お泊りと言えばコレをすべし
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次回の更新は、5/20です。
10巻発売記念SSを20時にお届けします。
何はともあれ犯人は捜す、そして処罰する。
エルフの里がそういう判断をするのであれば、こっちが気を揉むこともない筈だ。
なので、私達はキャンプに戻る事に。
この川にはお酒に合う魚がいるって、先生達は言ってたんだけどどうも私達の釣り上げたなかにはいなかったそうだ。
だから明日はそのお魚を釣ることを目標にして、今日は山で採れたムカゴっぽい実とキノコや食べられる野草を、ヴィクトルさんが捕まえて、血抜きなんかをラーラさんがしてくれた山鳥の中に詰めて焼いたもの、それから昼の魚の骨を炙ったものでとった出汁を使ったスープで夕飯。
ご飯はやっぱりお鍋で炊いたのがとっても美味しい。
夜空には無数の星。灯りは月と焚火のそれだけっていうのが、また最高に雰囲気を盛り上げてくれて凄く贅沢な気分だった。
先生達、普段は料理なんか出来ないって感じなのに、野営の時はやるから実は結構出来るんだって。ロマノフ先生を除いて、だけど。
ロマノフ先生、そういうのは苦手で三人で旅していた時は、お皿洗いと材料の調達がお役目で、料理はヴィクトルさんかラーラさんが担当してたそうだ。
何処かの遺跡に三人で潜った時の話とか、今は有名だけど、その頃まだ誰も踏破したことがなかったダンジョンを三人で踏破した時の話なんかを、その時にした苦労話と一緒に面白可笑しく話してくれて。
三人がいかに助け合って仲良く過ごして来たのか、本当に懐かし気に話してくれるもので、結局夜遅くまで話が尽きなかった。
三人はそのまま晩酌になったけど、私達は途中で眠くなったのでベッドへ。
その前のお風呂はなんと、前世でいう五右衛門風呂っぽかった。
先生達のテントに備えてあったんだけど、薪をくべて沸かす大きなお鍋みたいなの。広くて四人一緒にお湯に浸かれて楽しかった。
ベッドだって先生達が言ったみたいに広くて、私とレグルスくん、奏くんと紡くんの二人一組でも余裕。折角だから先生達が戻ってくるまで、枕投げでもしようって事になった。
投げるのがボールじゃなくて枕だから、力加減はしないといけない。
「かな、くらえー!」
ぼすっとレグルスくんの投げた枕が奏くんに当たる。でも枕なのでそんなに痛くないみたい。受け取った枕を奏くんは「うりゃ!」と気合入れて私に投げた。
「じゃ、紡くんにパス!」
「はい! ひよさま、いくよ!」
「こい! つむ!」
私が受け止めた枕を紡くんが受け止めて、それをレグルスくんに返す。かと思いきや、奏くんの枕が紡くんに飛んで、レグルスくんも両手に持った枕を奏くんと私に投げた。中々戦略家のひよこちゃんですよ。
ボスボスと枕が投げられては受け止められて、またゆっくりだったり早くだったり空を舞う。
きゃっきゃきゃっきゃ笑いながらの楽しい枕投げは、先生達が戻ってくるまで続けられて。
「なんでそんなに息切れするまでやるの?」
「レグルス君と奏君は兎も角、鳳蝶君と紡君はそんなにボール投げとか好きでした?」
「男の子ってこういう遊び好きだねぇ」
私もレグルスくんも奏くんも紡くんも、肩で息するほどの興奮ぶりで、先生達に笑われるくらいだった。
そんな風に遊び倒していたものだから、ベッドに入ると即座にすやぴーって感じだったみたい。
ちゅんちゅん小鳥が鳴いてる声が耳に入って来たから、目をそっと開ける。まだテントのなかは暗い。
ぼんやりしながら身体を起こすと、レグルスくんが豪快にお腹を出して寝ていた。ので、布団をかけてやる。ムニムニとお口を動かしてるけど、よだれがちょっと垂れてて可愛い。
目が覚めてしまった。
だからってレグルスくんまで起こそうとは思わない。また水でも飲んで二度寝しようかとベッドからでると、不思議なことに気が付く。
テントが結界で覆われている。そして先生達の気配がない。
クルクル見回せば、奏くんと紡くんが横向きで寝ているのが見えた。二人とも同じく走っているみたいな寝相で、奏くんが大で紡くんが小って感じ。
先生達がいない以外に、テントに変わった様子はない。それがまた違和感で、私はそっとテントの入口になっているカーテンのようなものを捲って外に出た。
朝もや。
太陽は昇っているけれど、まだ早朝なんだろう。
おかしな気配はしない……と言いたいところだけど、そうでもなかった。
テントの近くの水辺で、ばちゃばちゃと複数人の足音が聞こえたからだ。でもあちらはこちらには気づいてなさそう。
ほぼ目の前で複数人が動いているのに、誰もこのテントに近づこうとしない。川霧で観えていないのか、或いは結界に阻まれこちらが見えていないのか。そのどちらかを見極めようと目を凝らす。
すると川霧の中に人影が見えるようになった。それは四人分で、三人が後ろを気にするように走っていて、後からくるもう一人は悠然と歩いている様子。
前の三人が後ろの一人に追われている?
どういうシチュエーションなのか分かりかねて首を捻っていると、三人組のうち一人が川の流れに足を取られたのか転ぶ。
それを残った二人のうち、一人は見捨てて逃げようとし、もう一人は腕を取って立ち上がらせようとしていた。
けど上手く立ち上がれない間に、後から歩いて来た一人がやって来るのに、転んだ誰かの腕を引いていた誰かも尻もちをつく。まるで怯えて足を縺れさせたかの様子だった。
けれど追いついた一人は、座り込む二人の傍まで来ると、腕を先に逃げた一人に向かって伸ばす。
するとごうっという音と共に赤い塊が現れて、先の逃げた一人に向かって凄いスピードで飛んでいった。
アレは、ちょっとまずいんでは?
事情が分からないけれど、飛んで行ったものは解った。
炎の塊、恐らく初級の攻撃魔術。でも火の玉の大きさは私が一抱えできるスイカの大きさくらい。普通の初期の攻撃魔術で出せる火の玉の大きさはリンゴくらい。威力は段違いだ。
考えるまでもない。
私は指を二回鳴らす。一つ目は自分に向かって放たれた火球の大きさに、腰を抜かし座り込んだ誰かを拘束するための猫の舌の発動。二回目は火の玉を打ち消す氷の壁を出現させるためだ。川べりなんだから水は沢山ある。
じゅわっと氷の壁にぶつかった火球が、それを僅かに溶かして消滅したのを見届けて、私はもう一回指を鳴らした。今度は火球を投げた誰かの足元にいる二人を拘束するための猫の舌だ。
ゆっくりと氷の壁が溶けて生じた水蒸気と共に、川霧が晴れていく。
四人とも私が傍にいた事に、やっぱり気が付いていなかったようだ。驚きに目も口も大きく開いてしまっている。
でも私だって驚いた。
猫の舌に拘束されている三人も、火球を投げた一人も、みんなお耳が尖っている。
違うのは三人が金髪碧眼白い肌だったことに対し、一人が銀髪に色の濃いレグルス君より濃い褐色の肌に赤い瞳だった事だ。年の頃は双方とも十四、五くらいに見える。
何事よ?
喧嘩? 縄張り争い? よく解んねぇなと思っていると、銀髪の方が私を見て憮然とする。
「貴様、邪魔立てするなら容赦せんぞ?」
「え? 邪魔も何も、安眠妨害したのそっちですけど?」
容姿は双方美形も美形、痩身の美しいエルフさん達だ。けど、態度が若干違う。
拘束されてる方はキャンキャンと「放せ!」とか「下賤な人間風情が⁉」とか小者チックに喚いているけど、銀髪の方は私を睨むだけで機嫌は悪そうだけど泰然自若としてる。
つか、三人組の方うるせぇな。
口を塞ぐように触手で巻いてやっても、まだむぐむぐ煩い。でも私の態度が銀髪の人には面白かったのか、口の端が僅かに上がった。
「詳しく聞いても?」
「面白い芸当を見せてくれたからな。その礼はしてやる」
「はいはい。じゃあ、お願いします」
触手で巻いた三人はそのままにしておいて、私は銀髪のエルフさんの話を聞くことにした。
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