ゆるゆるキャンプの始まり始まり!
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次回の更新は、5/5です。
そんな訳で、キャンプ地に出発することになったんだけど、今回のお供はタラちゃんとござる丸。
偶には息抜きしたいだろうって言うのと、野営だから虫が出るっていうんでタラちゃんの蜘蛛の巣はとても心強い。ござる丸は最近実験で葉っぱを毟られまくってるから、本当に休養のために連れて来た。
場所はなんと、エルフの里近くの川べり。遡上していけば大きな滝があるんだって。
先生が言ってたように、川では魚も獲れる。めっちゃ美味だそうなので、それをご飯に狙ってる。
でもちょっとした注意があった。
「エルフの里近くなんで、もしかしたらエルフに出会うかも知れません。でも迂闊に近寄らない事。最近、異種族と見れば悪さをしてくる若い子が増えています」
「基本的にエルフは異種族を見下しているからね。もし仕掛けられたら、全力で応戦してもいいよ」
「なんなら半殺しじゃなく、七割殺しくらいならボクが許すよ」
ロマノフ先生からだけじゃなく、ヴィクトルさんやラーラさんまでそういうことを真面目にいうとか、ちょっとどうなの?
おずおずと紡くんが口を開いた。
「あの……そんなににんげんはきらわれてるんですか?」
「エルフは人間がどうじゃなく、エルフ以外を見下してます。他の種族も同様に危害を加える恐れがあります」
「それに情けない話なんだけど、一族の危機察知能力が全体的に低下してきてるんだよね。だから自分が喧嘩売ってもいい相手かどうかの見極めが出来なくて、結果相手にボコボコにされて帰って来るっていうのが増えてるんだよ。ちょっと色々解るなら、モンスターだって襲わない君達に何かするかもしれないからの注意喚起だね」
「でも自然界は弱肉強食なんだ。解んないから喧嘩売ったで通じる相手の方が少ない。それを教えてやる意味で、なんかされたらやり返していい。けど七割くらいで勘弁してやってほしいな」
「あ、はい。承知しました」
先生達の遠くを見る目に、何となく察する。苦労してんのね、先生達も。
奏くんやレグルスくんと顔を見合わせて、生温く頷く。でもそんな危ない場所ではないんだろうな。厄介な気配は感じない。タラちゃんもござる丸も、木の幹に腰かけてうとうとしてるもの。
先生達には「はーい」と元気よくお返事を返す。注意したものの、エルフが里から出てくるって、そんなに無いらしい。出会った時のための注意だからって事だって。
川から少し離れた場所が平原になってて、開けてそこそこ広い。テントはここに張るそうだ。
ロマノフ先生が合図すると、ヴィクトルさんがリュックから何か丸いものを取り出して、地面にそれをぽいっと軽く投げる。
すると空中で何かが大きくなり、地面にばふっと着いた時には円形の大きな布で出来た建物になった。
ラーラさんが先に中に入ると、そこから私達に「おいで」と言ってくれる。なのでドキドキしながらお邪魔すると、中にはベッドが五つ。壁沿いに置かれていて、真ん中は広く開いている。その真ん中の棒がテントを支えているように見えた。床はフェルトなのか、絨毯みたい。
「すっげー!」
「カッコいい!」
キャッキャはしゃぐ奏くんとレグルスくん、私と紡くんはあんぐりと口が開いてしまっている。
「うわぁ、凄いなぁ」
「どういうしくみ……?」
本当に不思議。でも魔術ってこういう事出来ちゃうから、重宝されるんだよね。
私達の様子に、先生が胸を張る。
「これもダンジョンで見つけたんですよ」
「ベッド五つだけど、一つ一つが大きいからあーたんとれーたん、かなたんとつむたんで使っても、全然狭くないからね」
「タラちゃんは天井に張り付けるし、ござる丸はあれで寝たらいいよ」
そう言ってラーラさんが指差したのは、ふかふかのクッションだ。そういや、ござる丸はよく私の部屋のクッションにも埋まってたっけ。
テントからタラちゃんやござる丸を呼び入れれば、二匹とも驚いたみたいで凄くキョロキョロしてた。
そうして暫くテントでくつろいだ後、先生が自前の釣竿をリュックから取り出した。
「お昼ごはんを釣りましょうね」
「はーい!」
釣竿は私と紡くんに渡され、奏くんとレグルスくんはズボンの裾を膝までたくし上げる。魚は川の浅い所にもいて、摑み取りも出来るそうだ。
私達が準備をしていると、ヴィクトルさんが肩を回す。
「僕、魚釣りとか苦手だから鳥でも魔術で落としてくるよ。この辺、たしか美味しい山鳥がいたんだ」
「じゃあ私と鳳蝶君と紡くんは釣りで、ラーラとレグルスくんと奏君は魚のつかみ取りですね」
「どっちのチームが多いか、競争しようか?」
ニコニコしつつも、ラーラさんの唇が挑発的に上がる。カッコいいなぁと思っていると、レグルスくんが「ふんす!」と鼻息荒く拳を握った。
「ロマノフせんせい、れーまけないからね!」
「おや、私もエルフの里では釣りの名手と言われた身です。その挑戦受けて立ちましょう」
おお、これが噂の対ロマノフ先生専用反抗期ひよこちゃんか。
止めなきゃいけないのかもだけど、ロマノフ先生も楽しそうに受け止めてくれてる。あとでお礼を言っておこう。
不意に紡くんが私の服の裾を引っ張った。
「わかさま、だいこんせんせいのおみやげにつったおさかなもってかえっていいですか?」
「いいんじゃないかな。食べる分より多く釣ったら、保存してもってかえろうよ」
「つむ、すみれこさんからいいものかりました!」
じゃーんって感じでお出しされたのは、紡くんが抱えるほどの大きさの箱。何処にしまってたのかと思ったら、董子さんがマジックバッグも貸し出ししてくれたとか。
この箱自体にも時間停止の魔術が掛かっているから、釣った魚を長時間入れても釣り立てほやほやの鮮度抜群に保ってくれるものらしい。
これは良いものが釣れたら料理長にも渡せるんでは?
紡くんと目線を合わせると意思疎通が図れたので、なるべく沢山釣ろう。そこに奏くんも「おれも頑張るよ」と加わった。
ワイワイしながらテントから出ると、早速三組に分かれる。
ヴィクトルさんは「すぐ戻るよ」と言いつつ、川とは正反対の森の方に出かけて行った。
私達は川の少し上の方で糸を垂らすことにして、ラーラさんはレグルスくんと奏くんを引き連れて下流へ。
餌はござる丸が捕まえてくれたミミズやら、小さい芋虫だ。釣り針の先に餌を付けるのもござる丸がやってくれる。
タラちゃんも私達を真似て、自分の糸を川の中へと垂らした。
そしてしばらく、先をツンツンつつく感触があって、竿がぐっとしなる。
えー、いきなり⁉
引き上げようと勢いよく竿を引くと、ぽーんっと勢いよく水面からザリガニが飛び出した。どうも芋虫をハサミで掴んだのを釣り上げたみたい。
ロマノフ先生が「おや?」という顔をした。
「そのエビ、餌に向いてるんですよ」
「餌?」
「はい。針の先に付けて川に垂らしてみるといいですよ」
「そうなんですね。やってみます」
早速ザリガニっぽいのをござる丸が受け取って、器用に針を付けてくれる。そうして再び水に垂らした所、早速コツコツと糸の先が突かれた。
早いな、なんて思っていると、さっきよりもグッと竿がしなう。
「え⁉ ちょっと⁉ 重いんですけど⁉」
「ゴザー⁉」
「わ、わかさまー⁉」
「鳳蝶君⁉」
竿が力一杯引かれて身体が左右に振れる。ござる丸やタラちゃんが私の身体を支えてくれるけど、足りなくて紡くんやロマノフ先生も、私と一緒に竿を引っ張ってくれた。それでもまだ左右に揺れてしまうし、重いもんだから腕が段々と痛くなってくる。
「こ、のぉっ!」
力比べはどうも私の方が分が悪いみたい。だから「先生!」と声を上げると、ロマノフ先生も「いいですよ」と返してくれた。許可が出たので小さい雷を、水の中に落とす。
結構な音とともにぷかっと魚が浮かび上がって来て。
「でか……」
どうみてもロマノフ先生が両手を広げたくらいの大きさの魚なんですが……⁉
お読みいただいてありがとうございました。
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