夏休みの終わり、もう一つの釣りの始まり
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、6/9です。
うるかっていうのは、鮎の内臓の塩辛のこと。
そりゃあ、お酒にあうだろうなぁ。前世の「俺」もうるかは食べた事ないけど、塩辛がお酒に合うのは知ってる。
なるほど、なるほど。似たような食文化がある訳だね。
もしかしたら私が異世界文化だと思っているものも、探せばこっちの世界にもあるのかもしれない。
そんな事を考えつつ、私や紡くんも同じ魚を釣って計五匹。これは紡くんの希望もあってお持ち帰りだ。
今日食べる分に関してはお昼ご飯の後で釣ることにして、一度休憩。
お昼はヴィクトルさんが作ってくれた、リュウモドキのベーコンの厚切りステーキ。それから昨日取った野草の残りをスープにしたもの。
肉厚ベーコンが美味しすぎて、それだけで満腹になりそうだった。いいお肉は満腹中枢を刺激するだけでなく、幸福度も爆上げしてくれる。
それで、お腹が一杯になると眠くなる訳だ。
だって私、今日の朝皆より早起きだったし。
変な騒動に巻き込まれた精神疲労もどこかにあったんだろう。しばらくは釣りしてたんだけど、どうにも眠くなってきた。
私のそんな様子を早くから察してたようで、ござる丸とタラちゃんがハンモックを準備してくれて。
木陰にある木の間にタラちゃんが巣を張り、超高速で作った布を敷いてくれたソレ。ござる丸が木の枝を操作して、日差しが眩しくないよう、さりとて陰になり過ぎて身体を冷やさないようにしてくれたから寝心地は抜群。
ハンモックに入るのは高さがあったからロマノフ先生が手伝ってくれた。それで横になったら、すぐに寝ちゃったようだ。
で、どすっとお腹に重いものが乗って、痛みと衝撃に目がかっ開く。
身体をくの字に曲げて痛みをやり過ごそうとして見えたのは、どう見てもレグルスくんの足。
「な、なん、で……ぐふっ!」
耐えきれない痛みに呻きつつ、レグルスくんの足を退けて身体を起こす。するとレグルスくんはすやすやと、私とは逆の方向に頭を向けて寝ていた。
「あー……レグルスくん、中々アクロバティックですね?」
息を整え痛みをやり過ごしていると、ひょいっとロマノフ先生が顔を出した。私達が寝てたハンモックの掛かった木の根っこ辺りに寝そべっていたんだって。
私が寝て暫く、彼らは釣りをしていたけど、どうも眠くなったらしい。
そこでロマノフ先生はレグルスくんを私のハンモックに入れたそうだ。因みに奏くん達は、近くにタラちゃんとござる丸が用意してくれたハンモックで寝ている。
レグルスくんを私のハンモックに入れた時には、私達兄弟は同じ方向を向いていたそうだ。しかし少し時間が経つと、レグルスくんは私に乗りあげたり、跨ったりして体勢を変えて行ったらしい。アクロバットの才能も、レグルスくんは持ち合わせているのか。素晴らしい。元々身体能力は高い方だと思っていたけど!
目を擦っていると、脇に手を入れて抱き上げられる。地面に下ろしてもらうと、同じように目を覚ましたのか、奏くんがしゅたっと自力でハンモックから飛び降りていた。ウギる。
「起きた?」
「うん。よく寝たよ」
「最近ゆっくり昼寝も出来なかったもんな」
「そうだねー」
忙しかったな、たしかに。
だけど去年も忙しかったし、それはそれなりに良い事も沢山あった。今年もそんな感じだ。
もう日が暮れるような時刻だったんだろう。
ヴィクトルさんが夕飯が出来たと、皆を呼ぶ声がした。
私はレグルスくんを起こし、奏くんは紡くんを起こすと、ハンモックからおろす。
夕飯はラーラさんのお手製で、かまどの周りで蒼い鱗の魚がこんがり焼けていた。
魚を焼くって初めてじゃないけど、夕暮れの森の中っていう非日常のシチュエーションの影響か、なんか凄く美味しい。
夕飯を食べ終わる頃にはすっかり日が沈み、空にはきらきら輝く天の川が。
するとロマノフ先生が「いいとこに行きましょうか?」と、にこっと笑う。それから私とレグルスくんの手を取った。ラーラさんは紡くんの手を取り、奏くんの手をヴィクトルさんが取る。
その一瞬後、ふわっと浮遊感があって、それが治まると何処か判らないけれど神殿の廃墟みたいなところに着いた。
廃墟っていうのは、倒れた柱とか崩れた壁とかがあったからなんだけど、夜なのにほの明るく見えるくらい柱が白い。
「ここって……?」
「私が昔遊んでいた神殿ですよ。誰が祀られているか不明です。壊した人も目的も解りません」
「エルフの人達でも、ですか?」
「ええ。ここに関する記録は何も残っていないんです」
「そうなの?」
興味があるのか、話を聞いた紡くんがメモを取る。
遺跡の雰囲気はコリントとかドーリアっていうよりは、マヤとかアステカって感じの石造り。朽ちかけた石の階段が月へと伸びていた。
月から光が石の階段に注ぐ。じっと目を凝らしていると、階段の先にはちょっとした踊り場のような所があり、そこに祭壇のような長四角のテーブルがあった。光がテーブルの上で収束する。
輝くそこに惹かれて、ふらふらと私は階段の方へ。
もっとよく見たくて階段を登ろうとすると、レグルスくんに手を握られた。レグルスくんの手を奏くんが握り、奏くんの手を紡くんが握っている。
その背後でラーラさんが困ったような顔をしつつ、「行っておいで」と言ってくれた。
だから祭壇に近づこうと階段を上っていると、月光が一際強く祭壇へと降り注ぐ。
『ねう』
ちょっと引き攣ったような鳴き声に、ハッとすると祭壇に編みぐるみの猫がいた。しかもなんか輝く蟹に乗ってる。
「あれ? 私が作ったあみぐるみ?」
『ねうん』
返事するような鳴き声。私の後ろからレグルスくんと奏くん、紡くんが顔を出す。
「え? ぬいぐるみ?」
「かわいいなぁ!」
「さわっていい?」
きゃっきゃいしていると、不意に蟹がハサミをチョキチョキと動かす。見れば鋏の先に、何やら手紙がくっついていた。
その手紙を渡したいのかふりふりと鋏を振るので、手を差し出す。するとぽとっと私の手のひらに、蟹が手紙を落とした。
「うーんと? 『会いたいと言っていたので行かせる』って。会いたい?」
呟くと猫の編みぐるみがぴこっと尻尾を立てる。ねうねうと鳴くと蟹を紡くん達の方に押し出して、自分は私の方に頭をすり寄せて来た。
可愛い。自分で作ったから余計可愛い。
撫でながらはわわとなっていると、猫が喋った。
『しゅぎょーちゅーなのー』
「へ? なんの」
『おつかいになるしゅぎょー』
「おつかい?」
『おつかいー。たましいをつれてくるのー』
マジか。ビックリしていると、猫が『つくってくれてーありがとー』と鳴いた。
それから頭をしばらくグリグリすると、ゆっくり私の傍から離れる。レグルスくんや奏くん・紡くんが遊んでいた蟹も、一緒に離れていった。
そして月光の路に猫と蟹が吸い込まれている。
「ちょっと待って!」
『なーにー?』
「蟹、なんで⁉」
『金剛蟹、みてみたいっていってたからー』
振り振りと前脚を振る猫と、鋏を振る蟹を見送る。
彼らが帰ったあと、振り返ると先生達が温く笑っていた。
何だかんだ結局凄く気にかけてもらっている。先生達だけでなく、色んな人達に。
あったかい胸を抱えて、その日は気持ちよく眠れた。
翌日、キャンプは終わって屋敷に戻るとロッテンマイヤーさんやエリーゼ、宇都宮さん達屋敷の人達が迎えてくれて。
「お帰りなさいませ!」
「ただいま!」
口々に迎えの言葉を向けてくれる。
「少しお焼けになりましたね?」
「そうかな?」
「夏の間に少し大きくなられた気がします」
「だったら嬉しいな」
ロッテンマイヤーさんの優しい目に、笑顔を返す。ちょっとでも大きくなってたらいいな。
にこにこと穏やかに言葉を交わしていると、視界の端でオブライエンが私に頭を下げた。
「動きましたか?」
「は。ラシードの長兄の方が、ですが」
「そうですか」
キャンプも釣果が沢山だけど、こっちも釣れたようだ。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




