あっちもこっちもそんな変わらないのかも
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次回の更新は、6/5です。
ぴょんっと寝ぐせもそのままに、レグルスくんが飛びついて来る。
その後ろから奏くんと紡くんも出て来て、大きく伸びをした。
顔を洗って着替えて。
キャンプだけどこの辺は家にいる時と変わらない。
朝ご飯は私が用意したチャパティに、先生達が里で貰って来たおかず……豆のサラダとかモンスター牛のローストや、ミルクスープだ。
「にぃに、なんでおきてたの? れーもおこしてよかったのに」
「お水飲んでもう一回寝ようと思ったんだけどね」
一人で先に起きていた事をレグルスくんに聞かれたので、皆が起きてくる前にあった事を正直に話す。すると奏くんが「はー」と大きく息を吐いた。
「若さま、本当に色んなやつ引っ掛けるな?」
「好きで引っ掛けてる訳じゃないってば」
不本意です。
そういう顔をすると、首を横に振られる。
「騒動の事じゃないって。そのファルークってやつ」
「でも、奏くん達起きなかったじゃん」
「それはそうだけど」
あのファルークさんがガンガン魔術を使ってても、レグルスくんも奏くんも起きてこなかった。という事は先生達の結界が安全だったからっていうのもあるけど、起きなくてもどうという事もない状況だったんだろう。彼は私に殺気は向けなかったし、そもそも「処す」とは言っても殺気立ってるわけでもなかった。ただ彼の「処す」は本気ではあったので、雑草を引き抜くくらいの感慨しかなかったのかも知れないけど。
そんなような事を零せば、奏くんは苦く笑った。
「そら、しゃーなしだ。キリルさんやそのファルークとかいう兄ちゃんを襲った奴らは、単に面白いからそうしたんだろう? それこそ、その辺に止まった鳥に石を投げるような軽い気持ちで。だったら雑草を引き抜くくらいの気持ちで殺されかかっても、自分らがしたのとそう変わらねぇじゃん」
「まあね。武器を向けたら、その相手に同じことをされても仕方ない。自分が相手に敵意を抱くように、相手からも敵意や殺意を抱かれる。そう考えない方がおかしいって私も思うけど」
「だいたい何もしてなくても、嫌われることもあるのにな。何かしたら確定で嫌われるっての」
その通りだ。だからこそなるべく敵愾心を持たれないよう、人は他者に親切だったり礼儀正しくあるように心がけるんだ。
そうしていてさえダメな時はダメなのに、自分から敵意を持たれる行動に走るのは言語道断だよね。
「耳の痛い話ですが、驕りもあるんでしょう」
ロマノフ先生が静かに言う。紅茶のカップを持つ姿は、エルフとはこういう感じっていう美しさがある。何度も言うけど、私は美人とか美形が好きだ。大好きだけど、それでも何でもいいって訳じゃないんだよ!
「おごり?」
小さくレグルスくんが呟く。
それに対してヴィクトルさんが苦い顔で口を開いた。
「僕達は強い種族だからね。万能感が強いんだ。おまけに閉じた世界で生きているから、他者の力量を測る力もないし。輪をかけて自分の力を過信しているから、負けるなんて思ってないんだ」
「そう言えば、ファルークさんはそういう感じじゃなかったですね」
聞いてるエルフのありようと、ファルークさんはちょっと違う感じがした。
ちょっと話し方が偉そう、げふん、古風だったけど、彼はきちんと私と彼とエルフその一、その二、その三の力量を鑑みて、私の方についてくれた。私が弱かったらどうなっていたかは分からないけど、きちんとこちらを尊重してくれたのは、他者とのかかわりを知っていたからだろう。
南アマルナのエルフと帝国付近のエルフは違うのかもしれない。
そう言えばラーラさんが「ふむ」と顎を擦った。
「南アマルナのエルフは魔族との融和を選んだそうだよ。だからこっちのエルフとはかなり違う感じになっているのかもしれないね」
「魔族と融和……。なら社交性はほぼ人間と断絶しているこちらとは雲泥の差かも?」
「そうですね。魔族も南アマルナは選民思想が強いと言いますが……」
「案外違うのかもしれない」と、ロマノフ先生はいう。
先生達も世界を巡るとはいえ、一度行った土地に次に行くのは三十年後とかザラらしいので、当然次行ったら全然違う事もあるそうだ。
そんな話をしつつ、朝ご飯終了。
キャンプ二日目開始。
今日の狙いはお酒にぴったりな魚を釣り上げる事。
昨日は普通の鱒やらモンスター鱒が釣れたから、もう少し上流で釣ってみようという事になった。
なんでもそのお酒にあう魚はモンスター鱒がいるところより、上流にいる事が多いそうだ。なのでそういう事に。でもこれがさー。
ごつごつの山道を登っていくんだけど、これがきっつい。
私だってエルフィンブートキャンプの参加者で、体力がない訳じゃないけど、それでも肩で息するくらいだ。
だけどですよ、ひよこちゃんも奏くんも、なんなら紡くんも平気そう。若干紡くんがペース遅い感じだけど、それでも私の前を歩いてるんだよね。
なんでさ?
先を行く背中を見ていると、私の後ろで安全確認してくれているラーラさんが笑った。
「叔父様のフィールドワークは結構な山道も行くらしいからね。兄弟子や姉弟子が岩場の歩き方とか、そういうところに行くための準備を教えてるんだってさ」
「へぇ……」
「大所帯の子どもって、大体上の子が下の子の面倒を見るんだよね。あそこは自然にそういう文化が出来たらしい。最終は叔父様がきちんと一から教えるんだけど、最近はきちんと上の子たちが教えて置いてくれるから、復習をする感じなんだってさ」
「ははぁ」
そういうコミュニティーが出来るほど、大根先生の教え子は沢山いて世代が別れるってことかな。
ぜーぜーはーはー言いつつ岩場を登りきると、そこには狭いながらも清流っていう感じの川が。綺麗なだけでなく苔むした岩があったり、小さい花が咲いていたりと中々趣がある。
適当に広い場所にヨーゼフから貰った敷物を敷くと、そこにお昼ご飯を詰めて持ってきた
バスケットをおいて釣りをスタート。
ヴィクトルさんはやっぱり釣りは苦手だそうで、敷物の近くでかまどを作ってお昼の準備をしてくれるとか。
ロマノフ先生とラーラさんは私達と一緒に釣りをするそうだ。だけどロマノフ先生と違ってラーラさんは釣り竿を持っていない。レグルスくんと奏くんもそう。
どういうことなの?
そう思いつつ、私はロマノフ先生と紡くんと一緒に釣り糸を垂らす。
ぼんやりと穏やかな時間が流れていた。普段だって特に忙しくない日は穏やかに過ごせている筈なんだけど、やっぱり森や川は近いようで遠いところにあるものだから特別感あるよね。
のんびりしていると、川べりで流れを眺めていたラーラさんが小石を拾う。そしてすくっと立ち上がると、その石を川に向かって投げた。
ひゅっと音を立てて小石が水面すれすれを飛ぶ。飛び石みたいに少しだけ水面に当たって、三回目の着水寸前水面から飛び出した魚に石が命中した。
ぼちゃっと音を立てて魚が川に落ちる。それをラーラさんが棒を使って引き寄せた。
「獲れたよ」
そう言って尻尾を持って見せてくれたけど、蒼い鱗がキラキラしていて凄く綺麗。
前世でいうなら鮎くらいの大きさ。
凄いなと拍手していると、奏くんが小石を拾って立ち上がる。レグルスくんもだ。そして二人がひゅっと石を飛ばすと、ラーラさんが見せてくれた魚が水面を跳ねた後ぼちゃぼちゃと水の中に落ちていく。
ズボンの裾をまくって靴を脱いで、レグルスくんと奏くんがその魚を拾ってきた。
やっぱり鱗の蒼い鮎くらいの大きさ。
ロマノフ先生が嬉々として、その魚を董子さんの籠に入れる。
「これの内臓を塩漬けにすると美味しいんですよね」
うるかかな?
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