
あの賭けでバラス男爵の財産一切合切巻き上げたじゃん?
その対価の支払いがバラス男爵だけではやっぱり出来ないし、もうバラス男爵家は断絶って事で彼ら一家は平民になったんだよ。
それでもバラス元男爵の嫡男はロートリンゲン公爵の下で官吏として働いて、それなりに暮らしている。
バラス元男爵の奥さんは在宅出家し彼と離縁、その後嫡男の家で暮しているそうだ。
男爵としても家庭人としても、あの男は最低だったらしい。奥さんが病弱で嫡男を設けるのがやっとだったのを理由にして、あちこちに胤を撒いていたそうだ。そんなだから愛想も尽かされるわな。
何というか、正妻と嫡男が粗末な別館に追いやられ、愛人とその子どもが本来正妻が暮す母屋で生活してたらしい。
なのでお家断絶に苦しんでいるのはバラス元男爵と、彼と一緒に甘い汁を吸っていた愛人とその愛人との間の子どもだけだとか。
一度、向こうから手紙が来た事がある。
父が愛人との間に設けた弟……レグルスくんを引き取って育てている私が、どうして自分達を苦境に追いやるのか、と。
私の答えは至ってシンプル。
そもそも貴方方の苦境は私の責任ではなく、バラス男爵が欲をかいたからだ。恨み言はバラス男爵に言うべきで、私と弟の関係を引き合いに出すのは無礼では?
そう返して、ついでにロマノフ先生がロートリンゲン閣下に「こんなことがありまして、困りますね~」って世間話をしてくれたお蔭で、それからは一度もない。
どうも手紙はロートリンゲン公爵閣下が出家させたお母様の差し金だったようだ。
年経て出来た末の息子のバラス男爵が可愛かったゆえの事らしいけど、それで苦境に立たされるのは貴方のもう一人の御子息ですよって、ロマノフ先生が直々に言いに行って以来静かなものだと公爵閣下からお聞きしている。
あっちこっち、貴族の家も世知辛い。
で、だ。
うちに支払うお金の目途が立たなかったら、最悪バラス男爵領の菊乃井に面する幾許かを譲り渡すっていう処理にしようかと思われてたみたい。
でもバラス元男爵の隠し財産が見つかったらしく、それを処分したことで賭けの清算が出来た。旧男爵領はロートリンゲン公爵領のままで落ち着いたのだ。
土地問題はややこしいからね。
それで落ち着いたところで、じゃあ次は発展させようってことになったわけ。
勿論こちらに否やはない。進めてもらうようルイさんにはお願いしている。
二つ目、帝都の近衛の訓練。
受け入れた第一弾の近衛兵の訓練の様子があがって来た。
初日・二日・三日目までは訓練の途中で大半の者が脱落したそうな。
脱落と言っても帝都に泣いて帰るって感じでなく、途中ちょっと休憩して復帰、また休憩して復帰って感じ。両日最初から最後まで一通りこなせたのは片手ほどの数だったとか。
これでまた自信喪失しちゃったら困るなと思ったんだけど、四日目からは半数の者が一通り訓練を熟せるようになったそうだ。
初日から三日目、それから四日目でなにか変わった事があったんだろうか?
報告書を読むと三日目に、近衛兵達の落ち込み具合を察したシャトレ隊長から救援要請を受けて、ルイさんがロッテンマイヤーさんに頼み込んで料理長を砦に派遣してもらったそうだ。
それで料理長が出張してご飯を振舞ってきたっていうのは、休みの合間にロッテンマイヤーさんやルイさん、料理長本人から聞いたからいい。いいけど、なんか引っ掛かるな?
ともあれ、それからは近衛兵達は砦の兵士達と仲良く訓練をしているそうだ。貴族の子弟がいるんだけど、そういう事を一切鼻にかけることはないとも書かれている。
現場が困っていない、かつ、成果がでているなら、それにこしたことはない。この調子で頑張ってほしいものだ。お国のためは、ひいては菊乃井のためになるんだから。
三つ目、菊乃井歌劇団専用劇場だ。
今あるカフェ劇場ではやっぱり手狭になって来た。
舞台に立つ人数も増えて来たし、何よりお客さんが多くて。
カフェに入りきらなくなって、最近では遠距離映像通信魔術がかけられた布を貸し出して、ライブビューイングをやっているくらいだってさ。
遠距離映像通信魔術に関しては、菊乃井歌劇団の映像やEffet・Papillon製品のプロモーション映像を公開するために積極的に使っていく事にした。
この魔術はこういう華やかな映像や、迫力のある映像を見せる娯楽要素しかないって、人の意識に刷り込むことにしたんだよね。人間固定概念が出来て仕舞うと、それを覆すって中々出来ない。だから危ない方向でなく人が楽しむための物って意識を強めに刷り込むんだ。
印象操作と言わば言え。私はそもそもこれを危ない用途に使うために作ったんじゃないんだ。それを主張して何が悪い。
あとは人命救助方面に使えるように研究していく。これらはもう陛下と宰相閣下にはお伝えしてるので、問題なし。
ただ偶に妃殿下が「歌劇団の映像をみてもよろしいかしら?」って、宰相閣下とヴィクトルさん経由でご連絡くださる事が増えたのが……。
いいんだけど、絶対皇子殿下達が何か喋ったろ?
妃殿下が「ブロマイドを見たい」って仰ってるって聞いた時は白目を剥いたもんだ。
因みに妃殿下の御贔屓は美空さんだそうな。舞台上での激しいダンスでも眼鏡をずらさない身体能力と、普段の黒髪おさげの大人しそうな感じのギャップが良いらしい。
閑話休題。
カフェの周辺を劇団で買い取って、そこに新たな歌劇団専用劇場兼稽古場を建てる。そういう事業計画がエリックさんから提出された。
カフェが使えない間は空飛ぶお城の劇場が彼女達の専用劇場となる。
そしてルイさんからは劇場周辺にお土産屋、レストラン、宿屋の周辺施設建設計画が示された。
「して、その中に『菊乃井歌劇学校』が含まれておると?」
「然様に御座います」
御前にて跪く私とレグルスくんに、姫君の唇が綻んだ。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




