縺れているようで、そうでない物
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次回の更新は、3/31です。
フロアを捜し歩いて、見つけた隠し壁画は二つだけ。
大きな木の下に立ってる少し大きい人間のような存在の前に、横たわる小さい人間っぽいのがいて、祈るように膝を折る四つ足の主。
その次の壁に描かれてたのは、小さな人間っぽい物が起き上がって四つ足の主と並んで木の下に立つ大きい存在に祈りを捧げている様子。
これが意味するのって……。
「沼の主が更に大きな存在のところに、孤児を連れて行った。そして孤児は治って大きな存在に主と共に感謝を捧げた……?」
「もしくは死んでしまった孤児を生き返らせてもらった……という感じですかね?」
どうも疑問ばっかりだ。
私も疑問形だし、別案のロマノフ先生も疑問形。
これ、どれもこれも掠りもしない話だったら笑えるな。
隠し壁画を二枚見つけた事で、地下一階は探索終了。地下二階へ下りたんだけど、ここにはアンデッドの気配はない。上の階でやった弦打の儀の浄化効果が地下二階にも波及していたみたい。
地下一階でも壁画を探すついでに、石畳に転がってる魔石を拾い歩いた。地下二階でも同じく魔石が床に落ちている。拾って歩くうちにセーフゾーンを見つけた。
丁度お腹も空いてきたしって事で、セーフゾーンでお弁当を食べることに。
料理長が朝早くから沢山作ってくれたんだけど、これが豪勢!
レグルスくんの好きな卵焼きもあれば、次男坊さんのところから貰った魚の焼いたのとか、ミートローフやミートパイ、キッシュなどなどに、鶏のローストまで!
パンもあればおにぎりもあるし、おまけに時間停止の魔術が掛かったバスケットだからアツアツを食べられるんだ。
最! 高!
ロマノフ先生がレジャーシートがわりに、ご自分が冒険に行く時に持っていくラグのようなものを床に敷いて下さって、ヴィクトルさんはお茶を温かいまま持ち運べる水筒みたいなのを出してくださる。
ラーラさんも冒険に行く時に持っていくクッションみたいなのを貸してくださった。
ちょっとしたピクニックなのに、ご飯は家で食べるぐらいにぬくぬくとか凄く贅沢。
いただきますと手を合わせて、パンに齧りつくと小麦のいい香り。でも私はもうちょっと焼いてある方が好きなので、魔術で小さく起こした火でパンを軽く炙る。
レグルスくんがそっとパンを差し出して来た。
「にぃに、れーのもおねがいしていい?」
「いいよ」
「ありがとう!」
パンを受け取って少し焼き目をつけると、ニコニコとそれをレグルスくんが受け取る。横を見れば紡くんが同じように、奏くんにパンを炙ってもらっていた。
先生達はパンはそのままだけど、お味噌をつけたおにぎりは焼くのが好きみたいで、おのおの好きに炙ってる。
「いやぁ、菊乃井って何が凄いって料理が美味しいんだよね」
「ですね。ハイジから田舎で特に珍しいものはないって聞いてたんですけど、食事の美味しさは格別ですね。帝都でもここまで腕のいい料理人にはお目にかかれないですよ」
「だよね。ボクも最初本当にびっくりした」
そういわれると鼻が高いよね。私の味覚を作ったのは料理長だし。
でも最近前よりもっと美味しくなった感じがするって先生達は続ける。それってどういうことかというと、野菜とかお肉その物の味が良くなったからだそうな。
すると奏くんが「ふふん」と得意げに笑った。
「それは農家の皆が魔術師さんと協力し始めたからだ。農業魔術を使う事で精霊の贈り物を若さまの家の菜園だけでなく、菊乃井の農家全体が受け取れるようになった。それで牛とか豚に食べさせてた餌の中に、その贈物で美味しくなった野菜の屑とか皮を混ぜたら、今度は肉が美味くなったんだ。そうしたら菊乃井の野菜や肉が高く買われるようになって、農家が儲かって、儲かったお金で魔術師さんに多く報酬を出せるようになって、また魔術師さん達が頑張ってくれるようになったからさ」
「循環してるんだねぇ」
ありがたい事だ。私の領主としての使命はその循環をより広げていく事だろう。頑張らないとな。
そんなこんなでご飯も食べ終わり、地下二階探索の再開だ。
地下一階と二階は然程フロアの造りに違いがないみたい。とすれば、壁画があったとしても隠されている可能性もある訳だ。勿論神聖魔術の使い手がいなければ、正しい絵が見られないって仕掛けもあるだろう。
心柱側の柱に沿って歩いた後、戻って来てその反対側の壁伝いに進んでみたり。
私だけで側を歩いていると、不意に隣に人の気配。
「ここはな、さっきと違ってなんもないぜ?」
だろうなと思ったけど、やっぱり眼帯の少年だった。
「何にもないってどういう事です?」
「ここは力試しの間って言ってな。こっから先に進むだけの、真実を知るだけの力があるかどうかを測るフロアなんだ」
「力って……魔術とか剣だの槍だのの腕ですか?」
「そ。この先は死者の世界だ。神聖魔術がないと絶対に詰むし、神聖魔術があっても力がなくちゃ詰む。ここの魔物で苦労するなら先には進めない。いや、進んでもいいが、彷徨う死体達の仲間入りをするだけだ」
「要するに、この階で苦労したら先には進まないだろうって計算で何かを施してあったってことです?」
ニヤニヤと話す彼にそう言うと、途端に眼帯の少年は苦笑いに表情を変えた。ぽりっと頭を掻いて、肩を僅かに落とす。
「そーいうこと。お前みたいに言わなくても色々解るヤツは久しぶりだよ」
「はあ、ありがとうございます?」
褒められてるのかよく解んないので疑問符を語尾につけておくと、少年がひらひらと「褒めてんだよ」と言いつつ手を振った。
そして真面目な顔に変わる。
「ここの心柱にはワザと魔物を集めやすくしたり、アンデッド化しやすくなる呪術が組み込まれてるんだ。毒をもって毒を制するってやつだな。それを潜り抜けた猛者だけが、この先に進めるのさ」
「それだけ知られたくない物が眠ってる、と?」
「それは……そうでもあるし、違うとも言う」
謎かけのような言葉だ。
っていうか、謎っていうなら彼もなんだよな。神出鬼没だし、何より私、彼に聞いてない事あるし。疑問は一つずつ潰していこうか。
彼の顔をじっと見て、私は口を開いた。
「今更なんだと思われるかも知れませんけど」
「うん?」
「どちら様なんですか?」
そう言った途端、少年がぷはっと噴き出す。何かツボに入ったっぽく「今更!?」ってめっちゃ笑い出した。だよねー、私も「そこから!?」とか思ったわ。
でも肝心なことなんだ。だって私、人の名前尋ねないってほぼないから。ワザと尋ねない時はあるにしても、それは明らかにこれからドンパチやろうって相手であって、彼はそれに当たらない。でも私は名前を聞いてない。明らかに我ながら不自然だ。
だからって彼に不審感があるんじゃないのが更に不思議。
彼はゲラゲラ涙まで流して面白がってるけど、馬鹿にされてる雰囲気でもないしな。これ、笑い治まるまで待たなきゃいけないやつかな。
そう思っていると。くの字に身体を曲げ腹を抱えて笑っていた少年が、ひーひー言いつつ笑いを堪え始めた。
「いやー、うん、そうだな! 名乗ってなかったな。俺はウイラっていうんだ」
「ウイラさん。私は菊乃井鳳蝶です」
「若さまって呼ばれてたけど、どっかの偉い人の子どもか?」
「そんなようなもんです」
嘘を吐く必要はないんだけど正直に言うと、最近警戒されるか変に感激されるかなんだよな。
私の言葉にウイラさんは「そうか」と答えた。そして鼻の下を指先でこする。
「で、他にも聞きたいことあんだろ?」
「ええ」
さてさて、何から聞こうかな?
お読みいただいてありがとうございました。
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