釣果にはそれも含まれますか?(含まれません)
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次回の更新は、5/12です。
河原に並べられてビチビチ跳ねてる魚は、全部で二十匹。
一番大きいのは私が釣ったエンペラーちゃんで、その次に大きかったのが奏くんが捕まえたニジマス。奏くんが重そうに抱えるくらい大きい。けど普通のニジマス。
あとは皆同じくらいの大きさだけど、釣果はというか摑み取りで五匹獲ったレグルスくんが一番多く捕まえた。
残りの内訳は私と紡くんが三匹、タラちゃん二匹、奏くんは四匹、ラーラさんは三匹だったけどこれが凄かったそうで。
「きのえだがびゅんってとんだら、かわにさかながうかんでるんだよ……」
「気が付いたら、魚に枝が刺さってるんだ。なんでそんな事出来んの……?」
「え? 魚が跳ねる瞬間を見計らって、枝を飛ばしてるだけだよ?」
レグルスくんと奏くんが信じられないモノを見たと訴える。対してラーラさんは弓と同じとか言うんだよ。そりゃ私も解んないわ。魚が跳ねるのは分かるけど、そのタイミングで枝が刺さるように投げるとかどうなってんの?
因みにロマノフ先生はボウズってヤツ。だけど先生が捕まえた水晶蟹の子どもの珍しさは段違い。
「試合に負けて勝負に勝った感じですね」
「明らかに負けてるって」
肩をすくめるロマノフ先生に、ヴィクトルさんから突っ込みが入る。
水晶蟹はレグルスくんも奏くんもビックリしながら触って、そのあとちゃんと沢にお帰りいただいた。
それでやっぱり私のエンペラーちゃんはお持ち帰り決定。奏くんが抱えるほどのニジマスもお持ち帰りだ。残りのお魚は皆のお昼ご飯になる。
ヴィクトルさんの山鳥は、じっくり焼いて夜ご飯にするそうだ。
家でご飯を食べられるのは料理長達が作ってくれてるからだけど、キャンプではそういうわけにはいかない。キャンプでは全部自分達でやらなきゃだ。
ロマノフ先生と奏くんと紡くんがかまどを作って火を起こしてくれてる間に、私とレグルスくんはヴィクトルさんと河原でお魚の下処理。ラーラさんは山鳥をしめて血抜きをしておいてくれるそうだ。
魚は木の枝に刺して塩を振って焼く分と、捌いてムニエルにする分、それからスープに入れる分に分けた。
塩焼きにする方も、ムニエルにする方も、ヴィクトルさんが丁寧に方法を教えてくれる。魚を捌くのは前世でもやった事があるから、難なく出来た。レグルスくんはぬるっとした感触に四苦八苦してたみたいだけど、初めてにしては随分上手く身と骨を離していた。
タラちゃんはごみ処理とかを手伝ってくれたんだけど、ござる丸はなんと森から食べられる野草を調達してくれたんだよね。凄く助かる。
「れーたん、魚に触れたの初めてなのに中々上手だね」
「うん。にぃにがほうちょうつかうときは、ねこのおててっておしえてくれたからだよ」
「そうだね。猫のお手々だし、包丁を人に向けないとか、ちゃんと知ってたね。あーたんは基本からきっちり教えたんだねぇ」
「私も料理長からそう教わったんです」
そう言えば、ヴィクトルさんはにこにこ頷いて聞いてくれた。
本当を言えば、私に料理技術の基本を教えてくれたのは、前世の母だ。猫の手だって、前世の母が「猫のお手々~」と言ってた。でもそれと同じく料理長も「猫の手って解ります?」とか、一つ一つ確認しながら教えてくれて。
知識では知ってるけど、慣れるまではその使い方が解らず、随分と手間をかけたろうに。私は思えば自分が教わった事を、レグルスくんへと渡しているだけの事だ。そしてレグルスくんは未来、それを誰かに渡してくれるだろう。
ロマノフ先生が楽しいと言っていたのは、きっとそういう事じゃないかな?
ふっと空を見上げれば青空。
何時か今より大きくなった時、青空を見れば今日を思い出すんだろう。いや、今日だけでなく色んな日々を。そしてきっと思い出はこれからも増えて行くんだ。
何て感慨深く思っていると、突然レグルスくんが鋭い声を上げた。
「にぃに!」
「ひぇ!?」
大きな声とともにレグルスくんが弾丸のように飛んできて、私の胴に腕を回して一気に水辺から距離を取る。
その刹那、空から何かが落ちて来て川に水柱が上がった。
ロマノフ先生と似たような魚がいた事からも解るように、この川結構深い。なので上がった水柱も尋常じゃないし、私達に振りかかる水もかなりな量だ。
「何事!?」
ヴィクトルさんは咄嗟に食事用の魚を抱えて短距離転移してくれたみたいで、私達のご飯はとりあえず無事。
レグルスくんと抱き合って驚いていると、暫くして水面に浮いて来るものがあった。ぷかぁっとゆっくりと見えたのが、キラキラと太陽の光を弾く金の髪。 髪⁉
「ちょっ⁉ 髪って人間⁉ 生きてる⁉」
「た、たすけなきゃ⁉」
なかばパニックになってる私達兄弟を他所に、ヴィクトルさんが苦い顔をする。けれど彼は魚を私達に預けると、川の中に歩いて行った。
水難救助って下手すると助ける側も巻き込まれる可能性がある。だからレグルスくんにラーラさんやロマノフ先生を呼びに行ってもらおうとすると、近くにいたラーラさんが走って来た。それで私達の安全を確認すると、ヴィクトルさんの方へ。
水面に派手に叩きつけられていたから、その音を聞いたんだろうロマノフ先生と奏くん・紡くん達が駆けつける頃には、ラーラさんは落下物を背負ってヴィクトルさんと岸についていた。頼もしい。
とさりとラーラさんが背中からおろしたのは、やっぱり金色の髪の……人じゃなかった。耳がとんがっていて、それはロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんと同じ形で。ちょっと違うのは何というか、背丈はそんなに大きくないのに幅が……太ましい。小太り、いや、太ましい。
「エルフにも太ましいひとっているんだ……」
思わず呟くと、ロマノフ先生が「珍しいですね」と、首を傾げた。というか本日三回目くらいじゃない? 先生が珍しいっていうの。
そんな様子に奏くんも首を傾げた。
「そう言えば太ってるエルフって聞かないな? エルフはどんな物語にも痩身美形って出てくるもん」
「そうだよね……」
物語だけでなく実際に美人ぞろいだろうと思う。ロマノフ先生達は勿論、ソーニャさんもだし大根先生だってそうだ。董子さんもハーフエルフって言ってたけど、可愛い感じの美人だし。揃いも揃ってシュッとしてる。
勿論この転がってる人も、ふっくらと愛嬌のある顔立ちだ。
なんでそんな人が、いきなり川に落ちてくるんだろう?
上を見上げても青空が広がるばかりで、何かがいたような感じもない。
「身投げ?」
「え? どうやっていきなり上空から現れるの?」
物騒な事を呟けば、奏くんが首を捻る。やり方はあるんだよなぁ。
それは鬼ごっこでヴィクトルさんがやって見せた事だ。
あれって制空権を取ったからって必ずしも勝てないって、識さんやノエくんに教えるためにやったらしい。
言い分は解る。けど空飛べない筈の人が、いきなり空中に現れたら誰だってびっくりするよね。私だってびっくりしたし。
人は空を飛べないって思い込むこと自体が一つの落とし穴なんだとも言われたけど、私がロマノフ先生の裏をかけたのもそういう事。先生は私が、正確に言えば杖がだけど、転移魔術を使える事を知らなかったから、あそこで私を一瞬見失っちゃったんだもん。
つまり、この人が身投げだとしたら、何処かから空中に転移してどぼんっと川に落ちた訳だ。
そう説明すると、パチパチと拍手があって。
でもレグルスくんも奏くんも紡くんも、ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんの誰もそんな事をしてない。
「いやぁ、ほぼ正解です。でも自分で転移したんじゃなく、飛ばされたんですよ。釣り上げてもらっちゃって、すいませんねぇ」
苦笑いをする太ましいエルフさんに、私達は思い切り眉を寄せた。
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