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Q.E.Dはもっと先

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、4/3です。


 ウイラさんに関しては凄く疑問が一杯。なんで今まで気にしなかったのか、気がつけば凄く不思議だ。

 例えばこの遺跡の事だけど、めっちゃ知ってるし。

 神聖魔術の使い手と普通の人間とじゃ見えるものが違うなんて、リアクションからして先生達も知らなかったっぽいのに、この人はそれを知っていた。そしてこの階がどういう目的で作られ、次の階がどういう階なのかも知っている。

 それってここを一度踏破したかなんかじゃないと、解んないことじゃないの?

 それに引っ掛かることはまだある。それが最大の謎なんだけど……。

 いや、最初に聞きたいのはやっぱりこの遺跡の事だ。


「ここって結局何なんです?」

「うーん、教えてもいいけど……謎解きは好きな方じゃないのか?」

「好きですよ。好きだけど……じゃあ、質問を変えます。地下一階の壁画の表すものって?」


 皆と考えていた推論、即ちアレは沼の主が生贄に求めた孤児に、村人が暴力を振るったという話を彼にぶつける。

 すると彼がほろ苦く笑った。


「おう、当たり。沼の主が沼から出ようとした時期と、完全に出た時期が違うのは説明した通りだ。交渉に時間がかかったって解釈であってるよ」

「なるほど」

「因みに時間がかかった理由はこの下の階で解るぜ?」

「そうですか。じゃあそれは保留で」


 先に進むならそれは今知らなくていい。

 次に気になるのはやっぱり孤児の事だ。

 生贄に何故暴力は振るわれたのだろう? 沼の主は生贄の孤児を何処かに連れて行って、誰かに会っていた。そしてその後の絵では、生贄と沼の主が何かに祈りを捧げてていて。

 これが表すものは、沼の主は孤児を誰かに診せたって事なんだろうけど。

 尋ねるとウイラさんはぽりっと頬を掻いた。


「何処かの村の言い伝え通り、沼の主と孤児は親友だったのさ。沼から主が出ていくにあたって、旅に出ようと考えた。その時に主は孤児を誘いたいって言ったんだよ。それが生贄って風に村人には誤解された。何せ字を読めるのは長老だけっていう貧しい村だ」

「それでなんで暴力に繋がるんですか?」

「生贄を逃がさないためさ。弱らせておけば逃げないだろう? どうせ食べるんだから、ちょっと弱らせてても問題ないって思ったんだろうな」

「村人は孤児と沼の主の繋がりを知らなかったんですか?」

「ああ。貧しい村だっていったろ? 自分の家族を食わせていくのだけでも精一杯で、いるだけの子どもに関心なんかあるかよ。無関心だけど、死なれるのは寝覚めが悪いし、いずれ村の働き手の一人になるんだからって、飯だけは食わせてたけどな。沼の主のご指定っていうのは、死んでも悲しむ奴がいないからって御慈悲だろうと解釈した訳だ」


 人間と動物に違いがない、寧ろ自分達の都合のいい善性を発揮すると獣以下って言うのが、こういう時に身に染みる。

 眉を顰めて真一文字に口を引き結んだ私が、ウイラさんの目に映っていた。ぽんぽんと私の頭に触れて、ウイラさんは話を続ける。

 村人達は孤児の片目を潰し、片方の腕を折り、足の腱を切った。全部逃げられないようにするために。

 そんな親友が沼に運ばれてきて、驚いたのは沼の主だった。

 彼は勿論怒り狂ったという。

 けれど怒りに任せて村を滅ぼすよりも、優先しないといけない事があった。


「偶々沼の近くに神様が降りられてたそうでな。沼の主は孤児を御前に連れて行って、事情を話して孤児の怪我を治してもらったんだ。それがあの大きな人形(ひとがた)の前に横たわる小さな人形と、祈る四つ足の絵だよ」

「じゃあ、その後の大きな人形とそれに祈る小さな人形と四つ足の主は、治してもらった感謝の祈りですか?」

「そういうこと」


 つまり、村を滅ぼした犯人は沼の主ではないってこと……と、確定するにはまだ早いな。孤児を治した後に復讐することは可能なんだ。

 その件もウイラさんは「保留な」と告げる。下の階に答えがあるんだろう。

 それなら次の質問だ。

 これは至ってシンプル。


「沼の主って何なんですか?」

「何って言われてもなぁ。名前は解るぜ? といっても、主の個体名で種族名じゃないけど」

「個体名はなんと?」

「ラトナラジュ。旧い言葉で宝石の王って意味だ。この沼の主であるとともに、この辺に住む鹿の王だった。」


 まるでそこに沼の主がいるように、うっとりと甘い目でウイラさんは語る。

 沼の主のヘラジカのような角は、まさしく鹿の角だった訳だ。宝石の王と言われるくらいなんだから、それはもう輝かんばかりの存在だったんだろう。


「綺麗なだけでもなかったんでしょう?」

「勿論。鹿の王、沼の主って崇められるくらいだからな。身体もデカかったし、魔術も使えた。ただそんな鹿は他にいなかったし、厳密に鹿かと言われたら解らん。人の言葉も解ったし、使えてたしな」

「それは単なる鹿じゃないのでは?」

「だけど鼻の下を伸ばすのは綺麗な雌鹿にだぜ?」

「じゃあ鹿かな?」

「神聖魔術使えたけど」

「それやっぱり普通の鹿じゃないやつ!」


 叫ぶと、ウイラさんがケタケタ笑う。

 笑ってるけど、普通の魔物は神聖魔術使えないんだぜ?

 神聖魔術使えるって、ある程度神様の覚えがめでたいって事なんだから。

 私が神聖魔術を使えるのは、偏に神様からいただいたご縁のお蔭だけど、普通は神様が一目置く存在にならなきゃ使えないんだ。厳しい修行に励んだり、神様の喜ぶような事をしたり、後は楼蘭みたいに存在そのものが神様のためにあるって認められたり。

 モンスターや獣が神聖魔術を使えるって事は、神様直々の眷属って証。そういう生き物は魔物ではなく神獣と呼ばれる。

 ラトナラジュという鹿は、ただの鹿でも魔物でもなく、神獣だったのだ。

 その神獣が友とした孤児を傷めつけたなんてのは、村が滅んでもそりゃしょうがない。しかも謂われなき暴力だったんだから。

 それなら村が滅んだ理由は神罰の執行だったんだろうか?

 それを口に出すと、ウイラさんが首を横に振る。


「んにゃ。神様はそんなお暇じゃねぇよ。関心もねぇしな。孤児が治してもらえたのは、対価にラトナラジュがその角を差し出したからさ」

「角?」

「ああ。血よりも赤い魔紅玉の角が目を引いたらしい。それを差し出すなら、治る部分は治してやるってな」

「治る部分だけ?」

「ああ。目は完全に潰れちまってて、腐り始めてたらしいからそこは無理って」


 言われた言葉を反芻して首を捻る。だって姫様の桃はエリクサーと同じで、エリクサーって切断された腕も生やすって言われてるんだよ?

 目が腐り始めてても、そんな治せない物じゃない筈だ。

 それを伝えると、ウイラさんがぎょっとした顔をする。


「いやいや、そんなめっちゃ強い神様だったらいけただろうけど。下級の神様はそんな桃とかもらえる立場にないし、渡す立場にもねぇよ。この近くに降りられてたのは、その辺の部族の人間が、部族の英雄を神様としてお祀りしたお方さ」

「ああ、キアーラ様と同じか……」


 なるほど。下級の神様は一民族の英雄が信仰心を集めてそうなる場合もあるのか。

 一人心の中で納得していると、ウイラさんがポリポリと頭を掻いていた。


「オメー、さては楼蘭のお偉いさんの子どもか? それも、今の話じゃ相当上の家の出だな?」

「いいえ。主神は豊穣の姫神におわす百華公主様です」

「え? あれ? 神聖魔術使えんだろ?」

「はい」

「マジか……。あのお方人間に恩寵とか与えんのな」


 しきりに感心したように頷きながら、ウイラさんは私の頭の天辺から足のつま先までを眺めると「ほ」っと呟いた。


「なるほど、お前強いんだな。神聖魔術なしでも、この下の階もどうにかなりそうだ」

「私だけじゃないですしね」

「うーん、そうだな。まあ、あのツレ達がいたらどうにかなんだろうけど、トドメはお前に刺してもらえると助かるんだけどよ」


 意味深なセリフに、私は遠くを見るだけだった。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] また切ない事態に巻き込まれるのでしょうか。 ハンカチ用意します。
[良い点] 「それは単なる鹿じゃないのでは?」 「じゃあ鹿かな?」 「それやっぱり普通の鹿じゃないやつ!」 の流れ笑いました、とてつもなく好きです。
[一言] あげはくん、最後に遠い目になっちゃってるのが、こういう事態に慣れちゃってますね。 ほんとにお疲れ様です(まだ終わってない)
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