本腰遺跡RTAの前に
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いや、まあ、解ってたけどね。
ここより下は戦闘があるって事だ。それはもういいんだけど、トドメって事は何か結構な個体がいそうな気がする。
「なんかいるんですか?」
素直に聞けば「いるよ」と、凄く爽やかな笑顔が返って来た。
いるのか……。
肩を落とすと背中をバンバン叩かれる。痛いってば。そのカラカラした笑いが収まると、ウイラさんは前方を指差した。レグルスくんが手を振ってるのが見える。
「呼んでるぜ」
「そうですね」
話が長くなってしまったようで、急いで皆と合流する。
「なんか解った?」
「うん。この階は何もないみたい。本命はここから下にあるみたいだよ」
話しかけて来た奏くんにそう返す。
それから歩きつつウイラさんから聞いたこのフロアの役割と、壁画の意味を話すと皆複雑そうな顔をした。
「村に伝達に行ったヤツ、どういう伝え方したんだよ」
「本当にね。その孤児が親友だって解ったら、そんな事しなかったろうに」
奏くんの憤りに、ラーラさんが頷く。
でもさ、根本的な事を言えば、生贄だろうと何だろうと暴力を振るっちゃいけないんだ。何をどうしてもそれは村人の完全なる落ち度で、弁解の余地もない。
フロアを巡って地下への階段を探す。
石造りの頑丈そうな階段から下を覗けば、ちょっと空気が淀んでいる気がした。
でも仕方ない。
一応確認のためにここから下には強い魔物がいる事を告げれば、先生達は「何を今更」って感じでニコニコしてるし、レグルスくんと奏くんは「どっちが先に行く?」なんて話し合ってる。
唯一紡くんは静かだけど、どうしたのか尋ねると。
「ミイラ、もってかえっちゃだめですか?」
「は?」
「どうやってつくってるか、つむしりたいです」
おうふ。
めっちゃ真剣なお顔だからこそ、余計に戸惑う。
どう返事したら良いか迷ってたら、奏くんが紡くんの頭を撫でた。
「紡、モンスターのミイラは王様のミイラと造りが違うって、もっちゃん爺ちゃん言ってたぞ?」
「そうなの⁉」
「おう。人の手で作られたやつはそういう薬品使ってたりするけど、自然のは脂肪が蝋燭みたいになってたり、生前食べた物の影響があるってさ。ここのは自然に出来るけど、魔術で作ってるからあんまり参考になんねぇんじゃねぇの?」
「あー……」
「魔術って大抵の事は出来っからな」
尊敬するお兄ちゃんにそう言われて、紡くんはちょっと考えてから「もってかえらなくていいです」って。
諦めてくれてよかった。ミイラの一部を何処に入れるか問題が発生するとこだったよ。レグルスくんの首から下げられたピヨちゃんから、凄く嫌そうな雰囲気が漂って来てたもん。
ピヨちゃんが嫌だと私かロマノフ先生のマジックバッグだろうけど、ロマノフ先生のマジックバッグは腐海と化してるらしいから、必然私って事になる。それは私が嫌だ。だって死体の一部じゃん。
そんなこんなしつつ、ロマノフ先生を先頭に地下へ。
二番目に奏くんとレグルスくん、ヴィクトルさんで、その後ろが私と紡くん。最後尾がラーラさん。
灯りは魔術で点してあるから、足元に不安はない。
かつこつと足音が響くし、それとは違う何かの低い呻き声が聞こえる。不気味な空気に混じって、微かに感じる黴臭さと重苦しさにため息が出て来た。
いるよー、めっちゃいるよー。
地下一階に踏み込んだ時にも似た、けれどそれよりも重い空気に僅かに眉をしかめる。そんな私に気が付いたレグルスくんが「だいじょうぶ?」と声をかけてくれた。
「大丈夫だけど……。地下に着いたら弦打の儀をやるべきかな?」
「空気が軽くなるからやった方が良いんじゃないか?」
「そうだねぇ」
ただ地下三階のアンデッドは手強いらしいから、それで全部消滅はしてくれないだろう。なにせ弦打の儀って言うのは、間に合わせの浄化手段で永続的な物じゃない。もう少し本格的に道具や術者を揃え場を作って行えば、一年くらいは余裕で持つらしいけど。
それでも弱体化はするだろうから、後は皆に任せて良いだろう。だって私、今日はプシュケ持って来てないんだもん。
とんと階段の一番下の段から、床に足がついた。
黴臭さが一段と強くなったので、奏くんから弓を借りて弦打の儀を早速やってしまう。
呻き声とも悲鳴ともつかない叫びが至る所で上がるけど、黴臭さは薄らいだだけで消えはしなかった。
すとんっと、寝ているとばかり思っていたぽちが私の肩から降りる。そして獅子と呼ぶに相応しい大きさに変わると、途端に魔力の煌めきがぽちを覆って、真っ黒な筈の体毛が金色の燐光を帯びた。
そして猛々しき大きな咆哮を上げると、瞬時に空気が浄められる。
「えー……ぽちそんなことできたの?」
「なう」
褒めて~と言う感じで、私の手に自身の顔を擦り付けた。鳴き声は完全に猫だし、何なら喉がゴロゴロとなっている。
「出来たんなら最初からやってくれる?」
地下一階に来た時なんか、肩で寝たままだった。おまけに今だって寝てたよな?
そういう視線で見下ろせば、機嫌を取ろうというのか益々ゴロゴロ音が大きくなった。まあ、猫だもんな。猫は夜行性で日中は寝てるし、一日十八時間くらい寝るんだったか。
いいや。出来る事を気を利かせてやったんだろうし。
喉元を撫でてやれば喜んで身体を擦り付けて来た。何はともあれ大きくなったって事は、戦闘に参加する気があるんだろう。
そう判断して私はぽちを先頭に行かせた。ぽちもその辺は心得ているようで、ロマノフ先生の横を通り過ぎて前に出た。ただロマノフ先生の横を通り過ぎる時、「恐縮です! 恐れ入ります!」って感じで通ったのが気になるけどな。
ロマノフ先生、間違いなく強者of強者なんだよね。解る。
去年の今頃は漠然と強いんだろうな、くらいだったのが、最近はヒシヒシ伝わってくるんだよ。これが成長ってやつなんだろうけど、お蔭で菊乃井のダンジョンが全く怖くない。
それだけじゃない。ほとんどのダンジョンが怖くない。これ、あんまり良くないんだろうな。油断してるのと同じだもん。
ジト目でロマノフ先生の一挙手一投足を見ていると、不意に先生が私を振り返った。
「随分熱い視線ですね」
「熱いっていうか……。この間の鬼ごっこからこっち、菊乃井ダンジョンがあんまり危なく思えなくて」
「ああ。菊乃井ダンジョンより、強さで言うなら私やヴィーチャやラーラの方が脅威だからですね」
「脅威っていう言い方はしたくないんですけど、何処のダンジョンもあの鬼ごっこよりましだなって」
「ああ、そういう……」
納得したように、ロマノフ先生が顎を擦る。
「そりゃ仕方ないよ。僕達もわりと本気になった部分はあるし」
「そうだね。ボクらも久々に力を出せて楽しかったよ」
ヴィクトルさんがお茶目に笑い、ラーラさんがカッコよく流し目を送って来る。
そういう強い力を持っていても溺れずに御することが出来るから、世界は平和なんだろうな。
もしかしたらラトナラジュという沼の主も、そういう生き物だったのかも知れない。そして人間の我儘に付き合う代わりに、友達との旅を要求したのかな?
ウイラさんから聞いた沼の主の話をすれば、ヴィクトルさんが腕を組む。
「あー……鹿の神獣自体は聞いた事ある、かな?」
「ここじゃないけど、九色の毛色の鹿がいるって聞いた事があるよね」
「私が聞いたのは金色の毛だったかな? たしか人間の相棒がいたとか、花嫁を連れていたとか……。ただ大陸が違うんですよね」
ラーラさんもロマノフ先生も鹿の神獣自体には聞き覚えがあるみたい。だけどこの地域の伝説っぽくないそうなので、別個体なんだろう。
世の中には似てるだけの赤の他人が三人いるらしいって聞くから、そういう事なのかな?
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