大団円にはまだ遠く
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次回の更新は、4/28です。
冥府の門はそれ自体神聖魔術でありながら、召喚陣の役目も果たす。
門から伸びる腕では片付かないと判断したその時、冥府の神龍を召喚する扉になるのだ。
今回は扉を開くだけで済んだけど、扉を開くこと自体が異常事態ではある。だってアンデッドって大概燃やしたら消滅するんだもん。
識さんの使っていた炎の双頭蛇は結構な火力で、攻撃魔術の上位だ。平気な顔してそれを操っていた識さんも凄いけど、その炎に全身を舐められても消滅しなかったんだからアンデッドとしての強さは相当。
私達が異常なんだよな。解りたくないけど解る。
そんな訳で、戦闘終了。ついでに冥府の門が瘴気も晴らして行ってくれたから、遺跡全体の浄化も完了だ。
唖然茫然のウイラさんも、ラトナラジュの鼻先で突かれて戻って来る。
「お前、実は聖人かなんかだったのか?」
「いいえ。通りすがりの……姫神様の加護持ちです」
「武神のご加護もだろ? なんでお前のステータス見えねぇのかと思ったら、滅茶苦茶上のお方の加護持ちじゃん。あとでご報告に行かねぇと」
「神様も縦社会なんですね」
「まあな。俺らは神って言っても力の度合いで言えば、大精霊くらいなもんだし」
にかっとウイラさんは笑う。
彼らは知られずともこの辺りの平和を願う優しい神様なのだ。是非とも信仰を集めて、お力を高めてほしいな。
私の頭を撫でるウイラさんは、その後何度も「ありがとう」とお礼を言ってくれた。私だけでなく、この戦闘に加わった皆にも。
この地に来るときはいつでも呼んでくれ。
彼らはそう言って遺跡の外まで私達を見送ってくれた。
これから先、封じ込められていた者がいなくなったお蔭で、この天地の礎石はその作られた役割を漸く果たし始めるだろう。
この地の瘴気を集め心柱で浄化して、周辺の地域に浄められた気を送り始めるのだ。その気がやがて荒ぶる魔物を鎮静化させ、双方ともに静かに争う事もなく、皆がこの地で共存できるように。
それをウイラさんとラトナラジュという、優しい神様が見守ってくれる。素敵じゃん。
今日の日の冒険はこれでお終い。
差し入れのおやつを抱えて帰ると、ロッテンマイヤーさんが「良いことをなさいましたね」と労ってくれた。
そしてそのままお茶の時間にすることに。
その席に、使いを出してブラダマンテさんに来てもらうことにしたんだよね。
待ってる間に着替えたんだけど、やっぱり部屋着の方が落ち着く。
皆もお寛ぎモードで応接室で待っていると、エリーゼに伴われてブラダマンテさんが姿を見せた。
挨拶を交わしてお茶を始めたんだけど、私は彼女に遺跡の話をすることに。
今回の冒険の話を聞き終わったブラダマンテさんは、口に手を当てて「まあ」と驚いた。
「あの遺跡にそんな事が……。いえ、民話のようなものは聞いた事があるのですが、まさかその陰に、そんな神さまがいらしたとは夢にも思わず」
「そうなんですね。もし見てみたいと仰るならメモはありますし、仕掛けは解いてしまいましたが、壁画は見ようと思えば見られる状態ですし、楼蘭から調査隊を出してくださればいいかと」
「然様ですね。あそこの遺跡は私も修行場として使っていた事が僅かながらあります。そのご恩返しを致しましょう」
「まだ地下二階の力試しの仕掛けはそのままなので、修行場としては使えると思います」
「解りました。明日にでも楼蘭に出向き、必ずや教皇猊下にお伝えいたします。そしてそのウイラ様とラトナラジュ様の聖名を広く知らしめられるよう尽力いたしますね」
にこにことブラダマンテさんは請け負ってくれた。皆迄言わずとも話が通じるって助かる。
そんな私とブラダマンテさんのやり取りを見て、識さんが「はい!」と手を上げた。
「明日なら、私が転移魔術で楼蘭にお連れできます!」
「そうなの、識さん?」
「はい。明日はノエ君とお勉強することにしてたんですけど、どうせならノエ君に楼蘭教皇国を見せてあげたくて」
「今地理の勉強中なんです、オレ」
和気あいあいと話が進む。
ブラダマンテさんと識さんとノエくんは、町で偶然知り合ったのだとか。
ひったくりが出たのを識さんが転ばせて、ブラダマンテさんがバランスを崩した所を投げ飛ばして、ノエくんがふん縛って、犯人を役所に突き出したらしい、ナイス連携。
この際だから許可を得てノエくんと識さんの破壊神退治の話をしたら、ブラダマンテさんの目が光った。
「なんということでしょう……! 私は艶陽様の忠実な戦う巫女、そのような邪悪は見過ごせません。是非ともお力添え致しとう存じます!」
「まあ、それは追々。今すぐ討伐に行くって訳じゃないので、きちんと準備しないといけないですし」
今回は突発で戦いに行ったけど、アレだってその突発で勝てない相手じゃないからだ。先生達なんて観戦モードだったんだから。
そういう訳で、ブラダマンテさんは明日にでも動いてくれることに。
あと私が出来る、ウイラさんとラトナラジュの知名度アップの作戦は一つ。
「あの、台本書いてくれる人って、ヴィクトルさんのお知り合いにいますか?」
「台本ってお芝居の?」
「はい。菊乃井歌劇団であのお二人の事をオリジナル演目として公演するんです」
「おお、考えたねぇ」
優しい青年と美しい鹿の友情と、魔物との戦い。そこに少しのロマンスがあれば、これは立派なミュージカルの演目になりそうだ。
そんな提案にラーラさんが首を捻る。
「ロマンスってあったかい?」
「えっと、そこは創作で」
「鹿と鹿の?」
「いや、ウイラさんと人間の……二人が犯人じゃないって証言してくれたお友達が女性で、淡い初恋相手の姿に思うところがあって、ウイラさんが立ち上がったんですよ。そして友を思う鹿がともに戦士として戦ってくれて……とか!」
語っててちょっと萌えて来た。我ながら、良い線いってるんじゃないかな?
そう言うような事を言えば、ロマノフ先生が生温かい視線を向けてくる。
「ノリノリじゃないですか。いっそ君が書いては?」
「先生、想像するのと書くのとじゃ必要な才能が違うんです……! 私には妄そ、じゃない、空想する才能はあっても、それを書く方の才能はないですよ」
「案外やってみると上手く行くかも知れませんよ?」
ニコニコ笑ってるけど、アレは面白がってるだけだ。先生、私の詩歌の才能があんまりなの知ってるもん。
ぐぬぐぬしていると、はっと思い出すものがあった。
「『蝶を讃える詩』の作者って何方なんでしょうか……?」
あの詩集をもらってから暫くした頃、あの作者さんは詩もやるけど物語を書くようになったと、いつだったかロッテンマイヤーさんが言っていた。
私が祖母の書斎にあるのは実用書が殆どで、たまにはお伽噺とかも読みたいって嘆いたら、執務の合間にどうぞって持って来てくれたんだよね。
あの時持って来てくれたのはロッテンマイヤーさんの私物だったので、読み終わってすぐに返した。あれは前世で言えばシンデレラのような話だった筈。
急いでロッテンマイヤーさんを呼んでその話をすると、彼女は少し考え込んだ。
「物語はお書きになっていらっしゃいますし、旦那様がお耳にした伝説を下敷きに物語を新たにお書きになるのは出来ましょう。けれどそれを芝居の台本にするのはどうでしょうか……?」
「そうかなぁ?」
難しいだろうか。
私とロッテンマイヤーさんの間で沈黙が落ちる。
すると木の実のクッキーをいい音で齧っていた識さんが手を上げた。
「昔っから薬の調合は薬師に任せろって言うじゃないですか。そういうのは菊乃井歌劇団のダンスとか教えてる先生に訊いてみたらいいんじゃないです?」
「それだ!」
ポンと手を打つと、私は識さんに惜しみない拍手を送った。
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