遺跡ミステリー解決ちょっと前
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次回の更新は、4/10です。
ぽちの遠吠えのお蔭で地下三階の空気はすっかり綺麗になった。
空気が綺麗ってことはアンデッドはほぼ動けなくなったってことなのか、全然出てこない。
ぽてぽてと歩いていると、上二階と似た造りの壁が見えた。
ウイラさんによれば、この階は地下一階の壁画の補足をするようなものが隠されてるとか。
早速心柱を囲う壁の方に寄ってみると、渦巻の意匠の下からぼんやりと浮かび上がるものがあった。
それは地下一階の沼の主が沼に浸かっているのと同じ絵で、違うのはその横に文字が添えてあるって事。
だけどこの文字、今使ってる文字と違う。何が違うって言えば、鏡文字に近い。
むーん、なんじゃこりゃ?
じっと文字を見ていると紡くんがポケットをごそごそして、小さな本を取り出す。それを開くと、本は瞬く間に辞書くらいの大きさになった。
「だいこんせんせいが、こおーこくのいせきにいくっていったらかしてくれました! 」
表紙を見ると「古王国語辞典」とある。
「おお! つむ、じゅんびがいい!」
「はい!」
レグルスくんの称賛に紡くんがにこにこする。はー可愛い。何してても可愛い。息してるだけで可愛い。
和んでいると、紡くんがその本を奏くんに渡す。
中を開けた奏くんは「ああ……」と小さく呟いた。何かと思って辞書を覗き込むと、文字を解りやすく解説するのに図案化してあるのが見える。これってもしや、子供向け……?
エルフ先生方に見てもらうと「あ、懐かしい!」とヴィクトルさんが笑った。
「これ、僕達も見た事あるよ」
「そうですね、エルフの里の古い人達が古王国時代の文字を使ってたりするもんだから」
ロマノフ先生も懐かしそうに見てるけど、今なんて? エルフの古い人達も古王国文字使ってたって言ったよね?
「先生方、この壁の文字読めるんでは?」
じとっと視線を向けるとラーラさんがからっと笑った。
「バレたか」
しれっと言うもんだから、「そうですか」と返すより他なく。
それも勉強になるから、最初は協力して読み解いてみなさいって言い渡された。
なので文字一つ一つをメモして、対応する文字を辞書から探していく。それをつなげて文章として意味が解るように組み上げて……の、地味な作業を繰り返す。
それで最初の壁画の文字は「沼の主はラトナラジュという神鹿であった。蓮と同じく、泥の沼にあっても輝かんばかりに美しい」という文章だった。
沼の主はラトナラジュといって鹿だったというんだから、ウイラさんの言葉通りだ。
まだ文章は続く。
それはその時代の王が自身の信仰心を世界に示すべく、この沼に神殿を建てたいと願ったという文言で、同じ天に向かって手を伸ばしたって言っても、真実は「ようやった」と褒めてもらいたかったかららしい。うーん、ノーコメント。
託宣で選ばれたこの地に、美しい神の覚えめでたい鹿がいると聞いて、王様は丁重にその鹿の王・ラトナラジュに事情を話したと碑文は続く。
ここまでを訳すのに、むっちゃ時間かかった。この子ども用辞書に載ってない程の古語とかも使われてるもんだから!
で、次の壁画。
沼から主が出かかってる場面。これは交渉時の様子を表していると、添えられた文字にはあった。
鹿の王は単にその沼が寝床って訳じゃなく、この辺りで瘴気の濃い場所が沼だったから、それを抑えるためにいたのだとか。
理由は単純に近くの村の孤児が自身の親友だから。彼が暮す村の平穏を密かに守ってやりたかったんだって。
自分が沼を出たらこの辺りの守りが薄くなってしまう。出るのは構わないし、自分はこの際親友と世界を見てまわる旅に出ようと思うから、後の事を考えなくてもいいのかも知れない。
が、帰って来て親友の住んでたところがなくなるのはちょっと……。
そういう事で、交渉に時間がかかったそうだ。
勿論壁画にはもっと難しい言葉で書いてあったけど、意訳。
その次の場面では沼から完全に出た主の姿が変わってたのは、結局問題の解決策を見出すまでにそれだけの時間がかかったからだった。
解決策って言うのが、この沼の瘴気を抑えるために神殿に太い心柱を建築すること。その太い心柱に瘴気を集める魔術と、集めた瘴気を浄化する魔術をかけて、浄められた空気を心柱の最先端から近隣に放出してさらに空気を浄めようというものだった。これが成功したら、近隣が清浄な空気に包まれ、強い魔物は出なくなる。そうしたらこの地域に住まう民も、旅人も安全が確保されるだろうって計算だったのだ。
そんな完璧な策がなるならば、自分がこの沼を離れても良かろう。そう決断したのが角の生える春だった。交渉を始めた秋口から交渉締結が春だから、半年余りか一年半あまりかもっとか……。
そりゃそんな大掛かりな事考えたら時間もかかるわな。
ウイラさんの言った通り、時間がかかった理由は解った。
それでその次。
心柱の方とは反対側の壁に、やっぱり絵と文字が浮き上がった。
この解読は先生方も手伝ってくれて。
王様は村人に孤児を沼に連れて行くよう依頼したそうだ。それも丁重に「旅立つ準備をさせて」と。
村人が孤児に暴行を加えたのは、この「旅立つ準備」を「死出の旅の準備」と曲解したからだ。
そして目を潰し、腕を折り、足の腱を切った状態で、沼へと放り込んだと書かれている。
これに驚いたのが沼の主・ラトナラジュだ。
旅立つ用意をしてやって来る筈の親友が、大怪我を負わされて沼に沈められたんだから。
怒り狂ったラトナラジュは、村に対して復讐を考えた。しかしそんな事より、ラトナラジュには親友の命を救うという大事があった。
幸いにして近くに英雄から神様になった存在がいる。その方にお縋りしたそうだ。
結果はウイラさんから聞いた通り。治せる部分はきっちり治してもらったと、壁画にもある。これは大きな人形と横たわってる人形に沼の主が祈ってる場面の添え書きだけど。
その後の小さな人形と四つ足の沼の主が大きな人形に祈りを捧げてるのは、感謝の祈りと旅立ちの挨拶だと書いてあった。
孤児に暴行した村人たちへの復讐をラトナラジュは訴えたんだけど、孤児の方が「あんなヤベー連中に関わるより、旅に出て面白おかしくお前と暮らしたい」って説得したそうな。それでその土地神様も「そうするがよかろう」って、餞別に凄くいい革の鎧や槍なんかをくださったとある。
そして一人と一頭は世界を巡る旅に出ました、めでたしめでたし。
となるって思うじゃん? 続きがあったんだよ。
それは地下四階に続く階段の横に、ヴィクトルさんが見つけた隠されたセーフゾーンの中の壁に描かれていた。
入口除いた壁三面と天井一面。
入ってすぐ右に、ラトナラジュが瀕死の孤児を連れて神様の元に走っている間に、沼に新たな存在が入り込んだことを示す絵だった。
ラトナラジュの最初のように半円に目口に当たる丸を描いて顔に見立てる奴じゃなく、二足歩行で腕が四つと言う異形の者で。
次の中央に当たる壁画にはその異形の者が、人形を四つの腕に一つずつ握り、足でも人形を踏みつけにしている絵だった。中には胴体と下半身が別れて描写された人形もある。
これが意味するのは、何処かの誰か達がこの異形に襲われたという事。
入口から向かって左の壁は、ラトナラジュと槍を持った人形が、四本腕の怪物と戦っているところのようだった。構えた槍を異形に向かって突き出しているし、ラトナラジュが角を異形に向けている。一度孤児のために落とした角が再生した後に、彼らはこちらに戻って来たのか。
そして最後の天井。
斃れた異形の胸には、槍が深々と突き刺さり、その四方を囲むように人形が四つ。祈りを捧げるポーズを取っていた。
「ここに描かれてるのが、真相……?」
部屋の中央に立つと、私は天を仰いだ。するといきなり床が金色に輝き始める。
なんなのさー⁉
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